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(218) 望月印刷株式会社

地域と交流し地域の印刷会社として存続していくことが大切である

生産本部 CSチーム課長代理
田中 一博

CSR(企業の社会的責任) が求められているが、昔から地場産業の担い手であった印刷会社にとっては、CSR は持続的な発展をしていくために重要なテーマである。しかし、地域活性化は地方だけに必要なことではない。東京においても地元のイベントに参加し、地域貢献活動を展開していくことは、CSR だけでなく、ひいては印刷ビジネスの受注にも繋がる重要な施策である。東京都台東区に本社がある望月印刷株式会社は、地元の「台東モノづくりのマチづくり協会」が運営するイベント『モノマチ』に参加し、地域貢献活動を展開している。その信頼と実績が地域の印刷会社としてのブランド価値を高め、印刷ビジネスにも好影響を与えている。同イベントの委員として活動し地域と交流してきた関信行執行役員生産本部本部長と、生産本部CS チームの田中一博課長代理に、地域貢献活動について話を伺った。

望月印刷株式会社
本社 : 東京都台東区浅草橋5-7-10
TEL:03-3851-6543
http://www.ebis.co.jp/mochizuki/

地元の一大イベント『モノマチ』を牽引する印刷会社として信頼を得る

「『モノマチ』への参加は、私が個人的に親しい近所のアパレル会社の部長から、面白いイベントがあるので運営委員会に出席してみないかと誘われたのがきっかけでした。でも、自己紹介した時に、その場にいた誰一人として望月印刷のことを知らなかったのです」とのことで、100 年以上の歴史がある同社が地元の人たちに知られていないことに、関氏は落胆の色を隠せなかった。その会合が契機となり、翌年の第4回開催で使用する印刷物の受注を得たことになったため、会社として本格的に『モノマチ』に参加することになった。

しかし、後で判明したことであるが、「『モノマチ』を運営するボランティアを事務局がネット上で募集していたのですが、当社の社員が5、6人、個人的に応募し、活動をしていたのです」(関氏)と、社員自らがボランティア活動をしていたという。地域のためとは言え、無給で休日に活動するのはそれだけ地域のことを想っていないとできないことである。このような共存共栄の精神が同社に根付いているのも、CSRの経営理念が浸透しているからに他ならない。そうでなければ、社員が自らボランティアに参加する気持ちは生まれてはこないだろう。

『モノマチ』は、同地区の有志による「台東モノづくりのマチづくり協会」が、「モノ」づくりの「マチ」の魅力に触れてもらうために、毎年5月の3日間開催しているイベント。古くから製造・卸が集積している台東区南部(御徒町~蔵前~浅草橋)の2km四方のエリアで、イベントに参加しているモノづくり系企業やショップ、職人、クリエイター、飲食店に多くの来場者が訪れ、その魅力を楽しんでもらうのが目的で、約250店舗が参加している。3日間の会期で約10万人が訪れる一大イベントである。

同社は、『モノマチ』でガイドブックの制作からポスター、チラシ、DMなどの印刷物を一括受注しているが、それは地域に根ざした印刷会社として実行委員会の運営に携わっている貢献を、買われている点が大きいという。

「当社は、地域と繋がってビジネスを展開していくことを大切にしています。『モノマチ』にしても最初から印刷の受注を獲得したいという考えはありません。あくまでも地域の有志が集まってイベントを運営していますから、そこに参加するという気持ちで取り組んでいます。印刷の仕事は結果的にいただいているに過ぎません。仕事が欲しいという考えで地元のイベントに参加しますと、結局、うまくいかないと思います」(関氏)と語る。

『モノマチ』に関しては、年によって異なるが、本社前に特設ブースを設けて、デジタル印刷機で印刷した制作物を展示したり、スタジオでは来場者にプロのカメラマンが写真撮影して、ノートの表紙やカレンダーにしたりするサービスも行っており、印刷会社ならではの催しを展開している。

関氏は運営委員会のメンバーとして地区リーダーを務めてきたが、昨年の『第10 回モノマチ』は田中氏が実行委員長を務めている。「『モノマチ』を契機に印刷会社の仕事を多くの人に知ってもらえますし、参加店同士の交流が深まることで、地域をもっとよくしていこうという気持ちが強まりました」と、田中氏。信頼関係から実際に地域からの印刷受注もあるとのことだ。

「売上額としては大きくありませんが、これまで法人中心で、地域の会社や店舗からはほとんど印刷の仕事がありませんでしたが、やはり印刷会社は地域に根ざした経営が求められます。地域のイベントに参加することは大いに意義あることだと思っています」(関氏)。

「紙業、デザイン、箔押しといった関連業界の企業もあり、地域活動を通じて新たな仕事の発注や受注に繋がっています」(田中氏)とのことで、企業間のコミュニケーションは『モノマチ』に参加して深まった。

また、望月印刷では墨田区の工場が参加するイベント『スミファ』にも参加している。どのようにモノづくりされているのかを多くの人たちに知ってもらうのを目的に工場を開放し、見学会やワークショップなどを毎年11月の2日間開催している。「当社の工場では昨年200人近い人が訪れ、大盛況となりました」(田中氏)とのことだ。

地域貢献活動を持続させていくには、自主的に活動に参加できるかどうかであるが、それはトップからの一方的な指示ではなく、社員一人ひとりの気持ちが動くということが大切であることが、今回の望月印刷の取材から窺えた。

『モノマチ』のガイドブック
『モノマチ』のガイドブック

運営に携わり、地域をもっとよくしていこうという気持ちが強くなった

一般客に向けた印刷物を紹介し販売を行った
一般客に向けた印刷物を紹介し販売を行った