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(164) 浜野 慶一

「おもてなしの心」で地域に根ざしたものづくりを推進

「おもてなしの心」「スピード・実行・継続」をキーワードに、常にものづくりに挑戦し続けている株式会社浜野製作所の代表取締役 浜野慶一社長。2000年6月に近隣の火災によって本社兼工場が全焼し、絶望の淵に立たされながらも、地元墨田区に密着した事業展開で会社を再生し、今では墨田区を代表するオンリーワンの企業に成長した。多品種少量生産から量産までの受注生産体制を築き、先進的な町工場へ変貌を遂げたわけであるが、浜野社長の経営手腕は高く評価され、その功績は数々の受賞が物語っている。墨田区の優良工場はじめ、「東京都中小企業ものづくり人材育成大賞奨励賞」、海洋立国推進功労者表彰(内閣総理大臣賞)、経済産業省「攻めのIT経営中小企業百選」選定など、枚挙に暇がない。浜野社長が進める地域密着型の経営は、業種こそ違えども、印刷業界にも参考になる面が多々ある。経営の考え方、進め方について伺った。

浜野 慶一氏

浜野 慶一HAMANO KEIICHI

PROFILE

1962年東京都墨田区生まれ。1984年東海大学政治経済学部経営学科卒業。同年都内板橋区の精密板金加工メーカーに就職。1993年創業者・浜野嘉彦氏の死去に伴い、(株)浜野製作所 代表取締役に就任。2003年墨田区優良工場として「フレッシュゆめ工場」のモデル工場に認定。2014年、経済産業省「平成25年度おもてなし経営企業」選定、「江戸っ子1号」プロジェクトが海洋立国推進功労者表彰(内閣総理大臣賞)受賞。同プロジェクト推進委員会副委員長。

『おもてなしの心』で地元に信頼される先進的な町工場を築く

——御社は、「『おもてなしの心』を常に持ってお客様・スタッフ・地域に感謝・還元し、夢(自己実現)と希望と誇りを持った活力ある企業を目指そう!」を経営理念にしていますが……。

浜野実は2000年6月に、当時の本社兼工場が近隣の火災によるもらい火で全焼した過去があります。その時に、近隣の方から応援や援助をいただいたり、発注を続けてくれたお客様がいたりして、それらの方々の支えがあったからこそ、現在の弊社が存在していると感じています。その心情を明文化したのが経営理念になります。

——墨田区で町工場を経営されるのは、人・モノ・お金の面から、なかなか大変だと思いますが……。

浜野墨田区に限らず東京は土地代や人件費、製造コストなどがかさみますから、ものづくりには適さない地と言えます。反面、東京は情報が集まりますし、大学をはじめとした研究機関がとても多い場所でもあります。今後もこの地でものづくりをしていく以上、研究機関などとうまく連携していくことが重要だと考えています。ですから、弊社では新たな分野への進出や技術の習得を視野に入れて、都内の大学やベンチャー企業とも積極的にものづくりを行っています。

——ものづくりについては、どのように取り組まれていますか?

浜野父は量産型のものづくりを主体にしていましたが、市場は量産型の製品の生産拠点が海外に移っていくようになり、日本での単価が高騰し請け負うのが厳しくなってきたのです。大量製品の製造加工は、安価で受注する工場に流れていくようになりましたので、多品種少量に目を向けて、海外になかなか委託できないようなものづくりにシフトしていくことにしました。それで1990年代から、精密板金の試作工場(第二工場)を建てて、レーザー加工機やベンダー加工機、溶接機、CAD/CAMシステム等の設備を導入し、従来の量産型製品と並行して多品種少量生産の事業を創意工夫の精神で展開しています。

お客様からご相談があれば、企画・開発・設計から試作・量産・組立・メンテナンスまで、どんなことでもご要望に応じてトータルでサポートすることを、全社一丸となって取り組んでいます。 

——なるほど。2003年には墨田区から優良工場として「フレッシュゆめ工場」のモデル工場に認定されるなど、その後は数々の賞を受賞されるほどの会社となりましたが……。

浜野墨田区で生まれ育ったわけですから、経営理念にもありますように、地域に感謝・還元することに注力してきたことが認められたのでしょう。「皆様に必要とされ、信頼される会社」を目指して、図面制作から相談を受け、図面起こし、製造、最終製品の組み立てまで、お客様の要望にきめ細かく対応させていただいた結果だと思っています。地元墨田区を中心に地域経済の活性化や環境問題に取り組むなど、地域に密着した活動も行ってきました。

採用は仕事を体感し社員と交流するインターンシップで

——今は40名(2016年11月現在)ほどの社員を抱えられ、着実に成長されているようですが、若い人を雇用・育成し、定着させる秘訣というのは?

