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(166) 阿井 辰哉

3Dプリンターの新しいものづくりの手法を提唱する

3Dプリンターの市場は、近年はマニュファクチャリング向けプロフェッショナルタイプの3Dプリンターが、さまざまな分野でものづくりの機運を高めていて、One to Oneマーケットの上昇とともに、今後も伸展していくことが予想されている。そのような状況下、3D関連製品の販売から3Dデータの作成・加工・編集、3Dスキャニング、3Dデジタル造形など、3Dプリンターを中心としたデジタルソリューションのビジネスを展開しているのが、デジタルファクトリー株式会社(東京都台東区)である。代表取締役の阿井辰哉さんは、『DRS(Digital Revolutionary Solution)』という最先端のデジタル技術とアナログ技術、ヒューマンスキルを融合させた「新しいものづくり手法」を提唱し、3Dプリンターによる試作、設計をビジネス展開している。阿井社長に3Dプリンタービジネスについて話を伺った。

阿井 辰哉氏

阿井 辰哉AI TATSUYA

PROFILE

1964年東京都生まれ。1986年東海大学土木学科卒業後、CAD周辺機器メーカーの日本カルコンプ㈱で新規開拓・チャネル開拓営業に就く。2003年PDF変換ベンチャー企業でコピー機のカスタマイズ製品を開発、販売。2004年Objet社(現Stratasys社)の国内3Dプリンター会社を立ち上げる。2009年4月、デジタルファクトリー㈱を設立し代表取締役社長に就任。「DRS」をモットーに、最先端のデジタル技術とアナログ技術、ヒューマンスキルを融合した「新しいものづくりの手法」で、顧客の製品開発の短縮とコスト削減を目指す。

デジタル技術とアナログ技術とヒューマンスキルを融合させる

——3Dプリンターに関するビジネスを始められた経緯について教えてください。

阿井長年プロッターの販売に携わってきたのですが、前職で大判のインクジェットプリンターの販売に従事しました。でも、これからは3Dプリンターが伸びていくだろうと、2009年4月に当社を設立し、3Dプリンター、3Dスキャナ、編集ソフト等の販売に乗り出したわけです。ところが、リーマンショックの影響もあって数千万円もする高額の3Dプリンターがなかなか売れず、厳しい状況を強いられました。そんな折に3Dプリンターを納入した玩具メーカーから、3Dデータづくりを一緒にしようというお話をいただき、協同でデータ作成に注力していくことになり、3Dプリンターの販売だけでなく、いろいろな玩具の製作にも携わることにしました。これからはデータづくりがキーワードになることは承知していましたので、3Dデータの作成・加工・編集の業務も行うことで、3Dプリンター関連ビジネスを手広く手掛けていくことにしたのです。社名もデジタルファクトリーですので、ハードとソフトの販売とデータづくりの2本の柱を事業とする“デジタル工場”を目指しています。

それで玩具メーカーさんと一緒に歩んでいくに当たって、新しいものづくりの手法の「DRS(Digital Revolutionary Solution)」(商標登録済み)というデジタル革命を提唱しました。アナログ技術をデジタルに置き換えられるものは積極的にデジタル化していくことにしました。しかし、ものづくりを全てデジタルで進めていくことは難しいわけでして、匠の技と言いましょうか、出力した立体造形物では色を塗ったり削ったりする仕事が生じます。そこには人のアナログ技術が不可欠です。また、ヒューマンスキルという人間力も重要になります。製品に温かみを持たせること、製品への思い入れは人の力に掛かってきますから、最先端のデジタル技術とアナログ技術、ヒューマンスキルを融合した新しいものづくりを、お客様と一緒に実証・検証し、製品開発期間の短縮化やコスト削減を図っていくことにしました。

——なるほど。それではものづくりの企画の段階から関わっていくということですね。

阿井お客様は企画の段階では印刷会社さんが使っている専用のCGやPhotoshop、Illustratorのソフトを使って作成します。しかし、次の段階の製品設計や詳細設計、機構設計、金型設計に移りますと、お客様はそれぞれ異なるソフトを使って設計していることが多々あります。各ソフトのデータ変換によって、試作段階で作成したデータが実証され量産した際に、デザイナーの意図と違う製品になってしまうことがあるわけです。そこで当社では、その問題をクリアするために、企画、試作の段階から量産品へのデータづくりを意識した設計を行い、互換性のある正しい出力ができるようにしました。

3Dデータづくりのスキルは必須で人材確保と育成が重要になる

——いわゆるワンストップサービスということでしょうか?

