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(199) 権 成俊

顧客から「選ばれる理由」なくしては選んでもらえない

未だにホームページを開設していない企業が多い印刷業界であるが、市場では、ホームページを持ち戦略的にWebマーケティングを展開していかないと、生き残っていけない業種も存在している。今回は日本のWebコンサルティングの先駆者である、株式会社ゴンウェブコンサルティングの代表取締役 権成俊氏に戦略的なWebマーケティングのあり方、いま取り組んでいる事業などについて話を伺った。権社長は一昨年『なぜ、あなたのウェブには戦略がないのか?』の著書を出して好評を博した経緯があり、Webを活用したイノベーションを支援するコンサルタントとして活躍しているパーソンである。印刷業者でもいまからホームページを開設して戦略的にWebマーケティングに取り組んでいけば、新規顧客開拓、ネットでの新規ビジネスの展開など、道が開けてくるだろう。

権 成俊 GON NARUTOSHI

PROFILE

1973年横浜市生まれ。97年よりソフトバンク株式会社にてIT関連商品のECサイトディレクションに従事。2002年に株式会社ゴンウェブコンサルティング創業。日本のWebコンサルティングの先駆者として活躍。13年よりWebコンサルタントの育成、Web活用企業の支援のためのismを主宰。18年10月(一社)ウェブコンサルタント協会を設立。著書に『アマゾンに負けない、本当に強い会社が続けていること』(翔泳社)、『なぜ、あなたのウェブには戦略がないのか?』(技術評論社)などがある。

同じ商品・サービスの企業・店舗が増えて選ばれにくくなった

Q インターネットと関わるようになった経緯を教えてください。

1997年にソフトバンク株式会社のIT 関連企業のECサイトのディレクション業務に携わったのが、インターネットと関わりを持った最初になります。当時、いろいろな企業との間でWebに関する仕事をしたことで、Webサイトの戦略的な手法などさまざまなノウハウが蓄積されました。それでその経験を基に2002年にWebコンサルタントとして独立したのです。その時に私が定義したWebコンサルティングというものは、Webサイトの制作やWebマーケティングのコンサルティングではなくて、Webサイトを企業がどのように使うべきなのかというのに視点を置くものでした。

Q 当時はインターネットの黎明期だったかと思います。

市場ではこれからWebサイトが普及していく時期でしたから、Webコンサルティングをしますと言っても、ニーズを感じていただけることは少なかったです。当時の主な仕事は、お客様がWebサイトを作りたいと言ってきますと、企画を立てて外部のWebデザイナーに制作を任せることでした。業界の事情がこうであるから、このようなところに重点を置いて作ればよいというようなアドバイスが中心でした。Webサイトを上手く作るとか、それで集客をするという観点で作るということはまだありませんでした。

Q 今日では、Web サイトを開設しただけでは成果が出なくなったと言われています。その理由は何だと思われますか?

一言で言えば、戦略がないからです。つまり、インターネット上でお客様から「選ばれる理由」がないことが原因です。不動産業界で言いますと、インターネットがない時代の不動産屋は、駅前という良い立地にあれば、お客様は真っ先に来店してもらって物件を探してもらえたわけですが、今ではまずネット上で良い物件を探してから、多少交通の便が悪くてもその物件を扱っている不動産屋に足を運ぶようになりました。重要なことは他の不動産屋が扱っていない魅力的な物件やオリジナルの物件を扱っていること、つまり、「選ばれる理由」がなければならないということです。

Q では、同業他社と同じ商品を同じような価格で売っていては、もはや選ばれなくなったということでしょうか?

はい。これは全ての業界・業種に言えることです。それと、今日は同じような商品を扱う会社や店舗が非常に増えてきたことも、選ばれにくい要因になっています。例えば、「ぐるなび」で上野界隈の焼き鳥屋を検索しますと、あまりに多くの店舗が表示され絞り込むまで手間が掛かります。Googleでは「Googleマイビジネス」という、ローカルビジネス情報を表示する無料のツールを提供しています。このツールは、利用者が求めているエリアで実店舗を表示して、利用者を迎え入れやすくするものです。つまり、取り扱っている商品やサービス、店舗の場所を利用者に知ってもらえる機会が増えます。しかし、たくさんのお店が表示されますから、他店との明らかな違いが伝わらないと、来店には繋がりません。ただWebサイトに誘導しただけでは意味がないのです。

ベネフィットと差別的優位点の価値を伝える「AB3C」マーケティング

Q SEO 対策はあまり意味がないということでしょうか?

そうですね。当社のお客様はネット通販をされている方が多いのですが、このキーワードで検索された場合に1位にしてほしい、と言われることが多く、それで一応その通りにしてあげるわけですが、売上がほとんどない会社がいくら検索で1位に表示されても、結局、売上は伸びません。それは当然で、他店と同じ商品を他店より高く売っていれば買ってくれるわけがありません。それで売れないからと言って、リスティング広告を使うようになるのですが、売れない商品をいくら広告宣伝しても結局は売れないわけです。

Q では、どのようなアドバイスをされていらっしゃるのでしょうか?

