デジタルサイネージは、陳列棚に置かれる画面が7インチくらいのものから、ビルの壁面の何百インチのものまで、非常に多種多様ですので、表現方法を決めるにはまず設置場所を想定しなければなりません。しかし表示するコンテンツはいずれもある程度は流用ができますので、なるべく広く利用できるように企画・制作をしておいた方がよいでしょう。場所が屋外なのか屋内かで使われるハードウェアも大きく変わり、同じコンテンツを流すにしてもコントラストの調整などは設置場所ごとに設定が必要な場合もありますが、基本的にはコンテンツ流用はできるのがデジタルメディアの特徴です。
質問の主旨は印刷用のPDFなどをデジタルサイネージに変換したいことでしょうが、まずは前述の設置条件を想定してから企画・デザインに入ります。画面については、縦型か横型か、縦横比は16:9か、4:3か、などを決めますが、どちらでも使えるように考える場合もあります。16:9の縦型を3分割して横型のコンテンツを上下に3つ並べるなどです。この場合にはぴったり納まらずに端数が出ますので、それを吸収するように余白デザインする必要があります。
デザイン的には、デジタルサイネージが車中や待合室などのように座って見るものか、通路沿いに置かれて歩いている人に見てもらうものかによって、考え方が異なってきます。座してみる場合は静止画のスライドショーでも使えますが、通路沿いの場合は内容を認識してもらうのには、動画編集のようなさまざまな工夫が必要になります。いずれも印刷物のままでは見づらいので、紙面を分解して要素を取りだして再構成することになります。
とりわけ通行人に対して表示する場合には、取りだした要素を動画・アニメのようにタイムライン(時間軸)に順次配置していくので、PDFよりもAdobeIllustratorやAdobePhotoshopのレイヤー構造のファイルから要素を取りだした方が自由に動画編集できるようになります。これらのアプリだけでも簡易アニメのような編集は可能ですが、動画編集としてはAdobePremiereやAdobeAfterEffectsといった専用アプリにインポートして行った方が販促ビデオなども組み合わせた自由で多彩な表現ができます。
つまりデジタルサイネージの原稿としては制作用のデータが使えるのですが、動画化が必要なためにデザイン上の注意点は大きく異なってきます。印刷用のデザインに慣れた人にとっては以下のようなポイントが重要になります。
図表を多く含む文書の場合には、Microsoft Word ではページ区切りの関係で次ページに図表が追い出されるので、紙面に無駄な空白が出来てしまったり、ちょっとした文字やフォントの修正でも文書全体ページ数が変化してしまって、一定のページ数に仕上げようとしてもいつまでもレイアウトが完成しない場合があります。
また一旦出来上がった文書を他のパソコン・プリンタで出力すると、どこかのページの図表が追い出されて全体のページ数が変わってしまうこともあります。
これはWordが本来は文書編集をするためのソフト(コンテンツ優先)であって、レイアウトやページ数は出力する(画面でもプリントでも)時点で自動的に決まるようになっているからです。このようになっているので、いつでも文字の修正が容易にできるのです。Web画面では文字と図表は芋ズル式に連なっているのと同様です。
しかし印刷製本の都合で全体を32ページに納めたいような場合は冒頭のようなことが起こって不便な場合があります。そういった場合は先割(レイアウト優先)方式のDTPソフトを使って文書を編集し直し、各ページごとに文字や図表の位置サイズをコントロールすることで、多少の修正・赤字直しが発生しても全体のページ数やレイアウトが崩れないようにできます。
既に作成済のWord文書でも Adobe InDesign のようなDTPソフトに読み込んで、レイアウト優先の文書に変えることができます。Wordの機能を使って作成された目次・索引・注なども自動的にInDesignに引き継ぐことはできますが、場合によっては制約があります。Wordは機能が豊富で、Word上で文書の見出しなどの「スタイル」を決めていたり、箇条書きにしたり、文字を装飾したり表を作成したりできますが、それらを引き継ぐのか、作り直すのかなどの指示を、InDesignで読み込むときに行います。
