月刊GCJ
GCJパーソンズ
(134) 田中 信一
「印刷業は営業が大切」を訴える印刷コンサルタント
デザインおよびマーケティングコンサルタント業の株式会社ビジネスコミュニケーション研究所の代表取締役であり、印刷会社に営業の重要性を説き、経営・営業戦略をサポートしている田中信一さん。同社は印刷物制作だけでなくWebサイトの制作にも定評があり、数々の制作を引き受けてきた。製本組合のポータルサイト「製本のひきだし」を運営していることで、そのノウハウを活かして、GCJのポータルサイト「GCのトビラ」にも携わっていただいている。35年間印刷業界に携わってきた田中社長であるが、「印刷業は営業が大事」をモットーに、個人的にはコンサルタントとしてこれまで多くの印刷会社にアドバイスしてきた。印刷業界との関わり、現在の仕事、これからの印刷業のあり方など、幅広い角度から話を伺った。
田中 信一 TANAKA SHINICHI
- PROFILE
-
1956年福井県生まれ。1979年専修大学経済学部卒業後、印刷会社に就職。その時期に印刷業は営業が大切だと確信する。1989年株式会社ビジネスコミュニケーション研究所を設立し、印刷営業に特化したコンサルティング業を開始。営業研修、講演、コンサルティングを全国展開。「営業活動支援コンサルティング」「中・長期経営計画および年度経営計画の策定・実施コンサルティング」「営業管理職再生講座」「プロジェクト管理術」「営業革新」「業態変革」など多数のコンサルティングを実施。著書として「印刷営業・革新ノート」「こころときめく営業楽(学)1,2」他がある。
必死に営業で仕事を獲ってきて、会社の多額の借金を4年で返済
——以前は印刷会社に勤められていたとのことですが…。
田中大学を卒業したものの、第二次オイルショック後で就職難の時代でした。そこで遠い親せきが経営していた印刷会社に勤めることになったのが、印刷と関わることになったきっかけです。都心の好立地の印刷会社でしたが、規模は10数名と小さなところでしたから、写植打ちや営業、印刷オペレーターと、ありとあらゆる仕事をした記憶があります。しかし2年目に、社長が突然亡くなり、存続の危機に陥ったのを機に会社は一変しました。というのも、不明瞭な経理によって多額の借金を抱えていたことが判明したからです。それでその借金を返すために私を含め3名の社員が必死になって働き、その甲斐があって4年後には借金を返すことができました。その時期に営業で必死になって東奔西走した経験が、今日の私の礎を築くことになったのは確かだと思います。
——そうでしたか。そんなご苦労をされたのですね。
田中当時、メイン顧客の支援のもと、借り入れや手形のジャンプなどの処置をして、毎月ローンで返済していきました。3台あった印刷機はすべて売却し、営業だけの印刷会社にして、仕事を獲ってきては外注に仕事を渡すという方法に徹したわけです。
——設備を売却するのはなかなか勇気がいることだと思いますが…。
田中印刷会社は工場を大事にしているところがありますから、設備を手放すのは通常なら断腸の思いがあるでしょうが、どんなに立派な設備を持っていても、結局、営業が仕事を獲ってこないと何にもならないわけですよね。当時の私は若かったですし、設備に対する執着はなかったと思います。とにかくがむしゃらに働いた記憶しかありません。今にして思えば、印刷業において営業はとても大事であるということを、経験によって実感しました。
——なるほど。大切なのは営業力だということでしょうか。
田中もちろん、設備を効率的に動かすことや、高い生産力を持つのは印刷会社として重要です。しかし、私自身の体験から言いますと、実際に仕事を獲ってくる営業力がなければ元も子もないわけで、最終的には営業力が問われると思うのです。営業力があれば印刷自体は外注するなど、方法はいくらでもありますし、経営の仕方はいかようにもなります。当時はデザインから、写植、製版、印刷まですべて外注に出していたので、さまざまな会社と取引していました。会社にはほとんどいませんでしたし、それであらゆる仕事を覚えて、自然と印刷業務に精通するようになったと言えるでしょう。借金も返し終えて、景気が上向き、仕事が軌道に乗り出してからも、印刷機などの設備は導入せずブローカーとして事業を続けていました。社員も当初の3人から6、7人になってデザイン業務を社内で行うようになっていました。当時、1人当たり年間で5,000万円以上の売上を上げておりましたので儲かってはいたのですが、しかし、このままお客様に仕事をやらされている感じでは流石に良くないと思うようになったのです。
営業にも論理がという観点で、顧客の心を動かす理論武装が必要だと感じた
——お客様の言いなりで動いている状態に疑問を持たれたのでしょうか?