浜野とくに秘訣というものはありません。ただ、私のものづくりに対する想いをきちっと若い人に伝えていくことを大事にしています。採用ではたまたま若い人が多くはなりますが、基本的に仕事は、性別や国籍、年齢、学歴でするものではないと思っていますから、弊社の経営理念に共感してもらって、人が集まってくれているのだと思います。そして、やりがいを感じて仕事を続けているのではないでしょうか。

——インターンシップ制度を活用されていらっしゃいますが……。

浜野インターンシップの一般的な意味合いは、学生と企業との間でミスマッチが生じないよう、学生に仕事の内容をきちんと理解してもらって、職業を選択してもらうことになります。弊社では、春休みと夏休みの年に2回、大学や国立高専の学生に対して、仕事の中身や働いている工場環境であるとかを体感することや、社員の性格などを知ってもらうために、インターンシップを実施しています。自分の性格や感覚に合っているかどうか。仕事が楽しいかどうか。この会社で具体的にこんな仕事や製作をやってみたいと思うかどうか。それらを見極めてもらっています。ですから、単純に面接をして一方的にこちらから会社の話をするのではなく、事前に弊社の事を調べてもらってからインターンシップで来てもらって、一定期間仕事を体験する中で、入社したときにどのような仕事や製作をしたいのかを、具体的に描いてもらうことを望んでいます。そして、仕事を通じていろいろな社員と話して、その上で弊社に入社したいと言ってくれる学生から採用するようにしています。

——スタートアップ支援という事業にも積極的に取り組まれていますが、この目的は何でしょうか?

浜野新しいビジネスを育てていくのがテーマです。個人のガジェット開発から本格的なプロダクト開発を目指すベンチャー企業まで、製作の部分で支援しています。設計・試作品づくりのサポート、製作でのアドバイスなどをさせてもらいますが、なかにはそのまま製品として製作し弊社で量産化を目指していくケースもあります。インキュベーションの支援では6社、インキュベーション施設「Garage Sumida」が2014年に出来てから、この2年間でおよそ200~300社程度支援し製作してきました。

——地域に密着したものづくりに関する事業を展開されていらっしゃいますね。

浜野ええ。基本的には人材教育と販路開拓のために行っています。全てをお話しするのは難しいですが、墨田区内の企業から排出される「廃材」を再利用して「配財」にするプロジェクトでは、ものづくりの体験ワークショップ、配財アート作品展、すみだファクトリーめぐり「スミファ」などのイベントを開催しています。

また、「ものづくり」と「観光」を融合した子供向け職人体験ワークショップ「アウトオブキッザニア in すみだ」も夏休みを中心に開催しています。工作機械と最先端の技術を使って、ステンレスの板から東京スカイツリーの模型を製作するプログラムになります。子供を連れて来られたお父様から好評を博し、後にお父様の会社から仕事を受注するケースもあり、実際の売上に繋がったこともあります。

2013年8月には、墨田区内の企業が実行委員となって企画し、私が実行委員会会長となって、全国各地の中小企業約160社の出展を得て「スモールメイカーズショー in すみだ」を開催しました。

工場見学会、交流会、さらにはベンチャーの新しいアイデアの具現化を企画・主催することで、弊社のものづくりのPRになりますし、多くのメディアを通じてものづくりの情報を発信することができ、墨田区の地域貢献にもなると考えています。

プロジェクトや情報発信に注力し企画・提案からトータルサポート

——ところで、産学官連携の新しいプロジェクトにも参加され、共同開発されていますが……。

浜野はい。東京スカイツリーの開業に合わせて、葛飾北斎にちなんだ電気自動車「HOKUSAI」を、墨田区と早稲田大学、さらに区内中小企業と共同開発しました。その後公道を走れる1人乗りEV「HOKUSAI-Ⅲ」を完成させ、スカイツリーを周遊させることができ、墨田区の他の中小企業と共に、技術力の高さをアピールすることができました。また、2013年には海洋研究開発機構、芝浦工業大学、東京海洋大学、東京東信用金庫、地元の中小企業等と、水深8000mの深海にも耐えうる無人探査艇「江戸っ子1号」を開発しました。同年11月には深海約8000mで世界初の3D撮影に成功し、大きな注目を集めました。

——印刷会社との連携や協業について、さらにアドバイスもいただけますか。

浜野墨田区の株式会社サンコー様と共同運営しているデジタル版画ワークショップを、11月22日にオープンした、すみだ北斎美術館で開催しました。当ワークショップは、オープン記念イベントとして、墨田区共催のもと特別にオープン前の美術館でさせていただきました。当ワークショップは、昨年7月、見学ツアー型ワークショップとして実施した「デジタル版画で神奈川沖浪裏を刷ろう!」の復刻版になっています。

デジタル版画はサンコー様の色分解技術でデータを作り、弊社のレーザー加工機で一色一版の版木にして制作しました。最新のデジタル機器で版画を再現して、江戸時代の版画の技術を現代の皆さんに体験していただくという主旨のワークショップでした。実際に皆さんに版画制作をしてもらうと、北斎の実物のクオリティがどれくらい高くて付加価値のある作品であるのかを、実感していただくことができました。

現在、数多の印刷通販が市場を席巻しつつあり、それによって印刷物の価格競争は激しくなっていることを感じます。印刷会社さんも私たちと同様、大量印刷で勝負するのではなく、多品種少量の分野、付加価値のある媒体制作に重きを置いたビジネスにシフトしていく必要があるのかなと思っています。

弊社はお客様から依頼されてものをつくる製造業になりますが、これからは企画や製造の提案など、情報の上流から仕事に関わって、お客様により良いものを作れるようなサポートに注力していこうと考えています。それと下請け体質からの脱却、また、社会的に意義がある製品を世の中に提供していこうとも思っています。これらのことは印刷会社さんにも言えるのではないでしょうか。

「浜野製作所」のWebサイト

「浜野製作所」のWebサイト
http://hamano-products.co.jp/

これからは企画や製造の提案など、情報の上流から仕事に関わっていきたい

———— 浜野 慶一