月刊GCJ
GCJパーソンズ

(191) 岡本 幸憲

デジタルと繋がった『紙』の新しい価値を創出する

「紙」の存在価値が問われる時代になった。印刷会社が今後印刷業を続けていくには、デジタル技術と結びついた新しい印刷サービスを提供していく必要がある。そんな状況の中で、「すべてのITと連携する紙」をテーマに、テクノロジーと繋がった紙によるコミュニケーションで、顧客を支援し豊かな社会を実現しようとしているのが、株式会社グーフ 代表取締役社長(CEO)の岡本幸憲氏である。現在、顧客のニーズに合ったデータと連携した、デジタル印刷テクノロジーを活用したシステムの企画・プロジェクトを展開している。多品種小ロット生産にシフトし、ITと結びつき、デジタルマーケティングとの連携が不可欠になった印刷市場で、印刷会社はどのような経営が求められているのか。岡本社長の印刷ビジネスに対する考え方について話を伺った。

岡本 幸憲 OKAMOTO YUKINORI

PROFILE

1965年東京都生まれ。米国在住時にeラーニング等の数々のIT/WEB関係の事業開発プロジェクトに携わる。1996年に帰国し、印刷業界に転職。デジタル印刷の可能性を追求し、デジタルと紙の融合で高付加価値なコミュニケーションの実現を目指す。デジタル印刷を活用したサービスを多数プロデュース。2012年、「すべてのテクノロジーやデータと繋がる紙」をミッションに株式会社グーフを共同創設し、代表取締役社長CEOに就く。デジタルメディアに繋がる「紙」で新たなコミュニケーションを提供し、「紙」の新しい価値をつくるための支援をしている。

eラーニングでインターネットと紙を融合させたビジネスを知る

Q 最初はどのようなビジネスに携わったのでしょうか?

1980年代終わりにアメリカに渡り、27歳の時にシリコンバレーのeラーニングのスタートアップ事業に携わりました。インターネットがちょうど盛り上がり始めた頃で、20代の若い私にとっては、パソコンやインターネットが普及していくのを肌で感じて、テクノロジーの変化に自然と馴染めたことを覚えています。ですから、自ずと未来志向となり、デジタルに興味を持つようになりました。

Q eラーニングによって印刷と関わるようになったのでしょうか?

ええ。eラーニングでは、企業向けの社員教育プログラムを開発する際に、サービスを進めるために紙媒体の問題集を付随させたビジネスモデルを考えたのです。すると、それを導入した企業で習得率が向上し、紙の持つ力はすごいなと実感しました。その時に、東京の大田区で複写業を営んでいる父親の仕事が、初めて社会的に価値のあることだと知って、それ以来、紙に興味を持つようになりました。

その後帰国し、1996年から印刷業界に転職したのですが、当時はオンデマンド印刷が誕生した頃で、生産性についても品質的にもまだ印刷業界で使えるものではありませんでした。

それでも考え方としては、紙媒体もコンテンツの1つであり、社会環境がデジタル化することによって、印刷業も変化し、紙もデジタル化によって新たな使い方が生まれるだろうと感じていました。そうなれば、紙の新しいサービスを提供できるようになると信じていました。

年々デジタル化が拡大し、それに伴う印刷技術も向上し、データと連携するデジタル印刷が普及してきたので、デジタル印刷を支援する事業を本格的に始めることにしました。2012年に株式会社グーフを共同創設し、その時にデジタル化、クラウド化した社会で価値を生む「紙」とはどういうものであるべきなのかを考えて、どんなITにでも繋がる「紙」でコミュニケーションに革命をもたらすことができればと思ったのです。テクノロジーで「紙」の新たな価値を作ることを経営理念に掲げ、顧客のビジネスをサポートしていくことにしました。

Q なるほど。印刷はデジタル化によって変わりつつありますが、どう捉えていらっしゃいますか?

高性能なデジタル印刷機でノウハウやオペレーションがマニュアル化されてきますと、オペレーターでなくても誰でもがデジタル印刷機を動かせるようになります。そして、データが連鎖してデジタル・トランスフォーメーションになっていくのですが、それは決して既存の印刷ビジネスをディスラプション( 破壊)するという意味ではありません。人はデジタル化に抵抗しようとする意思を持った瞬間に、ディスラプションとして受け取ってしまうものですが、アナログ対デジタルという構図で見ていくのではなく、最終的に媒体を届ける消費者に価値を与えられるかどうかがポイントになります。ですから、消費者に価値ある「紙」を届けることが、最も重要だという認識を持つことが大切であり、それが実現できてこそ、印刷会社はサービスを永続的に続けることができて、進化していくものだと考えています。

デジタル印刷でできることの“ワクワク感”を顧客に持ってもらいたい

Q もはやデジタルデータやインターネットを抜きにして、印刷業は成り立たないと思われます。

ええ。デジタルやインターネットを使うことによって、コストが削減できるとか、お客様のタイミングでデータを見ていただけるとか、EDIで簡便に振り込めたり、手続きが簡便になったりとか、社会のムリやムダをなくしていけます。

当社では、そんなデジタルデータやインターネットを利活用することで、人や会社は印刷物に何を求めているのか、紙はどのような使い方をすれば便利になるのか、そして、紙の使い方が分かったのであれば、どのように作ってあげればよいのかを、ビジネスの根幹にして、さまざまなお客様のニーズに応えたサービスを展開しています。

Q それはシステムプロバイダーやソリューションプロバイダー的な仕事になるのでしょうか?

