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(158) 相馬 達也

3D市場の成長には3Dデータの活用が欠かせない

20年以上にわたって、CAD・CAM・CAEソフト会社の立場から、工業デザイン、設計・製造、生産分野の3D化に携わってきた相馬達也さん。2007年に3Dデータを活用した産業の普及・振興に取り組む業界団体「一般社団法人3Dデータを活用する会・3D-GAN」を設立し、産業の発展にも貢献している。今後、3Dプリンター産業が拡大するには、「誰もが3Dデータを作成し、3Dプリンターで出力したいというニーズが出てこなければならない」と説く。しかも、「納期や数量、コストなどの条件に当てはまる必要がある」と言う。現在、3Dモデリングでミニ四駆のボディを作る講座を開いて、3Dデータと3Dプリンターに関心を持ってもらうことから始めているが、そんな地道な普及活動が重要だと指摘する。相馬さんに3Dプリンターについて話を伺った。

相馬 達也 SOMA TATSUYA

PROFILE

1969年栃木県生まれ。1991年関東学院大学卒業。CAD/CAM/CAE企業において工業デザイン・設計・製造・生産分野の3D化に携わる。株式会社グラフィックプロダクツ執行役員兼株式会社リアルファクトリー代表を経て、2007年に株式会社ツクルスを設立し、代表取締役に就任。同年、「一般社団法人3Dデータを活用する会・3D-GAN」を設立し理事長に就任。従来の枠に囚われず、業種間を越えて3Dデータを作成し3Dプリンターでモノを作る楽しさを支援・啓蒙している。

3Dデータからモノを作る楽しさを知ってもらう

——3Dとどのように関わってこられたのでしょうか?

相馬93年に3D CADのソフトウェア会社に入り、大手メーカーの設計、製造、解析に関する2Dデータの図面を、3Dデータに置き換えるソフトウェアの開発・販売に携わったのが、3Dデータとの出会いです。以後、今日まで3Dと関わってきています。3Dデータは、工業デザイン・設計・製造・生産・建築・土木・宝飾・アクセサリーの分野においては、CADという呼び名で浸透しています。一方、アニメーション・映像・立体視映像・画像・ゲーム制作・地図情報・医療の分野では、CGという呼び名で一般化しています。すでにそれぞれの産業分野で3Dデータは欠かすことのできない存在になっています。

——2007年に「一般社団法人3Dデータを活用する会・3D-GAN」を設立されましたが……。

相馬あらゆる産業が従来の構造から変革を迫られるなか、3Dデータを共通項とすることで、異業種との交流・融合を図り、新しい製品、新しい事業、ひいては新しい企業文化を創造していければと、3Dを振興させる目的でこの団体を設立しました。業種の壁を越えて、共感していただける会員の方で構成されています。

——具体的にはどのような事業を展開されているのでしょうか?

相馬セミナー、展示会、講演活動はじめ、会員の各種相談に対応しています。また、会員企業向けに、ショーケースで会員企業の製品委託販売・展示や、事務局に設置してある3Dプリンター、3Dスキャナ等の機材を優待価格で利用できるようにしています。また、事務局のスペースをミーティングや打ち合わせの場所として無料で貸し出しています。

しかし、3Dデータの市場を拡大するためには、一般の人たちに興味を持っていただくことが大事だと考え、株式会社タミヤさんの協力を得て、3Dモデリングしたオリジナルのミニ四駆のボディを作る講座を開催しています。昨年度までは「3Dプリンターでマイミニ四駆をつくろう! 親子工作体験教室」と題して、親子で参加してもらい、楽しく3Dモデリングを学ぶ機会を提供してきました。今年度は、ミニ四駆のオリジナルボディを作る講座を設けていて、5月に静岡市で開催し、その後東京、新潟、名古屋など各都市でも開催を予定しています。まずは3Dでモノを作る楽しさを分かってもらって、関心を持ってもらうことが、市場を拡大していく上で一番だと考えているからです。題材にミニ四駆を選んだのは、複雑な造形であり、子供から大人まで幅広い人たちに興味を持ってもらえるからです。

——なるほど。近年、パーソナル市場では卓上型の安価な3Dプリンターが出現していますが……。

相馬3Dプリンターは産業用、パーソナル向けというように、はっきりと線引きされているわけではなく、グラデーションのように境目がなく両者は繋がっていると言っても良いでしょう。印刷業ではデザインし、どのような印刷物を作るかという分野と、デザインしたものをどのように綺麗に安く印刷するかという分野に分かれていると思いますが、実は製造業でも同じことが言えるのです。何を作るかという話と、どう作るかという話は違うものになっています。極端に言えば、何を造るかという設計に関する業務は国内で行い、設計したデータが完成したら、あとは外国で安く生産するというように分かれています。

1個や小ロットになればクオリティが求められる

——数年前の3Dプリンターブームというのは、業界にどのような影響をもたらしましたか?