しかしWord上でフォントを太字にしたり斜体にするなど加工しているものは、InDesignでは加工せずに太めのフォントに置き換えるとかイタリックのフォントに置き換えるなどになりますので、全くWordと同じ表現にはなりません。
またWordで入力時点で入れたクオーテーションマークはDTPでは二重引用符にするようなことも半自動でできますが、余計な空白や記号の適切な扱いなどをInDesign上でチェックして修正作業する必要も出てきます。
Word文書のDTP化は、どの程度の作業量になるかはやってみないとわからない面もあり、最初にテストしてから作業方法を決めるのが良いでしょう。また変換・再編集の後にも校正は必要になると考えるべきでしょう。
Wordの古いバージョンやWord以外のワープロソフトで作成された文書も、リッチテキスト(RTF)形式ならDTPで読み込んで再編集することができます。
電子メールにデジタルファイルを添付して入稿することには、伝送速度が遅いことや、容量制限にひっかかりやすいことや、取り扱いの間違いが起きやすいこと、第3者に漏れやすいセキュリティ面や、不達やファイルの破損のような信頼性など、トラブルにつながりそうないろんな問題がありますので、デジタルファイルの高速で信頼のできる交換方法・サービスがいろいろ提供されています。それらを利用して入稿するのがオンライン入稿です。
殆どの場合はメールも含めてサーバーにアップロードしたものを別の場所でダウンロードするので、サーバにログインするIDやパスワードが必要になり、事前にメールなどで連絡をつけておいてからファイル転送を行います。
これには単純にAさんからBさんにファイルを送るだけの転送型から、もっと多くの人たちの間でファイルの閲覧・利用ができる共有型、また制作ワークフローに組み込まれた投稿型、新聞広告や雑誌広告のデジタル送稿専用サービスまでいろいろな方法がありますので、その中から目的に合わせて使い分けるのがよいでしょう。
古くからあるのは無料のFTPのようにファイル転送専門のサーバーを使うもので、サーバー側でアカウントや利用権限の設定が必要になります。FTP自身では暗号化はしていないので、必要ならばSSLなどと組み合わせて使います。
サーバー側の作業が不要なのが「宅ふぁいる便」のようにブラウザでWeb上の操作でできるものがあります。暗号化にも対応していて、有料サービスに加入していればアドレス帳、開封通知、ダウンロード通知、送信履歴などの管理ができて、常時使う上で便利です。
最近増えたのがクラウドのストレージサービスで、10GBくらいまでは無料のものが多くあります。これはスマホやタブレットでも写真・音楽・動画などの大きなファイルを扱えるので、それらとPCの間のやり取りによく使われますが、このクラウド上のフォルダを他のユーザにも閲覧可能にできますので、もっとも手軽にファイル共有できる手段となります。
GmailとシームレスにつながっているGoogleドライブ、ローカルのフォルダと同期するDropbox、またセキュリティを強化したもの、無料でも1TB使えるものなど多様なサービスがあります。ただし無料のサービスは突然利用できなくなったり有料サービスに移行を促されたりしますので、継続利用には注意が必要です。
一般の人でもブログを書く方が多くいるように、ブラウザで扱えるWebの簡易編集システムを使って、そこにログインしてもらって文章や図版写真などの素材をアップロードしてもらう方法があります。この場合は単に入稿にとどまらず、その後の編集・校閲・校正といった作業も同様にログインして複数の人がWeb経由で協同作業を行えるので、ネットワークの上での制作ワークフローの一部になっているシステムともいえます。ここから自動でPDFファイルを作って印刷状態の確認をするような、制作時間の最短化を目指す利用法もあります。
広告のデジタル送稿もワークフローの一部で、最短期間で間違いなく仕事ができるように最適化させたものです。
EPUBは世界の電子出版の主流になった国際電子出版フォーラム(International Digital Publishing Forum、IDPF)が公開している電子書籍フォーマット規格で、日本の縦組みにも対応したEPUB3.0以降は日本の電子書籍の主流でもあります。日本ではケータイ電話の時代から電子出版が行われていましたが、各通信キャリアごとに規格が異なっていたために、出版側にはいろいろな不都合がありました。EPUBはこういう問題に対して標準化で解決しようというものです。
