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(212) 直恵
企業らしさを引き出し、筆で心に触れるデザインを表現する
社名や店名、ロゴなどを書く場合に、既存のフォントが使用されることが多いが、一方で独自性や訴求力を求めて筆文字を使うケースも少なくない。特に和風の店名や商品などでは、書道家によって書かれた筆文字が目立つ。筆で書いた文字には、デジタルのフォントとは明らかにタッチが異なり、独特の魅力と個性が表現される。そんな、筆で文字を書いてデザインを表現しているデザイン書道家という職種があることをご存じだろうか。今回はデザイン書道家として幅広く活躍されている直恵なおえさんにインタビューし、書道との出会いから、デザイン書道家として歩むことになった経緯、仕事の仕方などについて話を伺った。
直恵 NAOE
- PROFILE
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神奈川県生まれ。1998年文部省(現文科省)後援硬筆書写技能検定1級に合格。2005年二松学舎大学文学部卒業。08年MACデザインアカデミー修了。08年~16年中小企業数社の広報、デザイン業務に従事。17年千葉でフリーランスとして活動開始。18年『日本のデサイン書道家』(マール社)に掲載。19年『大福帳シリーズ』(国宝社)の題字を担当。20年(一社)日本デザイン書道作家協会に入会。『心に残る和の年賀状 令和丑年版』(インプレスブックス)に作品掲載。
中小企業や店舗でグラフィックデザインを手掛けてフリーになる
Q 書道との出会いについて教えてください。
小学3年生の時に近所に大きな書道教室があり、そこに通い始めたのが書道との出会いになります。1クラスに何人も通っているような、町では有名な教室でした。中学に入って教室が閉じられてからも独学で書道を続けて、高校1年生の時に文部省(現文科省)後援の硬筆書写技能検定1級(指導者免許相当)と毛筆書写技能検定2級を受験し、それぞれ合格しました。大学は書道で有名な二松学舎大学に書道での自己推薦で入学しました。
Q 卒業後はデザイン書道を目指そうとされたのでしょうか?
いえ。大学生の時に、書道を活かしたグラフィックデザインの仕事をしている会社を紹介した雑誌記事を知り合いから見せられて、「デザイン書道」というものは知ってはいましたが、その頃は日本文化自体に興味があったので、着物に関する仕事に就きたいと考えて大手の呉服問屋に就職しました。でも、なぜか配属先が海外ブランドの寝具を扱う部署になり、ルート営業をすることになったのです(笑) 。その後、出産で退職し次の仕事を考えていた頃に、デザイン書道に関する仕事に進もうとMACデザインアカデミーに入学して、グラフィックデザインと毛筆カリグラフィー(デザイン書道)を習ったのです。修了後すぐにはデザインの専門職には就けませんでしたが、チェーン展開する飲食店で看板の文字制作や印刷物の作成に携わったことがきっかけで、徐々にデザインの仕事も増えていきました。
Q 子育てをしながらの仕事は大変だったと思いますが、フリーランスになられた経緯は ···。
二人目の子どもを出産した時に、その飲食店を退職して千葉市の主人の実家に引っ越したのですが、総務や給与計算の経験があるということで、千葉市内の大手会計事務所にスカウトされ入社しました。そこで千葉駅の再開発事業で商店街のメンバーとして活動をしていた時に、会計事務所の顧客である企業や商店の方々に、ロゴ制作を会社の試験的事業としてやらせてもらいました。しかし、事業として続けるのは難しいという判断で打ち切りになったのですが、それでも自分がしている仕事は絶対に役に立っていると感じていたので、フリーランスになってデザイン業務を本格的に請け負うことにしたのです。
Q デザイン書道家になられたきっかけは何だったのでしょうか?
異業種交流会に参加した時に、グラフィックデザイナーはたくさんいるから、筆文字が書けるのであればもっと前面に打ち出したほうがいいと言われて、「毛筆カリグラファー」と名乗って企業や商品のロゴ制作をするようになったのです。そんな矢先に、一般社団法人日本デザイン書道作家協会(JDCA)の久木田理事長より、『日本のデザイン書道家』(マール社発行)という書籍を出版するので掲載されませんか、と自分のHPにお問い合わせをいただきました。本に紹介されたことをきっかけに、デザイン書道家を肩書きにすることにしました。
Q HP は本当に必要ですよね。HP がないとインターネットで検索しても出てきません。
はい。HPは今や不可欠です。フリーになるタイミングに合わせてHPを開設し、そこに作品などをアップしていたので、HPがうまく育ったことが、先ほど述べた本の掲載に繋がる要因になったのではと思います。これまで名刺やロゴを作る際に、HPを持っていないお客様にはSNSでもいいので、できるところから情報発信できる媒体を作ったほうがよいというアドバイスをしています。HPがあれば安心材料にもなります。営業や求人など目的に合ったものを作れば、効果が発揮されるということをお客様には伝えています。
提案したデザインはイメージが違えば断って構わない
Q 印刷関連会社と仕事をされたことはありますか?