相馬テレビやメディアで報じられたことで、3Dプリンターの存在と、3Dプリンターに関する情報や話題が非常に増えたことは、業界にとっては喜ばしいことでした。それによって実需が増えて、マーケットとしてそれなりに成長したことは確かです。業界関係者にとっても、3Dプリンターの安さに気が付くきっかけとなりましたし、導入で政府補助金が活用できる点もメリットになりました。そのようなことが改めて認識されるようになった点は大きかったと思います。ただし、3Dプリンターは加工法の一部であって、他の加工法を陳腐化させるほど革新的なものではないということです。印刷でいうところの「版」に当たる金型は、大量生産するためのもので、そのスピードに3Dプリンターは歯が立ちません。3Dプリンターでは手のひらに乗る小さなモノでも、1個作るのに1時間半は掛かってしまうわけです。これを仮に1万個作るのに、3Dプリンターを使うことはありえないわけですよね。今後、3Dプリンターは進化していくでしょうが、モノを作るに当たっては、納期や数量やコストなどの条件が大前提になってくることは変わらないと思います。それらの条件に合った場合のみに、3Dプリンターがビジネスとして成り立ってくると言えるでしょう。

——では、1個ないし数個作るマーケットではニーズは出てくると思われますか?

相馬ええ。その際にポイントになるのがクオリティです。数が少ないということは、当然、クオリティが求められてきます。低価格の3Dプリンターは、商品価値のあるクオリティに達しているとは言えず、試作品程度と言わざるを得ません。1個だけ作るのであれば、金型を作る必要がないために、3Dプリンターのほうが手早くできて低コストで作れるメリットがありますから、試作品の製作には適しているわけです。現在、3Dプリンターを使っている現場では、そのような条件が当てはまったために活用されているわけです。設計・製造している企業が、現在作っているモノのクオリティならば、3Dプリンターで十分だと気が付いてもらう、あるいは妥協してもらう状況にならなければ広がっていかないでしょう。

しかし、条件にはまるモノづくりがあまりないということが、市場が拡大していかない要因です。これは印刷業にしても同じだと思うのです。数百部しか刷らなくて、しかもできるだけ安く仕上げるとなると、オンデマンド印刷機を使うことになるでしょうし、一方、15万部の出版物を来月発売となると、オフセット印刷機ということになるはずです。使うデータは同じであっても、使う印刷機は異なってきますから、3Dプリンターも同じことが言えるわけです。

地道な活動で3Dデータの活用を促していくことが大切に

——将来、3Dプリンターの出力センターのようなものが出現する可能性はあると思われますか?

相馬例えば、ミニ四駆のようなモノが20分~30分くらいの出力時間で製作できて、しかも、販売価格が800円程度になるのであれば、大きな市場になると思いますから、出力センターが各所に生まれてもおかしくないでしょうが、それは非常に難しいと思います。しかし、いまコミックマーケットには多くの人が関わっています。漫画を描いている人たちのほとんどがデジタルで描いて入稿しています。しかも一般読者だけでなく、印刷・出版業界からも多くの企業が参入していますから、大きな市場を形成するまでになりました。漫画を描いたり読んだりする人たちが、何十万人もいるとすると、その100分の1程度でいいですから、3Dプリンターでモノを作る人が数百人や千人増えただけでも、“激増”と言えるのが実態です。3Dプリンターの世界はそれだけ小さいわけですから、裏を返せば、一気に広がる可能性を秘めています。問題は3Dプリンターの機械ばかりに囚われていて、肝心の3Dデータを作ることの重要性が抜け落ちている点です。3Dデータを作れる人の育成や、業界を形成する企業などが3Dデータの市場を推進していくことが大切であって、機械は後から考えれば良いのです。

——まずは3Dデータが重要だということですね。

相馬ええ。いまは肝心な3Dデータに話が及んでいない状況にあります。3Dデータをモノとして出力したいというニーズが発生してこないと、市場は成長しません。印刷業界ではデジタル入稿が普及しましたから、デジタル印刷市場が拡大しました。それと同じように、3Dデータを誰もが作成できる環境になれば、3D市場が形成されてくるのであり、3Dプリンターの機械ばかりが取り上げられている限り、市場は成長していかないでしょう。

——そこで、「3Dデータを活用する会・3D-GAN」によって、3Dデータ作成のサポートをしていこうとされているのですね。

相馬はい。私たちは、まずは3Dデータに関心を持ってもらうことが大切だと感じています。そして、将来は多くの産業分野で3Dデータを活かしてもらうために、さまざまなサポートをしています。3Dデータを作る楽しさを知ってもらうことは啓蒙活動の一環であり、将来に繋がっていくと考えています。結局、3D市場の裾野を拡げていくには、地道な活動を続けていくしかありません。

一般社団法人3Dデータを活用する会・3D-GANのホームページ

一般社団法人3Dデータを活用する会・3D-GANのホームページ
http://www.3d-gan.jp/

問題は3Dプリンターの機械ばかりに囚われていて、肝心の3Dデータを作ることの重要性が抜け落ちている点です。

———— 相馬 達也

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