阿井そうですね。そうすることによって、途中の設計コストの削減や、データづくりの時間短縮化に繋がり、お客様にメリットを享受していただいています。お客様の業務フローを聞かせていただき、一度テストで3Dデータを作って出力したりします。また、3Dプリンターや3Dスキャナに興味があるお客様には、当社のほうで出力テストやデータを検証されて、その出来栄えを見ていただいた上でメリットがあると判断していただければ、3Dプリンターや3Dスキャナなどの機械を買っていただくという方針で販売しています。その際には最適な3Dプリンターの機種を選定するお手伝いもしています。

——やはりデータづくりが重要なのですね。

阿井ええ。基本的には二次元も三次元も同じなのですが、デジタル化するに当たって正確なデータを作れないと商品価値が生まれません。二次元のインクジェットプリンターはさまざまなメーカーで機械が開発され販売されていますが、技術的にも品質的にも大きな差がないと思うのです。しかし、3Dプリンターに関してはメーカーや素材、出力の方式によって出来上がりがかなり違ってきます。そうなると、ますます3Dデータ作成がポイントになって、その比重が高まっていくことになると考えています。

印刷会社さんや複写業者さんは、これまでインクジェットプリンターで出力業務をされてきたわけですが、今後3Dプリンターを導入し、立体物の製造に関するビジネスを考えているのであれば、3Dデータが作成できるノウハウが必要になってきます。それと、お客様の要望もそれぞれ異なってきますから、印刷のような大量生産型のビジネスと同じようにはいかないでしょう。単にスキャニングサービスができるとか、3D造形サービスが行えます、という観点から、安易にビジネスを始められるのは危険です。しっかりとしたスキルを持って完全なデータづくりが行える体制にしておかないと、事業として続けていくことは厳しいと言えるでしょう。

——3Dプリンターを使ったビジネスモデルとしては、どのようなものが考えられるでしょうか?

阿井特定の業種やお客様に特化したビジネスが考えられます。例えば、コピー業で言えば、顧客の会社に入り込み急な案件やスピードが要求されるデータづくりをサポートするインプラント(工場内印刷センター運営)がありますが、3Dプリンターでも同様に、得意先の仕事を3Dプリンターで出力するインプラントは、1つのスタイルとして可能性があると思います。インプラントを望むお客様は、セキュリティを重要視し守秘義務を求めますから、それらの要望に応えられるサービスが可能であれば、営業次第で道が拓けるかもしれません。

——確かにインプラントで顧客の会社に入り込む方法は有力かもしれませんが、印刷ビジネスと複合して取り組みたいところがほとんどだと思われます。

阿井一気に3Dビジネスを立ち上げて受注していくのは難しいので、UVのインクジェットプリンターと3Dプリンターを融合させて、お客様のニーズをくみ取っていく中で、3Dの立体造形物の製作も請け負っていく方法を考えてみるのが良いかもしれません。UVインクジェットプリンターは布やガラス、革などの素材に印刷できるようになっていますから、その分野を得意にしていれば、その延長線上から立体物の販促品の企画・製作を提案することはできます。お客様のほうから相談があった場合に対応できるように、3Dデータの作成ができる体制を築いておけば、仕事が入って来る可能性はあると思います。

小ロット、オンデマンドで対応し付加価値のある製品でビジネスを

——いずれにしても3Dデータを作成できる能力を持っておくことが大事なのですね。

阿井はい。3Dプリンターの出力は、機械さえあれば誰もが簡単に出力できますが、元になる3Dデータは技術がないと作れませんし、また、正確なデータ作成が行えないと、出力したときに商品・製品になりません。3D-CADや3D-CGソフトを使って正確に3Dデータを使える技術は不可欠です。また、お客様から3Dデータが支給されて出力する場合も、そのデータが正確に作成されているのかどうかを、チェックできる体制があるかどうかも問われます。3Dデータ制作ではいかに正確なデータづくりができるかどうかが最も大切な要素になってきます。さらに、付加価値を高めるのであれば、デザイン面や複雑な形状にも対応できる個々のスタッフのスキルも求められますから、人材の育成・採用も非常に大切になってきます。

——商品で言えば、フルカラーのフィギュアについ目が行ってしまうのですが・・・。

阿井フィギュアはデータづくりが大変ですし、常にお客様がいるとは限りません。一体造るとそれで満足してしまうお客様が多く、フィギュアをコンスタントに製作し、ビジネスとして成り立たせるのは現段階ではかなり難しいと考えています。もちろん、なかには先駆者としてフィギュア製作をビジネスにしている会社が数社ありますが、そういうところと勝負していくには、設備投資やスキルに注力し、そのような先駆者の企業と価格競争していくことになりますから、印刷業以上にランニングコストが高くつきますので、却って厳しい市場環境に見舞われるのではないでしょうか。ですから、3Dビジネスを始められるのであれば、まずはきちんとデータが作れてお客様の要望に応えられるような体制を築いていくほうが、付加価値の高いビジネスが望めると思います。

——3Dプリンターの使い道を考えた場合、どのような分野が考えられるでしょうか?

阿井真っ先に考えられるのがパーツです。ネジが紛失したとか、製品の一部が欠けたとか、それらのパーツのデータと3Dプリンターを持っているのであれば、お客様自身で出力してパーツを作ることができます。もちろん、3Dプリンターで出力したクオリティで満足できるというのが条件にはなりますが、このように自宅や企業でパーツなどを作れるようになります。また、ビジネスとしては、金型のデータをデジタルでアーカイブ化して、部品を保管する倉庫を一気に無くすことができます。お客様が欲しい時に必要な金型を作ってあげることも考えられます。

——作りたい時に欲しい数だけ作るというオンデマンドの考え方ですね。

阿井はい。2Dの印刷と同じです。オンデマンドで小ロット生産というスタイルです。いかに付加価値を付けるビジネスを3Dプリンターで考えて、実現していくかが鍵となるでしょう。

3Dビジネスを始めるには3Dデータ作成の技術と体制が不可欠です。

———— 阿井 辰哉