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(142) 橋元 賢次

セブ島で日本品質のアウトソーシングサービスを推進

近年、海外へ事業を委託するオフショアが広がりつつあるが、株式会社サイバーテックの代表取締役社長の橋元賢次さんは、2006年にフィリピンのセブ島にオフショア開発のITアウトソーシングセンターを設けて、着実にビジネスを拡大している。同社はXMLデータベース「NeoCore」でドキュメント分野の管理・運営システムを提供しており、印刷業界でも同システムを導入している企業が少なくない。そんな同社が推進しているアウトソーシングサービスは、デジタルコンテンツ制作・加工から、大量データ変換まで、日本品質で、しかも安価に提供する事業である。オフショアのメリット、フィリピン・セブ島を拠点に選んだ理由などについて話を伺った。デジタルコンテンツ制作を推進しているGC業界にとっても、新たな業務委託として参考になるだろう。

橋元 賢次 HASHIMOTO KENJI

PROFILE

1973年大阪府生まれ。1995年国立愛媛大学電気電子学科工学科卒業。同年4月沖電気工業株式会社入社。Cadence社VerilogXLを用いたHDL(論理記述)手法によるLSI設計、およびBorland社Turbo C++を用いたLSI評価用ソフトウェア開発業務に3年間携わる。1998年9月沖電気工業(株)を退社。サイバーテック有限会社(現、株式会社サイバーテック)設立し、代表取締役に就任。2001年4月XML/XML DBの受託開発を開始。2005年8月XMLデータベース事業をソニックソフトウェア社から取得。2006年5月フィリピン・セブに「セブITアウトソーシングセンター」を開設。2007年NeoCore事業をスタート。

英語力が高く、日本企業の進出が少ないフィリピン・セブに拠点を

——まず、オフショアについて教えていただけますか?

橋元IT業界でいうオフショア(開発)は、主に海外に業務を委託するという意味合いがあります。とくに情報システムやソフトウェアの開発業務を、人件費や事業コストの安い海外の事業者や海外の子会社に委託するというものです。因みに国内の賃金が安い地方の企業に開発業務を委託することをニアショア開発とも言います。当社は、10数年前からシステム開発をしてきましたが、当初から海外に進出することを念頭に置いていましたから、システム開発も海外で行うことを考えていました。2002年から東南アジアの各国を訪れ、事情を見学したのですが、最初は市場が大きくコストダウンが図れるということで、中国の上海にオフショア開発拠点を設けることを検討しましたが、いろいろあって中国でのオフショア開発は止めることにしました。やはり今後の市場を考えると、英語圏で開発していくことが重要だと再認識したのです。

——なるほど。フィリピンでITアウトソーシングサービスセンターを設けられた理由は・・・。

橋元英語圏にいずれ進出することを視野に入れ、会社として英語力を手に入れることを求めていました。そのような中、フィリピンは英語力がずば抜けて高かったからです。当初は自社向けのみで考えていましたが、日本国内で英語対応を含め、様々な課題をお持ちのお客様がおられることに気付きました。そういった課題を解決させていただくため、日本国内の企業にも当社のオフショアサービスを利用していただければと思い、フィリピンにしました。現在は広くご活用いただいております。

——なぜ、セブ島にセンターを設置されたのでしょうか?

橋元2005年に渡航した時に首都のマニラと比べて賃金が相対的に安かったこと。著名な日系IT企業がほとんど進出していなかったので、優秀な人材を確保しやすいことなどがあったからです。とくにセブ島の人たちの英語力が、フィリピン全土において最も高い点も大きな要因でした。当社のセンターのセールスポイントのキーワードは『日本品質をフィリピン価格で』を掲げていますが、そのために、100%日本人スタッフが窓口になって国内委託と同等の対応や、また、現地スタッフの採用基準も高くして、継続的にトレーニングしています。とにかく英語対応が得意で全員ネイティブレベルにあります。翻訳や英語のWebサイト制作・英語サポート代行にはお勧めです。しかもサービスを開始して既に9年が経ち、現地を熟知した運営実績があることも強みです。今では独立系の日系ITサービス企業では2番目の規模になります。昨年7月には新しいオフィスに移転し、さらなる規模拡大を図っています。

日本人スタッフが品質管理を行いコミュニケーションを重視した業務を

——日本品質に合わせている点について、もう少し詳しくお話していただけますか?

橋元コミュニケーションと品質管理は日本人のスタッフが完全対応していますから、日本からお客様が日本語で作業指示することができますし、受発注手続きは日本の本社で行いますから、海外に委託しているという感覚は全く感じないと思います。現地での作業内容のチェックも日本人スタッフがダブルチェック体制で行いますから、安心してお任せいただけると思います。因みに日本人スタッフは8名で、フィリピン人スタッフは30数名います(2015年1月末現在)。日本人スタッフが相当数いることから、トータルの人件費は高くならざるをえません。ですから、現地スタッフのみのオフショア価格よりも高くなりますが、その分、クオリティは国内品質を保持していますから、国内で地方企業にアウトソーシングされるよりは価格面・英語対応面において付加価値があると考えています。『安かろう。悪かろう』だけは絶対に避けることをポリシーにサービス展開しています。