現在はスマートフォンやタブレットが対象になり、Webがどこでも見られるようになったと同時に、WebのHTMLと親和性のあるEPUBフォーマットが電子書籍の標準フォーマットとなり、PCでもiPhoneでもAndroidでもEPUBを読める環境ができてきました。EPUBは特定の装置に依存しないフォーマットとして進展しています。つまりEPUBを採用すると、電子出版が日本の通信やIT企業の個別各社の都合で変更や廃止にならないことになります。
日本ではまだ一太郎とかが全盛であった1990年代初期に使われ始めたWebでの表現のためのHTMLは、今でも当時のページが閲覧できるように、現在のEPUBから今後バージョンが上がったとしても、過去のフォーマットは将来でも閲覧できるようになります。またKindleやKoboなど独自の電子書籍サービスを行っている場合でも、そこへの入稿はEPUBが前提になっていますので、制作サイドもEPUBを採用すれば汎用性は高くなると考えられます。
ただし現状のEPUB3で表現可能なことは、電算写植やInDesignで行ってきた日本語組版からすると、ごく基本的な機能としての縦書きとルビと禁則処理しかありませんので、今までの紙の出版物をそのまま電子化しようという目的には合いません。そこで日本の現状としては、文芸もののように文字中心の書籍か、あるいは漫画のような画像中心の書籍に2極化して使われています。
これからのEPUBの取り組みは、マニュアル、ビジュアルなカタログ、また雑誌などが考えられていますが、紙媒体と同じ体裁での電子出版を狙うならPDFの方が正確であるので、むしろ従来はWebで提供していたような内容を、書籍や雑誌のようなページごとのレイアウトにして、文字の可読性も紙媒体に近い方で提供するような用途が検討されています。
雑誌の場合は動画やスライドショウ、ARのようなリッチコンテンツや広告と連動したマーケティングも電子出版に関連づけることができますが、これらに関して標準規格があるわけではないので、自己責任となります。
EPUBの利用は印刷表現の問題よりも、ネットを介した伝達が使えることの利点を考慮すべきで、電子書籍なら閲覧者はいつも最新版を見ることができるからです。印刷物のように年度版の更新やそれに伴う配布が必要なくなるというのがEPUBによる電子出版のメリットとなるでしょう。
印刷物の発注者が自分で原稿を書いたり写真撮影をしている場合は、素材に関する知的財産の権利はその発注者にありますので、その方が別の用途に素材を使うことは問題ありませんが、代理店や出版社など企画・編集をしている方が他から印刷用にということで預かった原稿や写真を、他のメディア(スマホ、ホームページなど)に再利用する際には、元を作成した権利者の合意を得なければなりません。
そのために、最初に写真撮影に原稿依頼をする段階で、どのようにそれらが使用されるのかについて契約をするのが一般的です。以前はいちいち契約書を交わしていないことが多く、暗黙のルールがあって、後にホームページに使用する場合に若干の使用料が利用時点で支払われることもありましたが、最近では初回の使用分だけという契約が多いかもしれません。それは再利用があるのかないのかわらない時点で、再利用の分も含めた使用料は払いたくないからでしょう。
しかし、書籍などでは電子書籍が一般化したこともあり、出版社が印刷と同時にネットでの配信も含めて、著作権者から出版権を設定できるように著作権法が改正されました(文化庁 著作権法改正等について)。これは著者が印刷や電子書籍その他個別の使用ごとに許諾を与えなくても、出版社側に出版権の設定を認めるようにすると、その出版社が独占的に出版できるようになるものです。
つまり著者と出版社の間でこのような関係ができているならば、紙の出版物の内容を出版社独自の判断で電子メディアでも販売することができるようになります。もしそうなら、ご質問のケースでは個別の許諾は必要ないことになります。許諾に疑問がある場合は、一応発注者に権利処理がどのような形でされているのか確認しておいた方がよいでしょう。