そうですね。今まで印刷を発注されてこられたお客様に、印刷とはこういうものだという思い込みを無くしてもらって、印刷にはもっとこういうことができて、こうやればもっと価値が高まるという視点で、企画やアイデアをお客様に提案したり、デジタル印刷のワークフローの構築をサポートしたりしています。デジタル印刷機の可能性が分かりますと、ワクワク感を持っていただけると思うのです。その際に当社がお客様と一緒になって実証実験し、デジタル印刷の価値を明らかにし、ビジネスに合わせたサービスを実現できるよう支援していきます。ですから、当社はシステムを使う側であるお客様と作る側の印刷会社をブリッジする役割になります。

Q 具体的にはどのようなビジネスをされていらっしゃるのですか?

お客様の中に通販会社さんがいますが、その先のお客様である消費者が、いま何を求めているのかをマーケティングオートメーション(MA)などを使っていち早く察知し、見える化やトラッキングを行い、自動的に最適なDMを発送していく仕組みを作っています。印刷物を作る際は、どんな内容のものをいつ届ければ最も効果的なのか、消費者のさまざまな属性からパラメータを設定し、より正確で効果的な視点で、お客様の印刷サービスを構築したり、アドバイスをしたりしています。

紙をリアルタイムに連携させる「Print of Things」を推進

Q スマートファクトリーの1つのコンセプトとして「Print ofThings」を進めていらっしゃいますが。

「Print of Things」は、データドリブン(データを集積・可視化し分析して、効果的な意思決定・企画立案に役立てること)して、インターネットを介してデータを送りますと、自動組版をして最適な印刷データを流す仕組みになります。つまり、紙をデジタルメディアと同等の簡易さ、スピードで届けることを可能にするサービスになります。紙だからこそできるコミュニケーションのあり方を、デジタルを使って実現するというものです。

Q ディノス・セシールのECサイトのシステムで実現している方法でしょうか??

ええ、そうです。ディノス・セシールさんでは、当社の「Print of Things」を使ってEC(electronic commerce)と紙をリアルタイムで連携させたCRM(顧客満足度と顧客のロイヤリティ化を向上させて売上増加を目指す経営戦略)の運用を昨年開始しました。カートから離脱(いわゆる「カゴ落ち」)した顧客に、最短24 時間で紙のDMを送ってリテンション(顧客との関係性を維持していくためのマーケティング活動)する施策を行っています。それによって、顧客の購入率が20%向上したと言われています。このように、ECデータのリアルタイム連携とデジタル印刷機によって、紙のDMのメリットが見直されつつあります。当社ではこのデジタル印刷機による仕組みを、都道府県ごとに細分化していきたいと考えています。

Q その仕組みによって何が変わってくるのでしょうか?

これまで印刷会社は、地場産業という枠でしか考えられてきませんでした。全国の至る所で印刷されたものがいったん本社に集積されてから、全国各地に配送する仕組みがほとんどなのですが、それだと消費者にDM が郵送されてから届くのに2、3日掛かる上、手間やコストも要することになります。しかし、印刷を「適地生産」として考えて、地元の印刷会社が印刷すれば、24時間以内に地元の消費者にDMを届けることが可能になります。郵送代だけでなく、DM の運送代も削減できますし、人件費などいろいろなコストがほとんど不要になるわけです。

つまり、コネクテッド・インダストリーズで考えていきますと、ムリやムダを削減することによって、今まで地方の印刷会社が持てなかった価値、つまりその地域でビジネスできる優位性という価値が生まれてくるようになるのです。そして、その地方都市に住んでいる消費者が多ければ多いほど、なおかつEC が活性化されてくればくるほど、地元の印刷会社が地域で印刷することの価値が高まってきます。

これを当社が、全国の中小印刷会社さんとパートナーを組んで実現していくことができればと考えているところです。例えば、1日100万枚のDMの印刷を受注しても、47都道府県に分散し、それぞれの印刷会社が持っているデジタル印刷機で印刷すれば、地域を味方につけた付加価値の高いデジタル印刷サービスを提供することが可能になるというわけです。当社の役割は、印刷会社がもっとリーズナブルですばやくデジタルサービスを提供できるソフトを開発することです。インターネットと連結した枠組みを作り、それを印刷会社で効果的に活用した印刷ビジネスを展開してもらうというわけです。

Q 印刷会社は、紙に印刷する価値を再認識する必要があるわけですね。印刷や紙媒体の未来はどうなっていくと思われますか?

印刷という言葉があまりに大きくて、あまりに強いですから、未来を語るのは難しいですが、紙媒体に関しては、より使いやすく、より伝えやすくなるでしょう。紙媒体の価値は今まで以上に高まるはずです。価値が高まって大量に印刷するというバラマキがなくなれば、もっとお金の流れが活発化してビジネスの連鎖が生まれてくると思います。紙媒体一つひとつの価値が高まることに期待しています。しかも、印刷以外のメディアとコネクテッドしていくことができれば、印刷の紙媒体の価値はもっと高まっていくはずです。そうなるためには、印刷業界は紙媒体を「作る」ということから「使う」ということに意識を変えていくことが大事だと思っています。デジタルにできないことが紙にはできることがあるはずですから、紙の価値を高めるようなビジネスに是非とも取り組んでいただければと思います。

アナログ対デジタルという構図で見ていくのではなく、
最終的に媒体を届ける消費者に価値を与えられるかどうか

———— 岡本 幸憲