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(170) 有薗 悦克

クリエイターのおもいを印刷でカタチにする

東京都墨田区の印刷会社、株式会社サンコーは、「co-lab」のコンセプトに共感し、2015年3月に「co-lab墨田亀沢:re-printing」をスタートした。クリエイター専用のシェアオフィスとして、着実に地域のものづくり産業、クリエイター同士のコラボレーションに貢献している。同社もクリエイターから印刷の相談や発注を受け、新たな印刷受注に繋がっている。そのチーフ・コミュニティ・ファシリテーターとして運営に当たっているのが、経営企画室室長の有薗悦克さんである。印刷業の強みを活かしクリエイターの活動をサポートすることで厚い信頼を得て、ネットワークが広がっている。「co-lab墨田亀沢」の立ち上げから今日に至るまでの経緯、目指しているものなど、多角的に話を伺った。

有薗 悦克 ARIZONO YOSHIKATSU

PROFILE

1974年東京都生まれ。 1997年成蹊大学経済学部卒業、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社。2005年大手チェーンの買収などを担当し社長賞を受賞。2006年新星堂に提携推進担当の執行役員として出向。2008年 新星堂に転籍し、執行役員経営企画室長、執行役員社長室長として企業再生実務を担当。2013年8月㈱サンコーに入社。2015年印刷業の新たな可能性を広げるべく、墨田区の「新ものづくり創出拠点整備補助金」を活用し、「co-lab墨田亀沢:re-printing」をオープン。現在、経営企画室室長。

クリエイター専用のシェアオフィス「co-lab墨田亀沢」を運営

——大学卒業後、別の会社に就職され、さまざまな仕事に関わってこられたようですが……。

有薗1997年に大学を卒業してTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)に入社し、店舗開発部門から経営企画室での資本業務提携、予算管理などの仕事に携わってきました。その後同社で資本業務提携を担当した(株)新星堂に転籍し、企業再生の実務に携わってきました。年齢のことを考えると、そろそろ父親が経営するサンコーに戻って、後を継ぐ腹を決めなければならないと考え、2013年の秋にサンコーに入社しました。

——入社されてどのような活動をされたのでしょうか?

有薗会社に入ってまず感じたことは、「このままの会社の形態では未来がない。印刷会社として進むべき道を見つけなければ」という危機感でした。墨田区内の中小企業の後継者の勉強会にも参加し、その中で他業界の後継者が会社を業態転換していく処方箋として、「自社ブランドを創ること」「技術を深掘りしていくこと」「海外市場に進出していくこと」の3つがあると感じましたが、当社を含めた印刷業にそれを当てはめてみると、どの選択肢も取り得ません。

また、前職の人間関係を活かして営業をし、小口を中心に印刷受注を得るなど少しずつ信頼関係を築きながら仕事を増やしていきましたが、当社にはデザイナーが1人だけでしたので大きなプロジェクトになると対応しきれず、広告代理店や企画会社などの仕事が中心になり、企画段階から関わることは困難でした。結局、相見積りで印刷を受注するだけになってしまい、付加価値を高めることはできませんでした。だからと言って、自前で人件費など多大なコストを掛けてクリエイティブチームを社内に設けるかとなると、そこまでの体力はありませんでした。焦りはあるものの、どうしてよいかわからない、そんな状態でした。

——そのような中で「co-lab墨田亀沢」を立ち上げるきっかけとなったのは……。

有薗当社が借りていたこのビルのオーナーが倒産し、ビルが競売に掛けられてしまったことです。当社も印刷機を移動して会社を移転するのは難しく、そこで地元の信用金庫さんにバックアップをしていただき、ビルを任意売却で取得しました。するとビルの3階が空いてしまいその使い道を考えていたところ、墨田区から「新ものづくり創出拠点整備補助金」の話を頂きました。そこで、この場所をシェアオフィスにして、フリーランスのデザイナーの人たちに使ってもらうことを考えたのです。クリエイターを印刷で支援しつつ、会員同士で企画やデザインに強いチームを作って仕事ができたら、大きなプロジェクトを受注することができるのではないか。そう考えたのです。

それでいろいろなシェアオフィスを見ていく中で、「co-lab」のクリエイター同士の連帯感や、メンバー同士が繋がって集合体となって大きな仕事に取り組んでいるコンセプトに共感したわけです。それはまさに当社が望んでいたことでした。それで、私の方から是非「co-lab」の施設として運営したいとお願いしたところ賛同していただき、「co-lab墨田亀沢:re-printing」としてスタートすることができたのです。

さまざまに利用される地域の核となる場に

——なるほど。現在、会員は何名でどのような人たちがいらっしゃるのですか?