製版工程から印刷工程への受け渡しは、フィルムの時代からCMYKの分解フィルムで行われていたので、印刷の側での刷版製版の調整(ドットゲインの補正)や印刷の品質管理もCMYKで行われる慣行が長くありました。そこで「【Q】印刷の際にPDFで入稿すると、何がいいのか?」にあるように、印刷会社へ入稿する際の統一フォーマットとして、使用できるカラーはCMYKか特色のみでRGBは使用できないPDF/X-1aが一般的に使われています。PDFワークフローでなくても同様の理由でCMYKでの受け渡しが主流でした。
ただしCMYKでの製版から印刷への受け渡しは、それぞれの品質管理を理解しあっているような、取引の続いている特定の会社同士の場合は問題ありませんが、初めての取引の場合にはカラー品質に関する責任範囲が曖昧になってしまいます。そこでカラーマネジメントを製版から印刷まで一貫したものにするためにRGBのワークフローを採用する場合もあり、その時にはICC付のRGBカラーにも対応したPDF/X-3が使われます。
例えば雑誌の広告のように一つの製版データがいろいろな場所で印刷される場合には、個別に色校正をチェックするわけにはいかないので、日本雑誌協会が開発したオンラインで色校正レスのワークフローであるJMPAカラーに沿って入稿するようになってきていて、そこではPDF/X-3をベースにしているのでRGBカラーの扱いも可能です。
PDF/X-3はPDF/X-1aの上位規定になり、JMPAカラー以外ではPDF/X-1aも扱うので、PDF/X-3あるいはPDF/X-4が普及してもPDF/X-1aが使えなくなるわけではありません。今のところPDF/X-3はRGBワークフロー用と考えて差し支えないでしょう。RGB画像を含む入稿もカラーマネジメントがされていることが前提ならば根本的な問題はありませんが、カラーマネジメントがなければ再度従来のような色校正による確認が必要になるでしょうから、RGBにするメリットは特にないと思われます。
製版印刷ともにカラーマネジメントが普及して、プリンタやモニタが管理されるようになり、印刷の色合わせも現場の勘と経験に代わって計数管理になれば、デザインや制作段階でも完成品の色味があらかじめ予測できるようになり、RGB画像のまま製版を終えることが多くなっていくでしょう。その方が色校正が減り、コストや時間面でも有利になるからです。
幼稚園などで、卒園アルバムの表紙を、それぞれの園児が描いた絵から作成するとか、中に自分の作品を掲載するページを設けるような、「パーソナライズ」したアルバムにして記念品としての価値を高める場合があります。
園児の絵はそれぞれ1点しかプリントされないので、カラーコピー機でも複製できそうですが、表紙を巻く場合はアルバムの判型よりもかなり大きなサイズが必要になるとか、コピー機では用紙の種類が自由にならないために、カラーコピー機ではなくプリンタが使われます。
また1点1点の「校正」は行われないために、個々の画質の調整を考えずに、しかもやり直しをせずに、一律に制作する必要があり、以前は反射型のスキャナなどで画像の取り込みをしていました。スキャナでは紙面のどの場所でも一定の状態で照明ができるので、繊維や用紙などの素材感も含めて画像化できるからです。
近年は反射物もデジタルカメラで撮影するようになってきましたが、画用紙のような白紙でありながら紙の地合い(凹凸)模様がある素材では、照明のムラが画像に現れやすいので、照明をよく調整して慎重に行う必要があります。幼稚園の先生方が仕事の片手間にデジタルカメラで撮影した画像では、一つの画用紙の中でも明暗の差が起こりやすく、また撮影した時間の差や、個人差などで一枚一枚に画質の差ができがちです。
そのために、デジタルカメラでもボックス型の簡易スタジオのような照明が安定した装置を使うか、そういったことができる業者に画用紙を持ち込んで一律に安定した撮影をしていただくのがよいでしょう。
自費出版の制作や流通をどこかにお願いする際に、どれだけの準備がされているのか、真の目的は何なのか、予算の制約はどれくらいかを説明する必要があります。すでにどれだけの準備がされているのかによって、何百冊かを作るのにかかる費用が数十万円なのか数百万円なのかが異なってきます。またページ数が多いとか印刷製本の品質にこだわれば費用はさらにかさんできます。
