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GCJパーソンズ

(162) 久嶋 正裕

企業に信頼厚く高評価のペーパークラフト作家

アマチュアの趣味としてから、アートとして制作するクリエイターまで幅広い層に普及しているペーパークラフト。久嶋正裕さんはノベルティから大型展示物まで、企業のオリジナルのペーパークラフトを手掛ける第一人者である。作品のクオリティの素晴らしさは言うまでもなく、顧客の要望に応え、納期を厳守し、顧客の販促や売上に貢献するペーパークラフトを制作することを信条にしている。そのことから顧客の評価も高く受注が途切れることはない。企画から商品化までトータルで対応し、より良いものを作るために提案もしている。そんな久嶋さんがペーパークラフトの世界に入ったのは、意外と遅く30代半ばであった。ある日テレビを観て突然作ってみたくなったのが契機だ。ペーパークラフトを仕事にした経緯、仕事の仕方など多角的に話を伺った。

久嶋 正裕 KUSHIMA MASAHIRO

PROFILE

1967年山梨県生まれ。駒沢大学法学部法律学科卒。広告企画会社を経て広告代理店でデザイナーとして勤務。2000年ペーパークラフトの制作を開始。2002年ペーパークラフト専門サイト「へっぽこ・ペパモ工房」を開設。独立後、2010年6月同サイトを「紙模型工房」に変更し代表に就く。ペーパークラフトの設計・制作・販売。2013年著書「戦艦大和をつくる」(トランスワールドジャパン(株))を発刊。

イージス艦を制作し展開図を提供したのが契機に

——ペーパークラフトとの出会いは?

久嶋今から16年ほど前に、テレビのニュースでイージス艦が紹介されたのを観た時に、その角張った形状から紙で作れそうだと思って作ったのが最初です。当時は今のようにCADソフトは持っていませんでしたから、イージス艦の写真を見ながら寸法の見当を付けて、Adobe Illustratorで直接展開図を描いて制作しました。そうして出来上がった展開図を組み立てたところ、せっかく作ったわけだし、興味のある人に提供しようと、ペーパークラフト専門サイト「へっぽこ・ペパモ工房」(その後「紙模型工房」)を立ち上げて、展開図を公開し無料でダウンロードできるようにしたのです。

——初めて作られたわけですから、かなり苦労されたのではないですか?

久嶋苦労と言えば、展開図を制作することよりも、戦艦ブームが来る前の時代でしたから、イージス艦に関する資料がほとんどなかったために、インターネットから資料を拾い集めてくるのが大変でした。そのことに半分以上時間を費やした覚えがあります。作業は完成を想像して自分で展開図を描き起こすのですが、それでも1ヶ月程度で完成し、公開することができました。初心者でも楽しみながら組み立てられるよう、Web上で写真付きの解説も載せて、展開図を無料で提供したのですが、ものすごい反響がありサーバーがダウンするかと思いました(笑)。

——それは凄いですね。いきなりペーパークラフトを作ることができたのは、元々才能があったからではないでしょうか?

久嶋さあ、どうでしょうか。ペーパークラフトの知識は持ち合わせていませんでしたし、TVでたまたまイージス艦を観てペーパークラフトにしたら面白そうだなと思って作ってみただけです。広告代理店に勤務しグラフィックデザイナーとしてDTPの仕事をしていましたから、ソフトウェアの操作には慣れてはいましたし、デザイナーの仕事が活かされたのかも・・・。その後、次々とペーパークラフトを作っては展開図を公開しました。

全長約30mの関西国際空港のジオラマ制作を請け負う

——なるほど。仕事の合間に制作するのは大変だったと思いますが?

久嶋ええ。趣味として始めたわけですが、ホームページを見ていただいたお客様からオリジナルでペーパークラフトを作ってほしいという声が掛かるようになり、趣味では到底できなくなってきたわけです。昼間に打ち合わせをする時間が取りたいこともあって、2年後には会社を退職して、ペーパークラフトを本業にすることにしました。

——受注したオリジナル作品で代表作となったのは?

