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(176) 南雲 治嘉

デザインの本質を学びビジネスに役立たせる

視覚心理学、色彩生理学、デジタル色彩等の分野からデザインの本質を説くグラフィックデザイナー、デザインコンサルタントの南雲治嘉さん。デジタルハリウッド大学大学院ではデザインビジネス開発ラボの教授も務め、「営業やマーケティングにおいてデザインは不可欠であり、デザインなくしてビジネスは成り立たない」と、デザインビジネスの重要性を説いて、ビジネスマンにデザインの本質を教えている。一方で、近年デザインに注力している中国に講師として招聘され、国立大学はじめさまざまな大学でデザインについて講義をし、日中の架け橋としての役割も担っている。そんな南雲さんにデザインの本質、デザインとビジネスの関係、中国のデザイン事情など幅広い観点から話を伺った。

南雲 治嘉 NAGUMO HARUYOSHI

PROFILE

1944年東京生まれ。金沢美術工芸大学産業美術学科卒業後、グラフィックデザイナー、アートディレクターとして活躍。デザイン理論、表現技術、色彩などの分野で新理論を打ち立て、研究と実践を行う。特にデジタル色彩をシステム化し提唱した日本の先駆者。1990年に株式会社ハルメージを設立し、グラフィックを中心としたデザイン活動を展開。著書はすでに60冊を超え、2006年に著した『100の悩みに100のデザイン』(光文社新書)はベストセラーとなった。一般社団法人日本カラーイメージ協会 理事長。デジタルハリウッド大学教授。中国メディア大学教授。

デザインビジネス開発ラボでビジネスマンにデザインを教える

——デジタルハリウッド大学大学院の「デザインビジネス開発ラボ」では、何を教えられているのでしょうか?

南雲デザインビジネス開発ラボは、10年ほど前に、デザインを切り口にビジネスを考えるために設立されました。それ以前は、ビジネスにおいてデザインマネジメントの必要性が叫ばれておらず、当ラボが日本で初めて企業におけるデザインビジネスを推進する先駆けとなったと認識しています。ラボでは、学生だけでなく、多数のビジネスマンが授業を受けに来ています。企業がビジネスを進めていく上で、あるいは商品や製品を開発していく上で、デザインを切り口にビジネスを展開することが重要だと認識し、研究の発信を行っています。主に企業と連携しながらデザインビジネスの提案をさせていただいています。

——なるほど。デザインを切り口にビジネスを提案する、企業にとっての即戦力になることをされているのですね。

南雲ええ。実際のビジネスマンは、デザインの本質を知らないままデザインという言葉を使っていることがほとんどです。営業では「当社の製品はデザインが優れています」とユーザーに話すわけですが、では、そのデザインの優れている点を何点か挙げてみてください、と尋ねると、答えられないビジネスマンが目につきます。機能面での特長は言えても、形や色のデザインについての優位性は具体的に答えられないわけです。ですから、ビジネスマンに是非ともデザイン感覚を身につけてもらいたいのです。同時にデザインの根底にある楽しさや奥深さを知ってもらいたいです。そのことはラボで勉強できるようになっています。

——昨今は、デザイン・シンキングやデザインマネジメントと言って、経営者もデザインを学ぶ必要があるという風潮がありますが……。

南雲経営自体にデザイン思考を取り入れることは良いことだと思いますし、どんどんやっていただいて構わないのですが、ただし、デザイン的な考え方で経営に臨んだからと言って、商品や製品が良いデザインになるとは限りません。大事なことはデザインの本質を知って、それに沿って商品や製品をデザインしていくことであり、そのデザインによってユーザーの興味を引くことが大切になります。

 商品が売れない理由はさまざまでしょうが、もしかして、デザインが悪いから売れていないこともあるわけです。デザインビジネスの意義は、デザインの知識をビジネスマンに習得してもらうだけでなく、デザイナーにはデザインだけでは解決できないことを知ってもらい、ビジネス感覚も身につけることを促しています。そして当ラボでは、デザインとビジネスの両者の力を合わせて問題を解決していくことを提唱し実践しています。例えば、実際に企業が在庫を抱えて売れない製品をリ・デザインすることもします。新規で製品を開発するのは、かなりの費用を投入する必要がありますし、良いと思ったデザインの製品でも売れない場合が生じます。それなら在庫の製品をリ・デザインして売ったほうが、新規に投資するよりは低コストで済みます。しかも上手く売れれば在庫も処分できますから、リ・デザインで売っていくことも選択肢の一つということになるわけです。

デザインの目的は「笑顔」「感動」「幸せ」の3つをユーザーに与えること

——では、デザインする上で何を重要にすべきなのでしょうか。

南雲デザインには目的があります。目的を理解するとデザインをどう考えればよいか分かります。それは3つあります。

 第一はユーザーが商品を手にした時に、喜ばせ笑顔にすることができるかどうかです。例えば、PR誌を受け取った時に、ユーザーが笑顔にならなければデザイナーの仕事は失敗したことになります。ユーザーを笑顔にすることが、デザイナーの最大の目的と言ってよいでしょう。