印刷会社さんではありませんが昨年、製本会社の株式会社国宝社さんの取締役の方が、社内に「国宝堂」という和綴じ文房具のオリジナルブランドを立ち上げられ、その商品の1つとして「大福帳」を作ることになった時に、題字の仕事を担当させていただきました。異業種交流会で、私が筆ペンでゲストの名札の社名と名前を書いた文字を見られたことが契機となって仕事に結びつきました。
Q 仕事を引き受ける際に、信条にされていることは何でしょうか?
在籍していた中小企業においてCIのルールが社内に浸透していないことが多々ありましたので、ロゴを制作する場合は、なぜロゴを作りたいのか、どうやって使う計画を立てているのかを確認してから、ロゴ制作の仕事をお受けするようにしています。そして、1回作ったものでもイメージが合わないのであれば、遠慮なく断っていただいても構わないと伝えています。これは筆文字に限らず、グラフィックデザインでも同じです。修正依頼があればもちろん応じますが、それはあまりにイメージが違う場合です。ただし、これまで実際に断られたことはありませんが···。
Q デザインに対する対価はどうされているのでしょうか?
初回の提案でお断りされても費用は頂いておりません。真摯に仕事を依頼されたお客様には、デザインを提示して検討された後に断わられても、先ほどお話ししたように提案したデザインの費用をいただくことはしていません。
以前、依頼してきた企業さんと打ち合わせをしていた時に、もっと宣伝できれば売れると思った商品がありました。しかし、企業にも事情があったためか、なかなか一歩を踏み出せないでいました。無理やりこちらから提案するのも気が引けますからね。反対にSNSのページなど外枠を制作したら、積極的に営業を始められたお客様もいました。いくら良いデザインを提案しても使われないのはもったいないですから、無駄にならないようにお手伝いをして、お客様の営業支援になる仕事をするよう心掛けています。
手書きの文字には見た人がイメージを膨らませる力がある
Q それは印刷営業にも言えますね。顧客のために良い提案をしても、顧客が本気になって考え、動いてくれないと、提案が無になります。
はい。また、名刺を作ってそれを使っているうちにどうも反応がよくないとなった場合に、再度作り直すのはなかなか難しいと思いますが、1年以内で、しかもマイナーチェンジの場合でしたら無料でデザインを修正させていただいています。特に名刺は営業でよく使うものですから、それが成果に繋がらなければ意味がないですからね。結果的に私も改善に繋がる意見をもらえることになり、良い面もあります。
Q なるほど。アフターフォローをきっちりとされていらっしゃるのですね。ところで、デザイン書道とは何を指すのでしょうか?
デサイン書道とは商業書道とも言われます。書道との違いは何かなど、よく聞かれることがありますが、まず、筆文字を見て読めることが最も大切だと考えています。商業広告がベースになっていますから、企業や店舗の名称、商品名、ロゴなどを筆文字で書いてデザインする際に、読めて認識してもらうことがデザイン書道の本筋になると思っています。筆文字はあくまでもデザインツールの一つとして私は考えており、筆文字でデザインしたほうが効果があると判断した時に筆文字を使うようにしています。手書きの文字には見た人が文字からイメージを膨らませることができる力があり、それがメリットの一つと言えるでしょう。筆文字の名刺を何枚か制作しましたが、名前の筆文字から話が展開し、商談が上手く行ったケースを伺ったことがあります。
筆文字に限った話ではありませんが、名刺をリニューアルしたいというご依頼で、今使っている名刺では文字小さくご高齢の方が読めないので、大きめにしてくださいと言われました。全くその通りで、いくらお洒落なデザインをしても文字が読めなければ意味がありませんからね。
Q 書道を習っていないデザイナーが筆文字を書いたりすることがありますが、どう思われますか?
書道の技能を磨いてきた人と書道を習っていない人とでは、経験者が見ればその違いが分かります。書道を習ってきた人の作品には、文字のバランスの良さや美しさがあるだけでなく、細い字であっても力強さ、芯のようなものが感じとれます。さらにデザイン書道となると、その筆文字が店名や商品を上手く表現していて、見た人にしっかりとイメージを伝えるものでなければなりません。市場には多種多様な筆文字が存在しますが、一つひとつ見ていますと、これは商品の特徴を表している文字であるとか、バランスが素晴らしい文字であるとかが読みとれたりできます。しかし、中には明らかに素人が書いたアンバランスな文字も見受けられます。
ただし、デザイン書道には資格がありませんから、誰でもデザイン書道家を名乗ることができます。非常に曖昧な状況にあると言えるでしょう。大切なことはお客様の要望にしっかり応えられ、より良いデザインを提案できることではないでしょうか。筆文字を使う以上は、その文字で伝えなければならないことを、確実に伝えていくことが大事であると、考えています。
そして、ブランディングや集客、販促をサポートすることで、お客様に喜んでいただけるかどうかが重要になります。デザイン書道家は書家でもあるわけですが、同時に忘れてはいけないことは、デザイナーとして、デザインでお客様のビジネスや売上アップに貢献することだと考えています。そこは常に意識して仕事と向かい合っています。

直恵さんが題字を書かれた「大福帳」
————直恵