——英語の翻訳業務、英語のWebサイト制作には向いていることが分ります。

橋元はい。公用語が英語でネイティブレベルの英語力を持っていますから、英語対応力に関しては自負しています。日本で日本人が翻訳するのも良いかもしれませんが、細かなニュアンスや正確性ではフィリピンの英語力には叶いません。英語翻訳や英語版Webサイト、英語版印刷物の制作をワンストップでお引き受けできるのは、お客様にとって大きなメリットだと考えています。それにIT製品のスキルトランスファー(担当者間の業務引き継ぎ)も可能ですから、英語で完全サポートできる点も強みです。英語とITが融合したハイブリッド制作とも言える業務が行えるわけですから、英語のマニュアル・仕様書制作では大いに力を発揮できると思います。

——なるほど。オフショアを活用する場合の注意点は・・・。

橋元海外の企業では「この開発ができますか?」と尋ねると、深く考えないで「できます」とすぐに返答してくることが多々あります。でも、実際に仕事を任せてみますと、できないことが多いのです。国内では阿吽の呼吸で判るかもしれませんが、海外ではしっかりとコミュニケーションをとって、細かに内容を伝えないと仕事が完結しないことがあるのです。その点を念頭に置いておくことが大切ですね。また、文化の違いから休日出勤や納期短縮に対する考え方が日本とは異なっていますから、思うように働いてくれない側面もあります。ですから、日本企業は現地の文化を受け入れることが必要ですし、現地の人たちの価値観を知って合わせていくことが重要になるでしょう。

そして、仕事はコミュニケーションを密にする必要や言語の違いから、仕事のスピードは決して速くありません。速さで言えば国内企業のアウトソーシングのほうが断然速いでしょう。コストについては、人件費は確かに安いですが、翻訳コスト、オペレーションコスト、マネージメントコストなどのさまざまなコストが掛かってきますから、現地の安さをそのまま享受することは難しいです。それらのコストをトータルで考えて、日本と比べてどうかという視点でオフショアを考えなければなりません。

そのことから、オフショアで成功する仕事の内容としては、「納期に余裕がある仕事」「翻訳コストやマネージメントコストが過大に掛からない仕事」。そのことから、言葉が介在しないデータの加工・編集業務や、一度操作方法を伝えたら繰り返しで良い反復業務などになると思います。

高い品質が保てて、安心して任せられるオフショアであれば利用価値は高い

——ワンストップで業務が行えるのは優位だと思いますが・・・。

橋元通常、印刷物にしてもWebでも、お客様が英語版を制作するとなると、翻訳と制作を別々の会社に発注されるケースがほとんどかと思います。それを当社ではセブで一括して請け負うことができますから、翻訳した物が正確であるかどうかのチェックから、レイアウトにデータがきちっと流し込まれ、媒体を完成させることまで、ワンストップで行えるので、生産効率を高めて短納期化につながります。

しかもキャッチコピーの提案・制作、画像処理においても、ただ加工処理するのではなく、DTP業務として携わることができる現地スタッフを採用し、業務に当たっていますから、お客様に付加価値の高いオフショアを提供できると思いますし、実際、高い評価をいただいています。アドビのソフトウェアをばりばり使えるオフショア拠点はほとんどありませんから、その点では、一風変わったオフショアセンターと言えるでしょう。

——アウトソーシングにおける契約はどのような形態になっているのでしょうか?

橋元利用方法としては、『ラボ契約』を結んで、現地スタッフを何名か抱え込んで、オフショアの最大限の価値を享受していただくことができます。また、「そこまで作業ボリュームがない」「閑散期と繁忙期があって、一律でスタッフを抱えることができない」「いきなりラボ契約するのではなく、まずはトライアル作業で試してみたい」というお客様には『スポット契約』が良いかと思います。また、仕事の案件ごとに委託する場合、例えば、Webサイトのリニューアル・更新・運営保守や、ドキュメント・DTPデータのWeb化、さらに前述しました英語Webサイト構築・ドキュメントの翻訳などは、一般の『業務委託契約』がお勧めです。印刷業界ではオフショアはまだまだ聞きなれない言葉かと思いますが、印刷会社は昔から中国などでデータ入力を中心に業務委託してきた歴史があります。基本的には安価な海外に委託する考えは変わりません。大切なことは、高い品質が保てるかどうか。安心できる体制であるかどうか。コミュニケーションを重視し納期を守ってくれるかどうか。そして、期待以上の成果が見込めるかどうかではないでしょうか。当社では安価を全面に打ち出すのではなく、それらのすべてに応えていくことを理念としており、また自信を持っています。今後、印刷業界の皆様がオフショアを考えるのであれば、フィリピンのセブはお勧めです。

——そうですか。今後のビジョンは・・・。

橋元現在、セブでのオフショアの規模は、第2位なのですが、数年後には第1位になるよう目指しています。当社は数字ではなく、文字・文書のあらゆるドキュメントを扱っている会社です。ドキュメント分野でNo.1のXMLソフトウェアとITサービスを提供し、お客様の会社や従業員の方の物心両面を豊かにしたいと思っています。

セブのアウトソーシングセンター内

セブのアウトソーシングセンター内。有能なスタッフが日本品質の業務に当たる

会社が英語圏にいずれ進出することを視野に入れ、英語力を手に入れることを求めていました

———— 橋元 賢次

株式会社サイバーテックのホームページ
http://www.cybertech.co.jp

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