一方で、今日ではスマホやタブレットで読む電子書籍の形式の自費出版もできますので、その場合は印刷製本の費用を省くことができます。
自費出版の目的が会社の歴史や業績の記録などの場合は、商業出版と同等の費用をかけて立派な本を作ることが行われます。一方、個人の趣味嗜好や体験記の場合は予算が限られますので、書店で売れるとか印税が入ることで費用の一部をまかなうことをうたう自費出版専門業者も居ますが、販売目的で自費出版をすることは非現実的です。
むしろ費用を抑えたいならば、今なら印刷が不要な電子書籍(KindleのKDPなど)を先に出して、読者の反応をみてから紙の出版物を考える方が賢明でしょう。最近ではDTPと同時に電子書籍用のEPUB3の制作もできる業者に依頼することも行われています。
印刷までの制作工程がアナログの時代から、印刷物を製造する過程で必要な、活字、凸版、印画紙・製版フィルム、印刷版材などは製造にかかわる会社に所属するもので、印刷物の売買には含まれずに、印刷発注は印刷物を納品すると終了する請負契約でした。このことは制作工程がデジタルになっても変わっておらず、DTPデータなどの中間生成物としてのデジタルファイルは、法的には制作にかかわる会社に所属するものです。
最近はネットやいろいろなメディアで印刷物と同様のデータを使うニーズが高まっているので、デジタルデータの納品も行われていますが、完成した印刷物と一緒にDTPデータや、画像などの加工した素材データが必要な場合は、発注の際の契約書や注文書に特約をしておく必要があります。この場合は必ずしも印刷用の最終データではなく、編集校正済みのデータの再利用や素材としての利用が主眼になりますので、中間データを使いやすい形に加工して納品してもらう方が便利になります。
実際問題として、中間で生成されるデータとはAdobeのツールで扱うものであったり、CMYKに分解され特定の印刷機向けにカラーマネジメントされたりなどして、そのまま発注者が他の目的に活用できるものではありませんので、最終出力の前のRGB画像などの方が使いまわしができますし、また別途の利用法が決まっていれば、それ用にサイズ・解像度なども一定に揃えるようなデータ加工の依頼を発注時の特約に入れておかれることをお勧めします。
これは中間データの保管に関してもいえることで、印刷受注側では次回発注を見込んで慣例的に一定期間はDTPデータなどの保管を行っていますが、法的には必ずしも保管しなくても構わないものです。よって、発注者側が契約時に特約でDTPデータも納品してもらって自分で管理することも可能ですが、中間データを作成するのに使ったソフトウェアやフォントが揃っていないと、文字修正ができないとか、制作会社と同様の再現出力ができないこともあります。
再利用の目的に相応しいデータ納品とともに、印刷再発注のための「保管契約」も事前に両者で協議して特約に盛り込んでおくのがよいでしょう。
PDFとはPortable Document Format(ポータブル・ドキュメント・フォーマット)の略で、電子文書を作成するソフトウェアが何であっても、できた電子文書がどこでも同じように再現されることを目指したデジタルファイルフォーマットとして、公的な分野も含め、また世界的に使われているものです。最初はアドビシステムズ社がPDF仕様を無償で公開していましたが、今では国際標準としてISO 32000-1という規格になっています。
これを使って印刷物制作時の入稿をするのがPDF入稿です。手元のプリンタなどで確認したとおりにオフセット印刷もでき、発注の際に画像ファイルの添付し忘れやエラーの発生を少なくできます。しかし今は多様なPDFがあり、例えば紙媒体をスキャンして作成したPDFファイルを作ることも簡単にできるので、PDFなら何でも商業印刷に使えるわけではなくて、印刷品質を考えた上でのフォントの使用や埋込み、画像解像度、カラーマネジメントなどを踏まえたPDFファイルの作成が必要です。
つまりDTP作業が完了したPDFが印刷入稿には必要なので、印刷物製造工程を考慮してPDFのサブセットとしてPDF/Xという規格が登場し、国際標準ISO15930として、PDF/X-1a、PDF/X-3、PDF/X-4、PDF/X-4p、PDF/X-5g、PDF/X-5pg、PDF/X-5nなど複数の規格になっています。これらは主にカラーマネジメント関連の違いになります。一般に日本国内の使用では、すべてのフォントを埋め込み、すべてのカラーはCMYKまたは特色にすることを決めたPDF/X-1aが一般的です。カラーマネジメントについてICC付きのRGBカラーにも対応しているPDF/X-3もあります。