久嶋フリーになってまもなく、関西国際空港のジオラマの制作依頼を請け負ったのが転機となりました。空港内の学習施設に実物の1/72サイズ、全長約30mの巨大ペーパークラフトを制作するというもので、おそらく国内最大規模ではないかと思います。普段は入れない場所に入って仕事をさせてもらいましたから、良い経験になりました。とにかく朽ちかけた青焼きの手書きの設計図程度しか資料がなかったので、展開図を作るために、現地の空港に何度も出向いて山ほど写真を撮ったり、既存の衛星写真からサイズを割り出して設計して制作するのですが、私1人ですし、ほぼ手作業でしたからかなり大変でした。とにかく約3ヶ月間、羽田と関空を行ったり来たりして仕事をしたことを覚えています。常設展示ですので現在でも関西国際空港の展望ホール「Sky View(スカイビュー)」の3階、学習施設で、空港の仕組みなどを解説するのに使われています。

——そうですか。ところで、通常の作品の仕事の流れについて教えてください。

久嶋Webサイト経由で、電話かメールで発注していただきます。都内近郊なら会って打ち合わせをさせていただくこともございます。お客様の希望される形状、条件、作成部数、印刷の有無、刃型抜き加工の有無、使用目的、納期など、必要な情報を聞いて見積書を提示します。正式に注文をいただきましたら、制作するモノに関しての資料を、お客様から入手したり、自分で集めたりします。そして3DソフトとAdobe Illustratorを使って展開図を設計します。完了しますと、組み立ててホワイトモデルを見せて、形状の可否をチェックしていただきます。それで修正希望があれば、そこを修正設計し完成したら色付けして、サンプルを提出します。OKをいただきましたら、展開図と組立説明書の最終校正をし、印刷まで請けている場合は印刷し納品させていただきます。データでの納品の場合は、印刷や刃型抜き加工、袋詰め、発送などの工程はありませんし、簡単なものであれば打ち合わせ後に、すぐに設計図を作って短期間で納品できる場合もあります。大型展示物になりますと、制作期間に何ヶ月も要するときもあります。料金もケースバイケースです。

企業と B to B で仕事し提案し より良いものを作成する

——クライアントはどのような方が多いですか?

久嶋私は企業の方をお客様にしており、ビジネスで使われるペーパークラフトの制作を中心に請け負っています。やはり信用が一番ですから、クオリティは言うまでもなく、納期を守るのは当然です。アートとして自分が作りたい作品を創作しているのではないのですから。企業と言っても、お客様はペーパークラフトについては素人ですから、私の方から使用目的に応じて、より良いものを作るためのアドバイスやアイデアで提案させていただいています。それによって、お客様に満足していただき、販促や売上で、良い結果につながっていけばよいと考えているからです。

簡単なノベルティから精密な作品まで非常に幅広い設計・制作を行っていて、直接企業の方と取引させていただく場合も多いです。ご希望通り制作し高いコストパフォーマンスで提供することをモットーにしていますから、お陰様でお客様には高い評価をいただいております。そういうこともあって、コンスタントに仕事を受注できているのかなと思います。

——ペーパークラフトは販促品としても活用できますし、3Dプリンターにはないメリットもあるかと思いますが……。

久嶋はい。ノベルティで使用される場合は、低コストで立体物を提供できること、制作単価が3Dプリンター商品より安いこと、安全性が高いこと、持ち帰りやすく配布しやすいこと、エコであることなど多数のメリットがあると思います。企業様のWebサイトからダウンロードするタイプのペーパークラフトの場合では、破棄したり無くなった場合でも、展開図のデータさえあれば、いつでもすぐに組み立てられるのが特長です。そういうこともあって、近年企業の方からの注文は根強いものがあります。ペーパークラフトは立体的な形で様々なものを表現でき、幅広い年齢層に人気があります。印刷にもWebにも対応できますから、企業にとってはビジネスのいろいろな場面で活用することができます。

——ペーパークラフトを実際に見たことがない若い人が増えているのではないでしょうか?

久嶋そうなのです。実物を見たことがない人も多いですから、「えっ、これ紙で作っているのですか!?」と言われることがしばしばあります。まずは見ていただき、手に取ってもらうことが重要になるわけです。そうすれば、ペーパークラフトの良さが分かり、様々な活用方法が見えてくるのではないかと考えています。

ペーパークラフトは、日本では飛び出す絵本や子供たちのおもちゃ程度というイメージが強いですが、外国、特にヨーロッパでは大人が楽しむ趣味として認識されていて、プラモデルを凌駕するほど完成度が高い作品が販売されています。それに精密な作品に出会った時には感動を与えてくれます。今後は多くの方々に、公開している無料ペーパークラフトなどを通して組み立てる楽しみを知ってもらい、趣味の幅を広げてもらえたらよいな、と思っています。これからもペーパークラフト作家として市場の拡大と啓蒙に務めていくつもりです。

「紙模型工房」のWebサイト

「紙模型工房」のWebサイト
http://papermodel.jp/

久嶋さんが初めて作った「イージス艦」のペーパークラフト。無料公開中

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全長約30mの関西国際空港のジオラマを1人で制作(飛行機は除く)

全長約30mの関西国際空港のジオラマを1人で制作(飛行機は除く)

「えっ、これ紙で作っているのですか!?」と言われることがしばしばあります。

———— 久嶋 正裕

掲載号(2016年10月号)を見る