 第二はユーザーを感動(共鳴)させることです。美的なもので視覚や感性に訴えたり、機能性が優れていたりすると、人は感動するわけですね。デザインで感動させることは大切なポイントであり商品価値になります。

 最後の第三は、例えば製品を使った時にユーザーを幸せにすることです。つまり、充足感を与えられるかどうかです。本でも面白い本を読めば楽しかったという満足感が得られますよね。商品や製品も同じです。

 デザインは、最初にユーザーの心を引くことから始め、次にどのように心を動かしていくかというアイデアを練ることが重要になります。そして、結果的に笑顔や感動、幸せを提供することが使命とも言えます。それらをユーザーに与えるために、デザインでは色や形を駆使していくわけです。

——優れたデザインなのに売れないのは、どこに原因があると思われますか?

南雲製品の開発・販売に関わる技術者、デザイナー、営業マンの三者が一体となって情報を共有し、デザインを考えていないからだと思います。それぞれには優れた人材がいて頑張っているにも関わらず、ヒット商品が生まれないのは、三者の目的がそれぞれ違っていることに起因します。先ほど言いましたように、三者がユーザーを笑顔にして感動させて幸せにさせることで一致していれば、そのためにどのような機能を製品に搭載すればよいのか、また、感動してもらうためのデザインはどうすればよいのか、充足感を持ってもらうためにどうすればよいのか、それぞれの観点から三者が共通の認識を持って開発・販売に取り組まなければ、よい結果は望めません

——提唱されているデジタル色彩について説明していただけますか?

南雲色とは光であり、光は電磁波です。電磁波である色によっては直接人の脳に刺激を与え、生理反応を利用する色彩が先端色彩になります。そのように生理的な側面で色を考えますと、見る人にインパクト・興味を与える色とはどういう色なのかが分かってきます。人の心を動かす色彩を考えるわけです。今日のデザインはデジタル色彩を使って作業をし、配色によってメッセージを送ることが重視されています。そこで日本カラーイメージ協会では、仕事の幅を広げて、配色力を身につけるための「デジタル色彩士検定」を実施しています。

デザインはユーザビリティを追求しこれからも進化していく

——なるほど。ところで、中国でデザインの講義を行っていらっしゃるようですが……。

南雲はい。7年ほど前に中国の外務省から声を掛けられたのを機に、中国メディア大学はじめいろいろな大学でデジタル色彩やデザインについて講義をさせてもらっています。近年、中国では国家事業とも言えるほどデザインに注力しており、なかでも日本のデザインに関心が高く、日本のデザインを学びたいという機運が高まっています。中国から招聘され、北京、上海、重慶、成都、深センなど各地でデザインについて講義や研修をしていますが、デザイナーや学生たちの意欲には目を見張るものがあります。今では月に1回ほど中国に訪れています。

 なぜ、私が中国に呼ばれるのかと言いますと、著書が30冊ほど中国語に翻訳されており、大学などのテキストで使われていることが要因のようです。学生たちは卒業後、プロのデザイナーになりたいこともあって、講義には多くの学生が集まります。しかし、今後、中国がデザイン力を付けますと、日本にとっては製品づくりで何かと脅威になってくるかもしれません。そんなことをつくづく感じます。

——そうですか。中国でも活躍されていらっしゃるのですね。さて、デザインビジネスやスタンスの行方についてどうお考えですか?

南雲ますますビジネスにおいてデザインに対する考え方が重視されていくようになるでしょう。そして、デザインはビジネスとコラボレーションしてまだまだ進化していくと思われます。それと、最終的に媒体を見たり、製品を使ったりしてもらうユーザーのことを考える、ユーザビリティを向上させるためのデザインが必要になります。ですから、ユーザーに満足してもらうためのデザインを、突き詰めていくことが大切だという認識が広がっていくでしょう。かつてのように有名なデザイナーが、ポスターを制作し“これがデザインだ”と、大上段に構えてデザインを提示し、企業や消費者がそれを使う時代は終焉を迎えました。デザインで一番重要とされるのは、結果的に商品や製品の売上面で貢献したかどうかです。その点を基本に良いデザインかどうかを判断する時代になりました。商品・製品を選ぶのは消費者ですから、消費者の側に立って、消費者に喜びと幸せをもたらすデザインを考えていくことが最も大切なのだということを、デザインに携わる人たちは自覚しなければならないと思います

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デザインビジネス開発ラボでテキストにもなっている著書

『デザイン×ビジネス デザインとは何か?』(クロスメディア・パブリッシング)

消費者の側に立って、
消費者に喜びと幸せをもたらす
デザインを考えること。

———— 南雲 治嘉