田中ええ。例えば、デザインを考えてお客様のところに持って行っても、「この色は好きではないのでデザインを変えてくれ」と、社長の好みで根拠もなく色を変えさせられるということに対して、疑問を持つようになったわけです。その社長さんに「このデザインにしたほうが御社にとっては良いことなのです」と、いうことを論理的に説明し、納得させられないものかと考えるようになったのです。それで経営的な視点に立ってデザインや印刷を説明できるだけの知識を身につけたいと考え、独学でマーケティングの勉強に取り組みました。全日本能率連盟認定の「経営計画士」の取得、船井総合研究所のセミナーに通って勉強するなど、いろいろなことにチャレンジして、感覚的な仕事を論理的に説明できるノウハウを身につけていきました。そして、20年ほど前に、印刷業の若い営業担当職の人たちに営業のことについてセミナーをしてほしいという依頼を受けたのがきっかけで、本格的に印刷業界に主軸を置いたコンサルタントビジネスを始めることになったのです。
——印刷業界のコンサルタントとしては草分け的な存在だったのでは…。
田中時代がそうさせたのか。営業を続けてきた結果がそうさせたと言えなくもないです。印刷業界で営業力の弱体化が言われるようになっていた時代でもありました。印刷技術がどんどん進むにつれて供給力も増えていく状況下で、営業には論理や戦略ではなく、設備を稼働させるための受注の獲得という考えが蔓延していたわけです。自分としては経験から営業には論理が不可欠であると確信していましたので、それを印刷業界の方々に知っていただきたいという思いを強く持っていたのです。それで勉強したことを印刷業に置き換えて、皆さんに伝えていくことに自分の存在価値があるのであれば、印刷業界に特化したコンサルティングを仕事にしようと考え今日まできているわけですが…。
——『印刷営業.COM』というwebサイトを運営されていますが…。
田中コンサルティングで学んだことを、全国の印刷会社さんに向けて、理論と実学を融合させた実践営業論や実践戦略論を提供させていただくために、昨年7月『印刷営業.COM』を立ち上げました。端的に言えば、印刷会社の営業や経営に特化したさまざまな研修やコンサルティングサービスを提供するためのWebサイトになります。印刷業の営業力強化や経営戦略の立案に主軸を置いていて、「公開セミナー」「教育・研修」「コンサルティング」「調査・研究」「書籍発行」などのお役に立てるコンテンツを発信しています。スキルアップ別の研修メニューでは、印刷営業パーソン向けの「こころときめく営業塾」はじめ、お客様の課題解決づくりを提案するための「ソリューション型営業の実践」、自社のワンストップサービスのプランをつくるセミナー、社員の意識改革を図るセミナーなど多彩に展開しています。また、階層別研修メニューでは、「新入社員研修」「若手・中堅営業研修」「営業管理者研修」「営業幹部研修&営業戦略策定」などを用意しています。今日印刷業界では市場の多様化、IT化の進展で過去の成功体験が通用しなくなりましたので、サバイバル時代に相応しい戦略を考えなければなりません。当社ではお客様の実情に合った戦略、中期経営計画の策定を支援いたします。
——いまや印刷通販時代と言えるわけですが、サイトを持っていない印刷会社はどのように対抗していけば良いのでしょうか?
