月刊GCJ
GCJパーソンズ
(216) 露木 聡
コミュニケーションの価値は科学理論で合理的に高める
効果を上げるプロモーションや消費者とコミュニケーションを行うには、人の脳の働きや認知メカニズムなど、科学的な裏付けによる人の行動特性を基に展開していくことは重要である。ナッジ株式会社代表取締役の露木聡氏は、「プロモーションやビジネス企画の際に、『行動経済理論』や『認知心理理論』を基軸にして、人の思考反応をもたらす条件を基に実効性のあるプロモーションや製品・サービスの開発を行うことが重要である」と説き、それを顧客に伝授し支援している。印刷業も然りで、科学的に人の思考特性を知った上で、手に取って反応してくれる印刷物を作っていくことが望まれる。リアルな効果をもたらすノウハウと理論についてビジネス展開する露木社長。事業内容やプロモーションに対する考え方、取り組み方などについて話を伺った。
露木 聡 TSUYUKI SATORU
- PROFILE
-
カー内でマーケティング担当マネージャーに従事。プロモーションプランナーとして独立後、2010年ナッジ株式会社を設立し、代表取締役に就任。「意志決定の原理に基づくコミュニケーション・デザイン」を用いた企画から施策・運営に関わる業務を展開中。行動経済学会、日本認知心理学会、IoT推進コンソーシアムIoT価値創造推進チーム、ものこと双発協議会等に参加。
リアルな効果をもたらす実践ノウハウと理論で支援する
Q 御社の事業内容について教えてください。
リアルとサイバー両方のコミュニケーションを掛け合わせて、科学的アプローチからプロモーションはじめビジネスやサービスの企画・開発を支援しています。また、1年ほど前に日本生産性本部でセンター長を務めた方を顧問に迎え、現場に特化した生産性を革新させるコンサルティングも展開しています。現在は科学的に裏付けされた人間の思考・判断特性に基づく「行動誘導」と、多彩な分野にわたるノウハウで培ってきた実践的な「生産性向上」の両面から事業に取り組んでいます。
発信側の企業担当者は、それぞれの分野の専門知識に長けているがゆえに、そのロジカルな知識や情報を基に施策立案や企画開発を行ってしまいがちです。しかしながら、コミュニケーションする相手の認知処理、言い換えれば意思決定は、必ずしもロジカルに基づいて行われるものではないという点が齟齬ポイントになります。ビジネスを推進する上では、その実効性や投資効率を高めることが不可欠なミッションになります。弊社では人の認知特性を「思考反応」とした科学理論を基にコミュニケーション施策の立案を行っていますが、それに応じた高パフォーマンスなプロダクションやエキスパート企業とチームを組んでさまざまな支援をすることを、一つ目の事業の柱としています。
もう一つの柱は、経営や現場における徹底的な実践志向による課題発掘・改善指導を展開し、リアルに実感できる生産性と実績の向上のお手伝いをしています。
Q では、企画提案される際のベースにされているのが、「行動経済理論」や「認知心理理論」になるのでしょうか?
はい。合理的かつ有効な戦略構築・展開のために、コミュニケーション施策において「行動経済理論」と「認知心理理論」を使ってエンドユーザーの思考反応をもたらす条件を基に、実効性のあるプロモーションや製品・サービス開発のためのコミュニケーション施策を企画・提案させていただいています。
マーケティングを3層に大分類できることを明らかにしたのが「行動経済理論」とも言えます。人間の反応特性は大きく3つに分類することができて、1つ目はそもそもターゲットを分類する必要がない分野になります。人間には国も性別も関係なく共通の指向があり、無意識に作用する行動要因があるということを、企業はマーケティング施策を行う際にまず押さえておかなければなりません。これが基本になります。
2つ目が、長い年月を経て環境や刺激が蓄積されてきた分野です。例えば、ずっと東北で生まれ育った人と関西で生まれ育った人では常識と考えているコトに少なからず違いがあります。生きてきた時代背景や男女でも違いがあり、現在ではジェンダーは解消される流れでありながらも、肉体的な違いなどでどうしても影響を受けています。このように個別の志向や性格によらず、明らかに分けることが可能なのが、2番目のカテゴリーになります。
最後がCX/CSなどを展開する際に、エスノグラフィやインサイト、AIなどを駆使してビッグデータによる分類をする分野です。つまりセグメント化していくのですが、ピンポイントでターゲティングしていく方法です。ライフスタイルや趣味嗜好などの違いと、それらの深度によって反応が異なります。
これら3つの分類をもとに、コミュニケーションが必要なコトに対して、発信側がロジカルに偏ってしまわず、効率の高いプロモーションやプランニングを行うことを最重視していくことが大切です。
人の認知は少なからず"非合理的"であることが大前提
Q コミュニケーションの本質を科学の視点から考えていくのですね。
はい。例えば、企業側の立案者やクリエイターが共感を得ることに苦心するような場合、弊社では共感を得る前に無意識下での反応を考慮することから始めます。プロモーションに対してサポートやアドバイスをするだけでなく、商品やサービスを企画するプロジェクトチームに加わることからスタートすることも多々あります。一方で、行動経済理論の話を切り出しますと、企業の中にはさまざまな知識を有するがゆえに「それは知っている」と即答され、単なるマーケティング手法の一つと位置付けられてしまう場合も少なからずあります。行動経済理論は科学的な研究によって再現性のある特性や反応を明らかにし、神経科学の分野とも連携して一層利用価値は高まっているのですが、この理論自体に派手さや流行感が少ないことが起因して、企業側での活用意識が高まらず、施策推進のネックとなる場合もまだまだあります。
