月刊GCJ
GCJパーソンズ
(156) 小川 亮
リサーチ×デザインで新しい価値の創造を目指す
パッケージデザインを中心に年間200商品を超える商品開発をサポートしている株式会社プラグ。今月は同社の小川亮社長に話を伺った。デザイン会社の旧アイ・コーポレーションの社長としてパッケージデザイン制作を率いてきたが、一昨年7月に、調査会社CPPと統合し、社名を株式会社プラグとして新たにスタートを切った。リサーチとデザインの2つの領域を掛け合わせることで、従来の商品開発プロセスとの異なるアプローチで、商品開発を提案するビジネスを展開している。「これからの商品開発では、デザイナーの発想法をモデルにした『デザイン思考』の商品開発プロセスがますます重宝されるようになる」という小川社長。デザインの道に進まれた経緯、経営理念、デザインを考える現場、これからのビジネスなど、多角的に語っていただいた。
小川 亮 OGAWA MAKOTO
- PROFILE
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1971年東京生まれ。1994年慶應義塾大学環境情報部卒業。キッコーマン(株)に入社。マーケティング室市場調査部・販促企画部。2001年慶應ビジネススクール卒業。同年(株)アイ・コーポレーション入社。2007年同社代表取締役に就任。2014年7月(株)プラグ代表取締役社長に就任。日本パッケージデザイン協会理事、日本マーケティング学会委員、商品開発・管理学会、日本デザイン学会等会員。著書 : 「図解でわかるパッケージデザインマーケティング」(日本能率協会マネジメントセンター)等。
商品の企画開発から携わることで顧客との関係を密にしていく
——大学卒業後にキッコーマンに入社されてから、パッケージデザインに進まれるまでの経緯をお聞かせください。
小川キッコーマンでは宣伝部、市場調査部、販促企画部に所属し、マーケティング業務に携わっていました。5年ほど経って、経営の勉強をするために、会社を退職して慶應ビジネス・スクール(KBS)に入りました。KBSを出てからいろいろとビジネスモデルを考えているうちに、パッケージデザインに注目しました。
——なぜ、パッケージデザインを選ばれたのですか?
小川パッケージデザインはコミュニケーション活動の一番初めだからです。コミュニケーションの一番手前の段階から携わることができるので、後で広告の提案や、ブランディング、販促ビジネスなど、次の仕事の提案がしやすくなると考えたからです。それでパッケージデザインを選ぶことにしました。
——企画開発で関わっていれば、次の仕事も持ち掛けやすくなりますね。
小川ええ。普段からコミュニケーションがとれていますから、お客様の考えや方向性を理解することができます。お客様にとっても、自社のことを解っていて一緒に仕事をしているデザイン会社に頼んだ方が、スムーズに事が運ぶメリットがあります。
それで、5年間かけて1,200人を越える外部のデザイナーを集め、社内のデザイナーがプロジェクトリーダーとなり、パッケージデザイン開発を行うサービスをしていました。他のデザイン会社にはないサービスですので、いろいろな切り口のデザインが出来上がってくることがクライアントに喜ばれ、また、様々なメディアでも取り上げていただきました。注目されたことが契機となって、パッケージデザインを扱うビジネスを拡大していったというのが、これまでの経緯です。
——一昨年、調査会社と合併されて新会社を設立されましたが……。
小川14年ほどパッケージデザインの仕事をしてきました。次のステップを考えたときに、商品開発には欠かせない市場調査と融合することで、新しい課題解決の方法や、イノベーティブな商品開発プロセスの提案をしていきたいと考えたのです。そこで以前からお付き合いがあった調査会社と、一緒にリサーチとデザインを統合させた会社を創ろうと声をかけ、一昨年の7月に株式会社プラグを設立しました。
デザイン思考に則って関係者全員で情報を共有し創造する
——最近の商品開発の方向性はどうなっているのでしょうか?
小川デザイン思考、デザイン・シンキングという言葉が取り沙汰されているように、生活者の行動や気持ち、考え方に視点を置いて、デザインベースで商品開発を行っていく方法が注目されています。従来の商品開発は、コンセプト開発→ネーミング開発→パッケージ開発のように、直線的な流れで進んでいました。これに対し、最近注目されているデザイン思考の商品開発は、消費者を観察し課題を抽出したら、解決策をとりあえず絵や形にしてみる。そして、また消費者に見て使ってもらい、そこから得られた課題を解決するデザインを作るという、サイクル型の商品開発になっています。
——具体的な例としましては?