商品開発やサービス開発に力点を置いて、その会社や店舗にしかない独自のものを売ることや、差別化や新たな付加価値を提供できる商品・サービスを目指すことを、顧客にコンサルティングしています。いまや人はWebから情報を得る「Web中心消費行動」をとります。これをしっかりと認知してそれぞれの業界に当てはめていきます。消費者はどんなタイミングでどんな情報を探しているのか、その時に競合と比較して自社が選ばれなければならないということを伝えています。

Q つまり、選ばれるための戦略的Web マーケティングの施策が大切だということですね。

はい。当社で開発した「AB3C」と呼んでいるフレームワークで、戦略的に考えていくことを推奨しています。元々は大前研一氏が提唱していた「Customer(お客様)」「Competitor( 競合他社)」「Company(自社の特徴)」の頭文字をとった3C が基になっていますが、より使いやすくするために、お客様がその商品・サービスを購入することで手に入れようとしている価値である「Benefit」(ベネフィット)と、自社と競合を比較した時に自社が選ばれる理由である「Advantage」(アドバンテージ=差別的優位点)の2つを明確にしていくことを提唱しています。このベネフィットを満たして、差別的優位点もあるということになって、3C が成立する状況になるというわけです。そうなった時に初めて戦略が成り立ち、お客様から商品・サービスが選ばれるようになります。

印刷会社さんで言えば、印刷物を作ろうとしている企業は全員お客様と考えがちですが、しかし、印刷会社はたくさんあります。その中で現実的に自社を選んでくれる企業は絞り込まれてきます。自社の近くにある企業なのか、付加価値の高い印刷物を制作してくれる印刷会社を探している企業なのか、あるいはその印刷会社の最も得意とする印刷技術を活用したいと考えている企業なのか、お客様がどこに価値を求めているのかを知り、その中から自社を選んでくれる顧客はどういう顧客なのかを考えなければなりません。本当の見込み客を絞り込んでいくことが大事なのです。そして、自社の強みを知り、強みを活かした戦略で競合との差別的優位点を持ち、それに沿ったWebサイトを制作してWebマーケティングを展開していくことが大事なのです。

Q その「AB3C」を実際のマーケティングに繋げていくことが大事だと…。

ええ。戦略が組織にしっかりと伝わっていれば、戦略とマーケティングが一気通貫となり、組織の動きに一貫性が生まれ、全体の効率が高まります。「AB3C」では、お客様の求める価値を提供できること、また競合と比較して好ましい違いがあることを確認するものです。実際にお客様に求める価値が提供されて、競合よりも好ましい違いがあることが伝われば、その商品やサービスは買ってくれるはずです。

Webコンサルタントを市場に輩出するウェブコンサルタント協会を設立

Q Web活用企業を支援するための育成、啓蒙に注力されていらっしゃるようですが…。

2013 年に、インターネットを活用した戦略とマーケティング教育を目的とした会員組織「ism(イズム)」を発足しました。インターネット時代の新しい事業の考え方を学び、合わせてWebマーケティングの手法、ノウハウを提供しています。そして、昨年10月にはWebを通じて中小企業のイノベーションを促進するために、私が代表理事となって一般社団法人ウェブコンサルタント協会を設立しました。協会の所在地は当社になります。客観的なスキル認定のための資格制度と、ウェブコンサルタントの活動を支援する会員制度を運営しています。

これまでWebコンサルタントを育成し輩出してきたわけですが、育成のペースが追い付かず、お客様のニーズに応えられていない状況にありました。そこでWebコンサルタントになって仕事をしたいという人の門戸を広げるために、資格制度を整備しセミナー・ワークショップを設けて、プロのWebコンサルタントを増やしていく仕組みとして、当協会を設立したのです。現在ウェブコンサルタントはじめ4つの資格を設けて受講者を募集しているところです。「AB3C」を軸にWebマーケティングやWeb 制作について学習していきます。Webに携わったことのない人でも大丈夫です。必要なスキルは入会後に学べます。ですから、印刷業界の方も入会されてWebコンサルタントの資格を取得し、お客様のWebサイトを戦略的に提案していただきたいです。ビジネスの場で役立つこと間違いありません。また、自社のWebサイトも改善できて、利益を生み出すWebサイトを作れるようになるでしょう。

Q 印刷業界ではWeb を経営に取り入れる術を持っていない経営者が多いかと思いますが…。

それは印刷業界が安定していた時期が長かったために、創業者たちと違って二代目、三代目の経営者は、自らイノベーションを起こそうという気持ちが出てこない環境だったからでしょう。一方、競争が激しい業界では、経営者は生き残るためにイノベーションを余儀なくされ新しいことにチャレンジせざるを得なかったのです。しかし、それでも印刷会社は強みを見出してチャレンジをしていくしかありません。そうしないと、いつかは淘汰されていくでしょう。商品・サービスの価値を高めて、顧客から「選ばれる理由」を作ってください。それを実現するのに数年は掛かりますが、腹をくくって事業計画を立ててイノベーションを起こしてください。それをほとんどやってこなかった印刷業界の皆さんばかりで勝負するわけですから、結局、重い腰を上げて取り組んだ企業が勝ち残るはずです。是非、チャレンジしていただきたいですね。

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権氏の著書2冊

「お客様の求める価値を提供できること、
競合と比較して好ましい違いがあること」を確認する。

———— 権 成俊