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GCJパーソンズ
(174) 青木 崇行
リアルとバーチャルを融合させて「驚き」を与えたい
今日、360度動画はYouTubeをはじめ、さまざまなWebサイト上で観ることができるが、パノラマ写真に商品情報をタグ付けできる国内初のパノラマバーチャルツアーツール「PanoPlaza」を2011年に開設し、パノラマ動画の先駆者と言って過言ではないのが、カディンチェ株式会社 代表取締役社長の青木崇行さんである。同社ではVRを活用したコンテンツ制作・配信からアプリケーション開発まで、VRソリューションの専門集団として事業展開しているが、青木社長は逸早くパノラマ動画の市場性・将来性を感じ、共同経営者で専務取締役の内田和隆さんとビジネスをスタートした。「『驚き』という感覚を大切に、自分たちにしかできない驚きを創り出して、世界に貢献したい」という青木社長。同社の動画ビジネスやこれからの動画市場について話を伺った。
青木 崇行 AOKI SOKO
- PROFILE
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1978年神奈川県生まれ。2003年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程を修了後、ソニー㈱に入社(Corporate R&D A3研究所配属)。画像信号処理アルゴリズムの研究開発に従事。2006年ソニー㈱を退社後、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程に進学。2008年カディンチェ株式会社を共同設立。代表取締役社長に就任。2009年同大学より博士(政策・メディア)を取得。2015年VRCクリエイティブアワード優秀賞受賞など。
パノラマバーチャルショップ構築サービス「PanoPlaza」が脚光を
——ソニーに入社され、3年後に退職されて御社を設立されましたが、経緯について簡単に教えていただけますか?
青木慶応義塾大学環境情報学部、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程を経て、2003年、ソニーに入社しました。研究所に配属され、液晶・プラズマテレビの高画質化処理のアルゴリズム等を研究していたのですが、研究所にこもり切って自由度がなく、限られた分野の仕事でした。 同期で入社した内田和隆(現、専務取締役)とは意気投合したのですが、私は研究所ではやっていけないと思い、もう一度古巣の慶応義塾大学大学院に戻って博士の学位を取得するために退職しました。その後同研究所が廃止され、内田がソニーを退職したのを機に、一緒に起業しようということになり、資金を出し合って2008年8月に、カディンチェ株式会社を共同で設立しました。
——なるほど。設立当初はどのようなビジネスをされたのでしょうか?
青木取りあえず2人で会社を作るということでスタートしたので、具体的に何をしようという構想はありませんでしたが、当初はソニーで学んだ映像処理技術と大学院で研究していたネットワークを活かして、2次元の写真だけで室内空間の3次元モデル化を行うサービスを考えてました。そこでソニーから賛同してくれた何名かの研究者が当社に入ってもらって研究開発を進め、グーグルストリートビューの室内版のような動画制作を始めました。一眼レフカメラに魚眼レンズを付けて、カメラを回転させて360度撮影するという、パノラマ動画サービスになります。当初は不動産屋さんの内見に使える室内の3次元動画を考えて制作しましたが、営業している過程で、お店のプロモーションにも使えるという話が出てきたわけです。
そして、小売店の360度パノラマ写真を撮影し、商品をクリックするとポップアップが開いて、そのままECサイトに飛んで商品を購入できる、パノラマバーチャルショップを構築するサービス『PanoPlaza』を、2011年に開発し発表しました。最初に輸入雑貨を扱う銀座の「プラザスタイル」さんに使ってもらったのですが、日経新聞の紙面で紹介され反響があって、次々と問い合わせが舞い込んできたわけです。すぐに大阪の近鉄百貨店さんや東京の大丸百貨店さん、渋谷の東急百貨店さんなどが採用したいということになり、制作させていただくことになりました。ショップの店内を撮影して、Web上で動画を紹介し、ウィンドウショッピングができる点がストリートビューとの大きな違いです。——当時は360度撮影自体がまだ珍しかったのではないでしょうか?
青木そうですね。静止画を使ったバーチャルツアーを始めたのは2013年頃で、当社が初めての試みだったかと思います。
360度動画の世界を広めたいと動画共有サイトで無料公開
——ECサイトに連動させることで販売促進に繋げていくのが目的だったのでしょうか?
青木お店側としてはそういうことになります。百貨店や小売店、あるいは施設紹介、不動産業界など、幅広い用途で活用されて開設していただくようになりました。
——苦労されたところはどこでしょうか?