つまり製版処理が終わった段階のものとして、PDF/X-1aでの入稿が行われますので、どこの印刷会社でも間違いなく出力できるものとなります。しかし入稿後にDTPソフトでするようないろいろな修正には対応できません。
MicosoftOfficeで作成されたドキュメントが完成していて校正済みであるから、それに手を加えないで印刷したい場合と、作成されたドキュメントの一部分を印刷原稿に使いたい場合とがありますので、分けて説明します。
出力環境がWindowsであっても、最初にMicrosoft Officeで制作したところにあるフォントが、ファイルを受け取って出力するところに無かった場合は、出力段階で代替フォントが使われてしまうために、組版レイアウトのズレが生じ行数やページ数も変わってしまう場合があります。その場合にはもう一度校正が必要になってしまいます。
これを避けるにはMicrosoft Officeで制作した段階でPDF化し、フォントも埋め込みをしてもらってから受け取ると、他のPDFと同様に扱えます。ただし、出力に使われるRIPによっては文字のズレなどがある場合もありますので、ぶっつけ本番ではなく、確認のための校正とか、あるいは事前に同様のファイルで出力テストをしておくことが重要でしょう。
Excelはデータベース的な使い方と、レイアウトツールとしての使い方があります。前者はExcel中のデータだけを利用したい場合で、名簿や数表を表組に多く使われ、Excelからカンマ区切りのCSV形式でファイルを取り出して受け取るのが一般的です。CSV形式はExcelのバージョンがいずれであっても同じなので、よく使われます。受け取った後にデータベース処理とか表組処理をしますが、データ中に余計なカンマが含まれていると項目のズレが発生しますので、受け取ったあとに一度Excel上で開いて区切り正しさを確認してもらうのがよいでしょう。
一方紙面に自由にレイアウトする目的でExcelを使う場合には、受け取った側のExcel のバージョンが異なると正確に再現されるとは限りませんので、作成した側で1ページをPDF化して使ってもらうのがよいでしょう。
Word、PowerPointの場合も似たことが言え、Wordを文字原稿としてだけ使うならテキストファイルで取り出すのがバージョンの影響を受けないので一般的に行われます。Wordに貼られた図・写真や表がそのまま必要なら、該当ページをPDF化して使うか、受け取った側がWordファイルを読み込んで加工することができるアプリケーションソフトを使って処理してもらうことになります。
PowerPointを図として使いたい場合は、PowerPoint出力時にファイル形式をJPEGに選択すれば、通常の図版と同じものになります。
DTP化する以前の印刷物では、版下やフィルムが残っているケースがありますが、版下は紙や接着剤やテープが変色していて使用不可能なものが殆んどで、印刷物の紙面をスキャンして再現することは可能です。しかし写真の品質は今の印刷物の品質水準には及ばないものとなってしまいます。
過去のカラー印刷物の場合には、以前印刷したときの製版フイルムが残っている場合がありますが、これはすでに写真のオリジナルフィルムが無くなって分版フィルムしか写真データがないような特殊なケースでない限り使われることはありません。残された製版フィルムからカラー画像を取り出すのは専門製版業者によってでしか処理はできないものです。
次に、以前印刷したときのDTPデータがある場合は、すでにそれを作ったソフトウェアが無くなったとかバージョンが変わってしまったことによって、そのままでは修正に使えないことが殆んどで、残されたDTPデータは印刷原稿としての文字や図版などの要素を取り出すことくらいしか役には立ちません。
今日よく使われているAdobeInDesignではQuarkXpressのデータを開けることができても、組版レイアウトは完全には再現されず、崩れる部分が起こり得ますので、校正作業は過去の印刷物と比較して全体にわたって行わなければならず、新規の原稿よりもコストがかかる場合もあります。