Q では、御社の支援が活きるのはどのような企業なのでしょうか。
新規事業の開発担当者や新たに商品やサービスを展開しようとする部門のほうが、多方面の情報やナレッジをより柔軟に採り入れようとする志向が強い場合があります。また、マーケティング企画会社の中にはビッグデータを取得し分析することが得意なところもありますが、それだと費用が高額になってしまいます。当理論を適用できれば、ビッグデータのどの部分が消費者の行動に影響を与えているのかを分類することができるようになるため、一桁少ないデータ量でもターゲットの消費者の行動を効率よく分析できるようにもなります。弊社が他のマーケティング会社と明確に差別化している点は、この行動経済理論や認知心理理論に基づいた提案ができるところだと言えるでしょう。
Q 人間の脳がどういう働きをしているのかを知ることが重要だということですね。
要はそういうことなのですが、人間の脳はできるだけ手っ取り早くモノを理解して、脳になるべく負担を掛けずに処理しようとします。だいたい正しいという判断をするようバイアスが掛かるようになっていて、きっちりと分析をして正確に判断しようとは働かないのです。それが認知心理というものです。ということは、企業が消費者や顧客に対して一生懸命発信をしてコミュニケーションをとったところで、全てを理解されることはないということです。それは細かい文字がぎっしりと書かれたパンフレットを見せられた時に、脳に負荷が掛かって頭に入ってこないのと同じなんですね。ですから、広告を作る際には、人間の脳がそのような判断をすることを予め想定して、人間の行動を誘導するような材料や刺激をマーケティング施策に散りばめておくことがポイントになります。
リアルな紙メディアは人への認知でデジタルよりも有効に作用する
Q では、 印刷会社が顧客のプロモーションをサポートしていく上で、どこに重点を置いて取り組めばよいと思われますか?
人間とモノを繋ぐUI(ユーザーインターフェイス)、人間がモノやサービスに触れて体験できるUX(ユーザーエクスペリエンス)の視点に立つということが必要になるでしょう。モノやコトの魅力を伝える場合、最初にセイリエンス(顕著性)が作用しますから、どのような刺激や環境提示で認知を喚起するプロモーションを展開していくかを検討し、つい関心を示してしまうような無意識に働きかける印刷物を提案していくことが重要かと思います。
また「保有効果」や「帰属バイアス」といった消費者の心理を理解し、それを活用したマーケティング手法を展開していくことも大切になるでしょう。紙の印刷は特定のリテラシーを必要とせず、その場で見られる一覧性があります。
さらに、得られる情報の質と量の差によって生じる有利・不利のデジタルデバイドが発生しにくいのも紙メディアの特性です。そこにメリットを見出して顧客に提案していくことが重要ではないでしょうか。リアルなコミュニケーションを行っていくためには保有という行為や、手に持たせることをしていくことが大切になってくるわけで、それができるのが印刷物のメリットです。
Q 紙メディアにおけるプロモーションの手法については何か提案はありますか。
例えば DMの場合、手に取って開けてもらうためには、ただ見た目がおしゃれでデザインがいいだけでは駄目で、開封してもらうために工夫したり、人間工学的に開きやすいものにしたりする必要があるわけです。どんな情報だと人は次のページを見たくなるのか、自分にとって得があると思うのか、そのような点を考慮して企画制作に臨む必要があります。もちろん、クライアントの理念や提供価値はメディア制作に反映しなければなりませんが、それを広告コミュニケーションに反映することだけが本来の目的ではありません。
広告は実際に人に行動を起こしてもらわなければなりませんから、そのためには誘導する手段が必要になります。発信側があまりにロジカルなアプローチをしても、人の反応を引き出すことには必ずしも繋がりません。紙は情報の更新性の観点から、最近では情報伝達ツールとしての位置付けが低く見られがちな面もあると思います。だからこそ保管性、見やすさ、手触りの質感で、デジタルメディアと勝負をしていく必要があります。
1つ事例をお話ししますと、カルチャーセンターに置いてあるチラシに多彩な教室の案内が並んでいると、見る側はワクワクします。ポイントは、たくさんの選択肢から選べるという感覚が無意識に作用するためです。
しかし、これがスマホで閲覧するとなると、スクロールしないと全体を見られないため、直観的な選択のワクワク感を喚起しにくくなります。
ワクワクを感じると、より手に取って持ち帰りやすく、しかもまたあとで見ようと、取っておくようになります。情報源が「手を伸ばせばまたすぐに見られる」、特定の情報取得のために「実体として目に付くところにある」ことは大事です。これは、情報を引き出すことに長けているスマホに比べて、はるかに行動誘導を起こしやすくします。手っ取り早くてワクワクさせることに長けたリアルメディア市場は、本来ならば一層そのアドバンテージを評価されて然るべきでしょう。
弊社では、セイリエンスを喚起するバーコ印刷やUV厚盛り印刷のような盛上げ印刷を、卓上プリンターでオンデマンド制作できる新たなデバイスも提案しています。プレミアム感のあるDMや各種カード類を簡単に少量から制作できますから、ご興味があればいつでもご相談ください。人間の思考反応に基づいて行動誘導させる紙メディアを企画提案すれば、デジタルメディアとは一線を画すコミュニケーションメディアとして一層バリューアップできると考えています。
————露木 聡