有薗現在20名に会員になってもらっています。グラフィックデザイナーからWebデザイナー、映像制作者、プロダクトデザイナー、また行政と一緒になって地域活性化のビジネスを展開されている人たちなど、実に多彩なクリエイティブワーカーが利用しています。

——地域に開かれた場にもなっているようですが……。

有薗 例えば、月に一度30名ほどの子供たちが集まるプログラミング教室に会場を提供しています。この勉強会を主宰している方はフリーランスのシステムエンジニアで、当施設の会員さんです。今後、プログラミングは小学校の授業での必修化が検討されているということもあって、非常に人気があり多数のキャンセル待ちが出ています。

——まさに地域と繋がる場所になっているわけですね。

有薗ええ。地域のクリエイターの団体が、ミーティングをする場所として利用されたり、会員同士がそれぞれの仕事でコラボレーションしたり、地域の企業の仕事を請け負ったりする打ち合わせの場になっています。また、クリエイターたちと当社がコラボレーションして、さまざまなプロジェクトを立ち上げ、媒体や印刷物を制作することもあります。それらの活動を通じて、この場が地域のコミュニティの核になりつつあります。

地域に根差した施設となったことで、当施設の会員になるために渋谷から転居してきたベンチャーもあります。これはスマホから住所が分からなくても相手に紙の手紙を送れる「eiffel(エッフェル)」というサービスを展開しているネットビジネスの会社です。サービスを本格展開するにあたって、Web側のシステムは完成していたのですが、ハガキを印刷する工程がネックとなっていました。発注を受けるたびに毎回街のプリントショップに行って印刷していたのです。そこで当社が印刷工程以降を請け負うことを提案し、会社を当施設に移して、墨田区でビジネス展開するようになりました。また、結婚式の招待状などのペーパーアイテムをデザインされているデザイン会社は、印刷関連産業が密集している墨田に魅力を感じ、自宅も含めて移転し当施設を利用しています。 両社とも、印刷会社がクリエイター専用のシェアオフィスを運営していることで、制作や印刷でいろいろと力になってくれるという理由から、ここに拠点を構えたわけです。

——御社としては印刷の仕事が増えるというメリットがあるのですね。

有薗 「co-lab墨田亀沢」を運営することで、サンコーの本業である印刷にプラスになっている点が大きいです。ですから、私は「co-lab墨田亀沢」の運営を頑張れば頑張るほど、本業がプラスになると信じています。この好循環の仕組みを作れたことが良かったと思っています。それと、見学者が全国から年間1000人近くも訪れてくださるので、それによって社員の意識も向上し、仕事のやる気が以前にも増して出てきた点も、当社にとってプラスになりました。

「co-lab墨田亀沢」のシェアオフィス内

「co-lab墨田亀沢」のシェアオフィス内

地域の職人とクリエイターでこれまでにないモノづくりを目指す

——クリエイターたちと仕事をする機会が増えてモチベーションが高まったと……。

有薗 はい。ここを運営していますと、地域のデザイナーさんから「こんなことをやりたいのですが、どうすれば良いのですか」という相談を受けることが増えました。どこの印刷会社に声をかけてよいのか分からないデザイナーにとっては、デザイナーが出入りしているシェアオフィスを印刷会社が運営しているのは、とても相談しやすいようです。当社としても新たなデザイナーと知り合うことで、今までになかった面白い印刷を手掛けることも増えました。  例えば、メンバーであるインクデザイン合同会社さんとは、オフセット印刷機で1枚ずつデザインが異なる、世界で1枚しかない名刺を制作しました。本来、大量生産が目的のオフセット印刷機で、1枚ずつデザインを変えて印刷することなど考えませんよね。それをあえて行うことで新しい価値を生みだしました。詳細は省きますが、当社の職人も入ってアイデアを出し合い、印刷も断裁も画期的な手法を用いています。

——今までの顧客にはない新しい印刷の仕事が入ってくるようになったのですね。

有薗 はい。しかもデザイナーと一緒に表現方法を考える仕事は、相見積りによる価格競争で勝ち得る、言うなれば「誰でもできる仕事ではなく、当社にしかできない仕事」です。このようにデザイナーと仕事をしていく中で当社も少しずつ仕事の質が変わりつつあり、企業理念に定めている「任せて良かった。ありがとう」と言っていただける仕事に近づいています。

——クリエイターたちが集まり、地域を活性化する原動力になっているようです。

有薗 そうですね。本来ならクリエイターの人たちは、渋谷など都心にオフィスを構えて仕事を始める人が多いと思います。なぜ、墨田にオフィスを構えたり、ここに相談に来てくれたりするのかと言えば、この地域にモノをつくる人たちが沢山いて、それがクリエイターにとっても価値あることだと感じているからだと思うのです。しかも、ここにはサンコーの印刷の職人がいるので、印刷の相談がしやすいですし、すぐに印刷に取り掛かれるメリットがあります。

東東京にはさまざまな業種の町工場がありますが、その町工場の職人の技術は世界トップクラスだと思うのです。その職人たちとクリエイターが一緒にモノづくりをすれば、世界のどこでも作れないモノが作れるようになるのではないかと。その思いを共有した東東京でシェアオフィスや創業支援施設を運営している2社と組んで「Eastside Goodside(イッサイガッサイ)東東京モノづくりHUB」を立ち上げて、東東京においてモノづくりで創業する人たちを支援する事業を始めました。新しいビジネスのアイデアを持った創業者と工場をつなぎ、事業の立ち上げをサポートすることで、産業が活性化し、町が活性化すれば印刷は自然と増えていく。そう考えて活動しています。そして、クリエイティブなプロジェクトをここからたくさん発信していければと考えています。

「co-lab墨田亀沢」のWebサイト

「co-lab墨田亀沢」のWebサイト
http://co-lab-sumida.jp/

この地域にモノをつくる人たちが沢山いて、
それがクリエイターにとっても価値あること。
しかも、サンコーの印刷の職人もいる。

———— 有薗 悦克

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