田中その質問はよく印刷会社さんからされるのですが、印刷通販サイトでは基本的にサイトからの受注のみで営業担当者は置いていませんよね。お客様が通販サイトを利用されるのは営業マンは来なくて良いと思っているわけですが、それによって逆にますます人による営業活動の質が求められているのは間違いありません。通販で良いということは、これまで営業パーソンがやってきた活動が通販に置き換わっても何ら問題ないとも言えるわけです。営業活動とは工場とお客様の間で、原稿の運搬という用事をしていただけだったのかもしれませんね。もっとコミュニケーションを深め、本質的な提案ができる営業マンを育成していくことが求められているのではないかと…。ですから、質の高い営業活動に対する潜在ニーズはどんどん高まっていると思います。そのために具体的にどのような営業活動をしなければならないかを共に考えて、提案営業、ソリューション営業、あるいはプレゼンができる人材育成をしていくための研修やセミナーに注力していく必要があると思っています。そして今、それらを求める経営者が増えているのは確かですね。
常にお客様を見つめ、お客様に寄り添う印刷会社は残る
——経営者も必要性に気づいているわけですね。
田中そうなのですが、印刷会社に赴き話を聞きますと、企画書の作成、プレゼンが行えるといったスキルアップの研修ニーズが多いのですが、実際にはそれ以前の、営業の基本の”き”が何もできていないという印刷会社さんが多いのが現実です。例えば、お客様との間に人間関係も築けていない。コミュニケーションが取れているはずの既存のお客様の悩みや課題も知らないわけですから、「何かありませんか」という御用聞き程度の営業しかできていないのも当然です。これまでは、印刷物を作るための進行管理の活動しかしてこなかったことが露呈したわけです。ですから、本当の意味での営業ができる人材を育成しなければ衰退していくことになるでしょう。
——では、社内の規模に合った教育体制を持つことがますます大切になってくると思いますが…。
田中そうなのですが、さまざまな規模の印刷会社さんをコンサルティングしていますが、小規模のところに、大規模会社と同様に教育体制をしっかりと築いてもらい、教育資金もしっかりと予算を組みましょうと言うのは、現実的には無理な話ですよね。ですから、最近は助成金のように公的機関のお金を利用する方法も提案させていただいています。いまではどの自治体にも中小企業のための助成金が用意されていますから、それらを人材育成のために大いに活用していただきたいと常々思っています。活用できる資金があるとしたら、使わない手はないと思いますが、助成金は申請するのが面倒なところがあって、非常に細かくて解釈が難しい面があり、それで申請を止めてしまう会社が結構あります。今後は助成金の活用も積極的にサポートしていきたいと考えています。
——印刷業界のビジョンについてお聞かせください。
田中 これまでの半世紀、印刷業は旺盛にあった印刷需要に対して、技術革新を巧みに導入し対応し、成長してきた業界だったと思います。しかし、近年は目に見えて印刷需要が減少しているため、今までのような印刷ビジネスの成功ルールではない新たなルールを、業界にいるわれわれ自身が作っていかなければならなくなりました。印刷の総需要が減って、メディアも電子に置き換わる中で、もはや規模の経済性と設備の稼働率ビジネスだけでは印刷業は成り立たなくなったわけです。現在、そしてこれからは、お客様は果たしてどういうことで困っているのか、何をしようとしているのか…という観点に立ち、それらを解決するためのお手伝いするという視点で、取り組んでいかなければなりません。私たち印刷業ができることは何かを考え、自社の能力を高め、外部との協業を積極的に進め、お客様のビジネスをサポートすることが大切です。お客様を常に見ていく姿勢が必要であり、お客様に近づき寄り添い、悩みを聞き、解決に向けた提案を続けていく印刷会社は生き残っていくでしょう。そのために必要な機能が営業であり、その中心は営業パーソンにほかなりません。印刷会社はもう一度営業について考えていただくことを願っています。
- 『印刷営業.com』
- 印刷会社の営業に特化したコンサルティングサービスのWebサイト
http://www.insatsu-eigyo.com/