青木やはり営業ですね。技術開発については得意でしたから、問題ないわけです。要はそれを使っていただくお客様に理解してもらえるように説明することが一番難しかったですね。お客様に提案する場合は、最初に最高画質で撮影したパノラマ写真を見せて、それを基に実際の動画はこうなっていくという説明をして納得してもらうことになります。
——次に「PanoPlaza Movie」という事業を始められましたが…。
青木動画を撮影するようになり、次に何をしようかと考えた時に、まだYoutubeでは360度動画に対応していませんでした。360度全方位で撮った動画をWeb上で見る方法がなかったので、それを当社で提供しようということになったのです。
3DCGで実写に近いVRを制作するとなると、多大な制作コストが掛かりますが、実写の場合は比較的安価で制作できます。そして、360度動画の世界を盛り上げたいという考えから、「PanoPlaza Movie」を立ち上げました。これは360度撮影したパノラマ動画をクラウド上にアップロードすることで、パノラマ動画をマウスやタッチ操作で回転して見られるようにしました。ソーシャルネットワークサービスでシェアできるサービスにしています。——それは動画共有サイトのようなものでしょうか?
青木はい。無料で開放していて、アカウント登録していただければ、どなたでも動画をアップすることができます。また、「PANOPLAZA LIVE」という、360度の動画をリアルタイムで配信できるサービスも行っています。お客様は360度カメラで撮影した動画をPCから「PANOPLAZA LIVE」のサーバーへ送信すれば、Webページやスマホのアプリで閲覧することができます。送信側のソフトはお客様ご自身で準備していただくことになりますが、当社が開発したソフトウェア「PanoStream」を使用していただくと利用することができます。
VRコンテンツを紙媒体の特典として付加する販促展開は重要
——他にもサービスを拡充されているようですが…。
青木お客様のニーズに応えるために、360度VRコンテンツの撮影からコンテンツの構築、スマホやヘッドマウントディスプレイなどの閲覧環境・デバイスへ対応するアプリ開発などをサポートしています。具体的にはNHKさんのVRコンテンツ制作、全日空さんのインバウンド用プロモーション動画の制作、日本赤十字社さんの海外活動を紹介する動画、大和ハウス工業さん物件の内覧会の動画など、さまざまなプロモーション動画を制作し活用していただいています。不動産、自動車、ゼネコン、企業、学校、メディア、エンターテインメントなど、とにかく360度動画のニーズは広がっていて、お客様からの問い合わせは年々増えており需要は伸びています。 さらに動画をエンドユーザーにサービス提供したいというお客様には、配信するための「PANOPLAZA TOUR」や「PanoPlaza Movie」をカスタマイズして提供するOEM販売も行っています。
——気になるのは紙媒体との連携ですが、そのようなニーズはあるのでしょうか?
青木ありますね。VRコンテンツ全般において、販売方法や配布方法に苦労されている点がありまして、その際に紙媒体を使った販促展開をしているところがあります。例えば、写真集の最後におまけのVRコンテンツが添付されているQRコードを付けて、それを撮影すると、アプリが立ち上がって特典映像が見られるようにしたものですとか、旅行やマンションのパンフレットでは、後ほど特典のVRが見られるように、QRコードから動画へ誘導する動きもあります。ですから、紙媒体からVRコンテンツに展開することで販売促進に繋げていく仕組みは、マーケティング活動として重要ですし、連携させることは欠かせないかと思います。ですから、印刷会社さんも360度動画などVRコンテンツと連携させた印刷物の制作を、お客様に提案されるのも1つの営業戦略として効果的なのではないでしょうか。
——そうですね。御社は「驚きを与えることで世界に貢献したい」という経営理念をお持ちですが、動画は見る者に一番驚きを与えるコンテンツかと思います。
青木はい。人間の情報収集の9割は視覚から来ていると言われていますが、動画技術はその視覚のど真ん中に位置するコンテンツだと考えています。最初は静止画でしたが、次に動画に発展し、ヘッドマウントディスプレイで見られるようになり、完全に没入した状態で動画を見るようになりました。そうなると、視覚をハッキングする状態になり、現実と仮想の境目が分からなくなるような感覚を与えることになっていきます。それがまさに驚きを与えることになると思うのです。そんな驚きを与えることで、何かしら社会に貢献ができればと考えています。当社では「リアルとバーチャルの融合」をテーマにしており、お客様のさまざまなニーズにできるだけ応えていくようにしています。そして、お客様に高い満足感と付加価値をご提供するために、当社はスピード、発想、品質、サービスで、世の中に驚きを与える会社を目指しています。