小川例えば、当社ではトイレットペーパーの開発で、実際に消費者が持ち帰っている姿を観察したり、トイレットペーパーを持っている人にインタビューしたりしました。すると、高齢者がカートにトイレットペーパーを掛けるのはバランスが悪いこと。お母さんが自転車のハンドルに引っ掛けて走るのもバランスが悪く危ないこと。また、着飾った女性が持ち帰る姿に違和感があることなどが分かったのです。それらの事象をリサーチャーやデザイナーが集まって、課題を出して改善点を話し合います。出たアイデアでプロトタイプを作って、この商品なら売れそうだとみんなが感じたものを、デザインに仕上げていきます。消費者の生活習慣にマッチしたトイレットペーパーのあり方を追求していった結果、肩掛けができて取っての長さを調節できるトイレットペーパーのパッケージに行き着きました。このように、トイレットペーパーとはそもそもどうあるべきなのか。新たな視点で見つめ直して課題を探ることから始めたわけです。
——デザイン思考型で開発したことでより良いものができたということでしょうか?
小川はい。リサーチャーとデザイナーが現場で観察を行い、情報や課題を共有することが大切です。クライアントには消費者の生の声を届けることで説得力が生まれますし、また、共感もしていただけます。しかも、ドラッグストア等でトイレットペーパーを買いますと、かさばりますから、他の商品が売れなかったのですが、新しいパッケージにしますと、手が空きますから、他の商品も買っていただけることが分かり、お店としても売上増というメリットが出てきます。
——では、いまデザインの考え方は変わりつつあるのでしょうか?
小川当社はじめさまざまなところで、デザイン思考を取り入れるケースが増えています。クライアント、デザイナー、リサーチャーが、商品開発に向けてプロジェクト会議を行い、関係者全員でミーティングをします。消費者や商品のターゲットになる人たちに、前述のようにインタビューしたり、店頭に行って買い物客の行動を観察したりして情報を集めます。再度メンバーが集まってアイデアを創出するためのワークショップを開いて、そこで出されたアイデアについて議論を重ねて、最適な商品やパッケージを皆で導き出し、プロトタイプも作っていきます。そして、出来上がったプロトタイプを、クライアントや消費者に見ていただき、さらにフィードバックしていきます。
パッケージデザインの人気度をランキング付けしたデータの販売へ
——クライアントや消費者を巻き込んで商品開発やデザインを創出していくのですね。
小川ええ。そうすることで、より消費者ニーズを満たす商品にしていくわけです。当社では140万人の調査モニターを抱えています。その方達を対象に、春と秋の年2回、大規模な新商品のアンケート調査も行っています。1回の調査でビール、お茶や調味料など22のカテゴリー450商品のパッケージデザインについて、2万人にアンケートを行います。それぞれのパッケージデザインについて、どの程度好きなのか、そして、その理由を聞きます。回答したものを集約しデータベース化し、450商品の人気度をランキング付けしています。
その年、その季節によって、どのようなデザインが人気になっているのかトレンドが見えてきますから、メーカーでは次の商品開発に活かすことができます。このデータを販売してほしいというお問い合わせを多くいただいており、この春の調査結果からデータ販売することを決め、今、準備をしています。
——ところで、印刷業界ではデザインへの対価が不明瞭なところがまだまだありますが……。
小川印刷業界ではデザイン料はタダにして、印刷で回収するといういわゆるコミコミの価格設定が主流だったと思います。しかしながら、最近この方法はかなり限界に来ていると思います。従来のこの方法は、市場成長が見込める時代に有効な営業方法でした。市場が縮小傾向にあり値下げ競争も激しい今の市場では、デザインを提案しても低価格で買い取られて(もしくは費用をもらえずに)、印刷は別会社にという話もよく聞きます。
デザイン事務所が存在しないような地域以外では、早めにデザイン料と印刷料を切り分けて、事業活動に見合った費用を請求できるようにすることで、市場環境の変化にスピーディに対応できる体制を作っておくことをおすすめします。
——ビジョンをお聞かせください。
小川まずは、商品やサービス開発において、イノベーションを生み出すような、リサーチとデザインを組み合わせたソリューションを提供することを突き進めていきます。また、海外、特にアジアへの進出を考えています。日本語のパッケージデザインを数カ国後に展開する依頼も増えておりますし、アジア各国で販売する商品のパッケージデザイン開発のお手伝いも増えております。現地にあわせたパッケージデザイン開発を行うため、各国とのデザイン会社の提携も行っています。今後は、日本市場だけでなく、アジアを中心とした海外市場に向けた商品開発支援も増やしていきたいと考えております。
(株)プラグのホームページ
https://www.plug-inc.jp/