次に、以前印刷したときのテキストデータがある場合は、ソフトウェアの問題はあまりなくなり、原稿としての再利用はやりやすいものとなります。しかしそのテキストデータを扱っていたコンピュータの機種やOSによって、一部の文字や記号は異なる部分がありますので、文字化けなどに十分な注意が必要となります。元のテキストが何で作られたかが分かっている場合は機種依存文字を自動変換して使う場合があります。また以前に印刷された時のフォントとの字形の差も現れることがありますので慎重な文字校正が必要になります。
以前印刷したときのPDFがある場合は、PDFの作り方によって修正可能なものと不可能なものがあります。印刷の最終色校正などに使われるPDFでは文字がアウトライン化された図形になっていて、同フォントでの文字の追加などができない場合があります。この場合はテキストデータを取り出すこともできません。以前と同じ制作環境が残っていて、レイアウトは変えずに一部の文字だけ修正するのであれば、PDFのツールで変更が可能です。
目的・イメージを決めて、企画デザインから印刷製本までの工程を理解し、発注してください。
印刷見積もりをする前に、原稿の準備などにかかる発注側の作業や、編集からDTPといった制作作業に必要なことを考慮してください。もし準備不足のままにできるところから外注作業を始めてしまうと、制作途上での修正が多くなってしまい、制作期間も制作代も非常に大きくなってしまいます。またその外注に関った労力も莫大なものになり、しかも品質の安定しないものとなってしまうおそれもあります。
最初に成果物の目的・用途(使用期間)や大きさやイメージをなるべく具体的に示すことで、編集やデザインをする方とのコミュニケーションを円滑に進めることができます。そのためには過去の印刷物や他社の印刷物でも見本となるものを用意しましょう。
それに対して目的や品質目標をコストパフォーマンスよく達成する制作方法を、編集・DTP・印刷側と一緒に選択します。例えば非常に短い期間に仕上げなければならないとか、繰り返し発行されるものか、使い捨てか、長期にわたって保存されるか、などに沿った制作・製造方法を決めて、大日程計画と分担を作ります。
必要な原稿を揃えるために、原稿のライター、カメラマン、デザイナ、イラストレータなどの専門スタッフを決めて、それらをまとめる編集者や制作ディレクターに必要な作業量と制作期間を見積もってもらいます。
また制作にかかわるそれぞれの能力を見極めておくことも重要です。発注側が原稿準備の手間や時間が十分でないとすると、作業分担として編集側が原稿制作を手伝えることが要件となります。編集側とDTP側にも同じような作業分担の取り決めがされます。
次に作業分担ごとに出稿・校正の期限など制作の節目となる中日程を決めて、発注がされて連携して作業が始まりますが、出稿や校正・校正戻しなどが遅れ気味になりがちなので、品質の過不足や校正の過不足によって回り道や堂々巡りをしないように、全体の進行を統括的に管理する役割が重要です。
出来上がったDTPのページデータから、その制作手順を知ることは不可能ですので、以前のページデータの思わぬところに不要なものが残っていてミスなるリスクがあります。そのために新規の作成よりも慎重に校正はしなければならなくなります。
例えば不要な図版を削除すれば消えるように思いますが、その図版の下に別の図や文字が隠れていた場合には、図版削除によって印刷物上にはないものが紙面に現れる場合があります。
またフォントはDTPを作業するパソコンに依存しますので、以前と別の会社で修正する場合にはフォントが無かったり変わってしまったりすることがあります。
雑誌の場合は毎ページ新規にレイアウトや文字の流し直しになるので、上記のような見落としやトラブルの原因を作らないためには、前号のDTPデータから文字や画像を全部取り除いて、ページのレイアウトだけにして、そこからテンプレートを作って再出発をした方が安全でしょう。
広告部分なども前号とは殆ど見た目が同じでごく一部だけ変わっている場合があり、旧版と新版の見分けが付き難いので、一つのDTPファイルに旧版と新版の両方の原稿が入らないようにすべきです。