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(230) 音羽印刷株式会社

ステークホルダーの安全とサービス維持のためにパンデミックに対応したBCPを策定

代表取締役社長
土屋 勝則

2011年東日本大震災が発生したのを機に、翌年、業界でいち早く東京都の BCP(事業継続計画) 策定支援事業を活用してBCP を策定した音羽印刷株式会社。得意先に金融会社が多く、BCP策定の問い合わせもあったことから早急に取り組んだという。そんな同社は、今回の新型コロナウイルスで政府が4月7日に緊急事態宣言を発出した翌日、『新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 対策に関する音羽印刷の対応について』と題する基本方針をホームページ上に公開した。コロナ・パンデミックという事態に同社の姿勢を内外に示したのである。中小印刷会社であっても、BCPを策定して経営方針をステークホルダーに確実に発信していくことが必要だという土屋勝則社長。同社が取り組んでいるBCP対策について土屋社長に話を伺った。

音羽印刷株式会社
本社 : 東京都文京区本郷 1-30-8
TEL:03-5689-5251
http://www.otowa-printing.com

災害時の事業継続のためにデータバックや停電時の電力確保など万全の体制を構築

音羽印刷株式会社は企画、デザイン、製版、印刷、製本、発送までワンストップサービスを展開する総合印刷会社である。特に金融業界を得意先にしているため、帳票類や約款などの印刷物を扱うことが多く、常に厳しい品質や万全の情報セキュリティが要求されているのが特徴だ。

東日本大震災で生産本部(千葉工場)が被害を受けたことと、その後得意先からBCPの策定などを考えているか尋ねられたことが策定のきっかけとなった。震災当時は、生産本部の復旧作業に遅れが生じ、納期を調整するなどの事態に陥った。また、従業員の安否確認に手間取るなどBCPに取り組むべき課題が浮き彫りになったことで、早急に策定する必要が生じた。生産本部本館では照明を全てLEDに交換し、電力デマンド監視システムを設置したほか、耐震性の高い梁や柱への取り換え、バリアフリー化など大規模な改修工事に取り組み2017年秋に完了した。

「取引先の金融会社からは印刷技術だけでなく、管理・納期面でも大きな信頼を得ているので、その信頼に応えていかなければなりません。中には特殊な薄紙を使って印刷するものもありますから、災害などで用紙の供給ができず印刷が滞った場合でも、注文を受けたら即座に印刷して届けられるように、全国で3カ所の同種の印刷会社と提携して協力体制を構築しました」と話す。

同社が万が一災害で生産本部が使えず稼働できなくなった際には、協定会社に印刷データを伝送し、生産業務を引き継げるようにしている。しかし協定会社に業務を依頼するのは最終段階で、在庫を切らしてはいけない重要印刷物などは倉庫に納品2回分を常に保管しているとのことだ。顧客の大切な印刷物に対して強い責任感を持って取り組み、万全の管理体制を敷いているのだ。

また、BCPを策定した時に、リチウムイオン電池の蓄電池を3基、営業本部に設置した。メンテナンスフリーでUPSがなくても有事には即時に電力を供給できるようになっている。「災害が発生し停電したとしても、1日、2日なら業務を続けられる電力があります。お客様の印刷データを速やかに協定会社に送信できる体制を敷いています」という。

データ管理については、全日本印刷工業組合連合会の「クラウドバックアップサービス」を導入し、クラウドによるデータバックアップを充実させた。さらに、地震でビルの入口が開閉できずに閉じ込められた時のために、社内に最低限の水や食料も確保している。これは同ビルや近所で困っている人がいた時に提供することも視野に入れており、地域貢献という視点からも重要な取り組みと言えるだろう。

営業本部に設置されている蓄電池
営業本部に設置されている蓄電池

社員一人ひとりの仕事を見える化し、成果に対してしっかりと評価する

さらに同社では、災害発生時に社員やその家族の安否を確認する方法を予め決めて、いざという時に指針通りに行動できるように、「セーフティカード」をBCPの策定時に作成した。同カードはいわばBCPの抜粋版であるが、A4サイズを折り畳んだもの(天地105mm×左右74mm)で、社員に常時携帯させているという。災害が発生した際の行動指針から安否の確認・報告方法を明記し、追記事項として非常時の連絡先、緊急避難時のアイテムなどを各自で記入することになっている。顧客にも「セーフティカード」の必要性を訴えて勧めているとのことだ。今回のコロナ禍は目に見えない自然災害ということで、感染症が発生した際の行動についても追記する方針で作り直す予定だという。この「セーフティカード」は同業の印刷会社にとって大いに参考になると言えよう。

同社では昨年夏、東京都がテレワークを推奨したことからテレワークの導入を決めて、必要なハードやソフトを購入するための助成金の申請手続きを進めていた。しかし、申請手続きが複雑な上、申請後に認可が下りてからのスタートを義務付けられていたので、予想以上に時間がかかった。そこで今年になって助成金に見切りをつけて独自に進めることにした途端、急速なコロナ拡大の影響でハードの供給に支障が生じたのである。

「社員に業務用としてスマートフォンを貸与することにしたのです。しかしスペックなどの検討をしている間に、コロナの影響で製品が揃わないという問題が発生しました。4月になってようやくパソコンやモバイルのハード類が一定数確保できたので、テレワークを始めることができました」と、テレワークの導入には苦労したという。

そして「仕事に対する向上心、成果をきちっと出している社員に対しては会社としても評価したいと考え、3年ほど前から仕事の見える化を行っています。それがこれからの働き方改革にも繋がっていくと考えています。今後テレワークが定着してきますと、上司が直接部下の仕事ぶりを見ることが難しくなってきます。そのため仕事に対する評価も変えていかなくてはなりません。当社では昨年7月から社員一人ひとりの仕事の目標を話し合いで決めて、設定した目標に向かって仕事をしていく人事評価制度に取り組んでいます」と、目標を設定して成果を見える化し、社員の能力を引き出す新しい働き方に移行しつつあるということだ。

 
(左)水や食料も確保している/(右)セーフティーカード
(左)水や食料も確保している/(右)セーフティーカード