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(229) カディンチェ株式会社

エンターテインメントからBtoBまで3D 仮想空間で独自の「驚き」を創り出す

代表取締役社長
青木 崇行

研究開発型ITベンチャー企業のカディンチェ株式会社は、人の五感に訴えて「驚き」を与えることを経営理念に、室内空間の3Dスキャン・3Dモデリング技術、360度パノラマ写真を使用したバーチャルツアー作成ツールの開発、360度動画のコンテンツ管理システムの開発などを行っている。そんな同社は2018年12月に、松竹株式会社と株式会社侍で新会社のミエクル株式会社を共同で設立し、エンターテインメント分野のコンテンツ制作を始めた。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実、Mixed Reality)の映像コンテンツ技術を駆使して展開している新しいコンテンツ制作について青木崇行社長に取材した。印刷業界も動画で広報・販促展開が求められつつあるが、VRやAR、MRの映像コンテンツにはこれからの映像ビジネスの可能性があり、動向を見て知見を広げておく必要があるだろう。

カディンチェ株式会社
本社: 東京都品川区小山6-5-10千代田ビル2F
TEL:03-6451-3560

https://www.kadinche.com/

市場拡大が予想されるアトラクション用のロケーションベースVRの開発に乗り出す

カディンチェ株式会社は、昨年から最新技術を駆使した新しい映像コンテンツの開発に取り組み始めた。4月からはVRのアトラクション用のコンテンツ、感染症・自然災害等を想定したVRイベント・カンファレンス開催サービスなどをスタートしている。今後はエンターテインメント向けやビジネス向けのVR・MRコンテンツの開発に注力していく方針だ。同社は、昨年7月20日から9月1日の期間、東京タワーの地下1階にある松竹株式会社主催の「ハイブリッドお化け屋敷」のホラーアトラクション企画で、ヘッドマウントディスプレイを装着してホラー体験ができる「お顔をちょうだい『老婆の呪面』」のVRコンテンツを制作し好評を博した。ユーザーはヘッドマウントディスプレイを装着し、美術セットの囲炉裏の周囲にある椅子に座って10分ほどホラー動画を観て楽しむというものだ。このバーチャルな映像を観た後は、その続きをリアルなお化け屋敷で体験するというアトラクションになっている。「リアルなお化け屋敷と連携させて、いかに怖いストーリーに仕立てていくかがポイントになります。当社の理念である“驚き”を生かして制作しました。夏休みの期間だけでしたが、お陰様で好評を博しました」とのことだ。これはアトラクション用のロケーションベースVRというもので、以前からニーズがあった分野だという。企画から完成まで約半年を要したとのことで、脚本づくりからスタートしたわけであるが、同社はストーリーに合わせたCGの制作と、それを基にVR映像に作り直す作業を受け持った。このロケーションベースVRは、アミューズメント施設や商業施設などで楽しむもので、自宅では体験できない空間を提供するのが目的である。これは単なるブームとして存在するものではなく、市場は拡大していくと言われており、実際に右肩上がりに売上が伸びている。「ヘッドマウントディスプレイで楽しむものですから、適度なスペースがあれば、 そこに訪れるお客様に提供できます。コストを掛けて大掛かりな施設を用意する必要はありません」とのことだ。ところで同社は、以前、360度動画のライブストリーミング視聴ができるアプリケーションや、それら360度動画の配信の仕組みを提供し、ユーザー自身で動画を配信し視聴体験できるシステムを提供していた。しかし数年前からCGのニーズが増えてきたことで、事業の柱はCGやVRコンテンツ制作に移行してきたという。

「お顔をちょうだい『老婆の呪面』
「お顔をちょうだい『老婆の呪面』

エンタメ、研修、内見、会議、展示会などのVR・MR空間を実現し顧客のニーズに応える

昨年、セコム株式会社と協働でVR技術を活用した研修プログラムを開発し提供した。これはゲーム要素の技術「ゲーミフィケーション」をビジネスの研修向けに取り入れて開発したもので、VR空間内で点検業務などを疑似的に行い、その正確さや時間などからその業務を点数で評価し、スコア向上のために繰り返しの学習を促進することができるというものである。「実写をべースにリアルな状況を再現し、既定の点検項目を学ぶだけでなく、現場の異常を発見する感覚を身に付けることを目的に開発しました」とのことだ。 また、同じ技術を使って大学病院と協働でVRコンテンツも開発しているという。「例えば、癌の手術をして成功した患者さんはリハビリが必要になります。それを手助けする仮想空間を提供するものです。患者さんは身体の状態から巷のジムに通うわけにはいきませんから、遠隔地にいる同じような境遇の患者さんに同一の仮想空間に集まっていただき、先生の指導の下で自宅で運動することができるシステムです」と、医療分野でもVR技術を活用したソフトウエア開発を進めている。医療の遠隔操作は将来性があるとして、市場拡大が予想されるが、このリハビリ用のVR 空間も需要が期待できそうである。「ロケーションベースVRは、アトラクションゲームはもちろんのこと、リモートワークが進むビジネス市場でもヘッドマウントディスプレイを使って仕事をしたり、セミナーを受講したりと、さまざまなシーンに展開できる可能性があり、市場はますます拡大していくと思います」と語る。このようにエンターテインメントからビジネス、医療現場までさまざまな分野でニーズが生まれつつあるロケーションベースVRであるが、印刷業界としては、この新しい市場といかに関わって広報宣伝や販促展開でサポートしていけるかがポイントになるだろう。もはや紙媒体だけではクライアントのニーズには応えられないのは明白である。「当社は、よりBtoB向けをメインに目的特化型3D仮想空間の提供に注力していきます。3D仮想空間にヘッドマウントディスプレイを用いてログインし、リアルタイムコミュニケーションによってエンターテインメント、研修、内見、会議、展示会などをVR・MR空間で実現できるようにしていきます」と、今後の方向性を示した。

同社が開発に携わったセコム㈱のVRトレーニング
同社が開発に携わったセコム㈱のVRトレーニング