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(151) 星野 邦敏

コワーキングスペースで地域活性化と仕事の創出を

貸事務所やシェアオフィスとは違って、オープンな環境で他人と共有しながら仕事をする「コワーキングスペース」。低料金で気軽に利用できることから、近年、急速に利用者が増えている。利用者はさまざまな場所でIT機器を使って仕事をする「ノマド」のフリーランスや起業を目指す人が多い。さいたま市の大宮駅から徒歩1分ほどの場所で「コワーキングスペース7F(ナナエフ)」を運営している代表の星野邦敏さんは、IT会社の経営を行いつつ、地域活性化につながるイベントも開催し、コミュニケーションの場として特色のある運営を展開している。「生まれ育った地元に仕事を創出し雇用が生まれる空間を作って、地域に貢献したい」という星野さんは、さらに事業の拡大を図っている。ビジョンも含めてコワーキングスペースについて多角的な話を伺った。

星野 邦敏 HOSHINO KUNITOSHI

PROFILE

1978年埼玉県生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。27歳で税理士法人に入社し、会計・税務・監査の仕事に携わる。疾病を患い入院リハビリ中にマスターしたWebサイト制作から2008年1月に、IT関連企業の株式会社コミュニニティコムを設立。2012年さいたま市に戻り、「コワーキングスペース7F」の運営を開始。WordPressに関するブログやWebサイトを作るCMSシステムの専門家として書籍執筆や講演も行っている。大宮経済新聞編集長。

地元のプラットフォームとして役割を担っていきたい

——コワーキングスペースの運営を始めようと思ったのは…。

星野IT関連の株式会社コミュニティコムという会社を設立し、Webサイト運営や WordPressを使ったCMSシステムの制作を手掛けていますが、東日本大震災が発生し、その影響で当時借りていたオフィスの建て壊しがあるということで、移転することになったわけです。その際に、コワーキングスペースも兼ねたオフィスを作ろうと考え、全国の30個所ほどのコワーキングスペースを見学し、運営者と話をしながら運営に必要な知識を身に付けました。場所に関しては、自分の地元であるさいたま市に設けようと、現在の大宮駅東口にあるビルの7階が空いていたので、この場所を借りることにしたのです。本格的にオープンしたのは2012年の12月です。お陰様で順調に利用者の方が増えています。

——コワーキングスペースの運営コンセプトは何でしょうか?

星野将来ますます少子化が進み、高齢社会となった30年後には、人口減によって、地方から都市に人や仕事が移行し、限界集落のような高齢者が5割以上の都市が出現してくることが予想されます。その現象自体は決して良いことだとは思いませんが、そんな状況下、さまざまな業種から“尖がった人たち”が自分の生まれ育った地元などの地方都市でも、コミュニケーションの中で、新しい仕事や商品を作ろうという話が出てきて、それがその地域に新しい産業や仕事を創出するきっかけとなると思うのです。そのためにはプラットフォームが必要です。その役割を担うのが、まさにコワーキングスペースだと思ったので、人々が集まる施設を設けて運営することにしました。今後、ますますこのようなプラットフォームが求められてくるでしょうし、増えていくでしょうね。

——なるほど。料金体系はどうなっているのでしょうか?

星野簡潔に言いますと、一時利用の場合は2時間500円で、1日ですと、1,000円です。月額会員は月々9,200円、住所利用会員は月額13,000円、法人登記会員は19,200円に設定しています。一時利用の場合は受付に来て、必要事項を記入していただくだけで利用できます。もちろん、初めての方は施設を案内させていただきます。少しでも多くの方に利用していただければと考えています。現在、月額会員は100人を超えています。

働く女性の子育て支援として待機児童を預かる施策も実施

——なるほど。利用者を増やしていく上で、どのような運営をされているのでしょうか?

星野現在はWebサイトを開設し、さまざまな情報発信をしていますが、紙媒体に広告を出して宣伝することはしていません。雑居ビルでエレベーターが奥まったところにありますから、分かりづらいのが難点なので、まずは見てもらうことが大切だと考え、当初はターゲットにしているフリーランスの方に向けて、IT向けの勉強会や起業向けのセミナーを開催して、実際に足を運んでもらうことに注力しました。そんなイベント開催が中心ですが、現在ではフェイスブックの公式ページを見てであるとか、会員からの口コミなどもあって、会員数が増えるようになりました。ここを利用される方は、20代後半から40代の男性の方で、サラリーマンをされていて退職して起業する方が比較的多いのが特徴です。ですから、そういう利用者に向けたセミナーなどのイベントを定期的に開催しています。

——働く女性のために子育て支援を掲げてらっしゃいますが…。

星野女性が結婚後に働く場合に、特に自宅で仕事をするフリーランスの方が、お子さんを保育園や託児施設に預けることが困難な場合が多く、待機児童になりがちです。そこで、近くの一時託児施設と提携して、そこにお子さんを預けてもらってから、このコワーキングスペース7Fを利用してもらうという施策を展開しています。お子さんのことを心配することもなく、仕事に打ち込める状況を提供することで、子育て中の働く女性を支援していければ思っています。

——働き方についてはどのような変化を感じていますか?

星野会社のように組織で働く仕組みが次第に崩れていき、個人で働く人がますます増えていくと思います。そうなりますと、働き方も多様化するでしょう。またフリーランスだけでなく、会社員であっても出勤することなく、自宅で仕事をする機会も増えてくるでしょうから、そういう時に、IT機器などの設備が整ったこのようなコワーキングスペースは利用しやすいと考えています。

——では、貸しオフィスからコワーキングスペースに移行しつつあるのでしょうか?

星野そうですね。以前は間仕切りが普通だったのですが、オープンな環境に対して特に若い人たちに抵抗がないという時代になったと思うのです。シェアハウスやカーシェアリングが増えつつあるように、オープンな環境に対する抵抗感が昔ほどなくなってきたと感じますね。

印刷会社はオンデマンド印刷機等が利用できるベネフィットを出す

——では、印刷会社がコワーキングスペースを運営するに当たって、留意すべきことは何でしょうか?

星野プライバシーマークを取得している会社の場合は、空間をシェアするとはいえ、本業の印刷業とは完全に分けて運営する必要性があるでしょう。そうでないと、個人情報の問題で通らないと考えられます。それから、印刷会社が始めるに当たってメリットという点では、その場で印刷ができるということですね。そこに行けばオンデマンド印刷機が使えるというのは、利用者にとっては大きなベネフィットになるかと思います。

また、印刷業界とは少し違ってくるかもしれませんが、3Dプリンターや3Dスキャンを設備していれば、運営上プラスになるはずです。フリーランスの人や小規模会社が、自分たちが持っていないオンデマンド印刷機や3Dプリンターをその度に利用できるとなれば、それらを利用したい人たちが集まってくるでしょうね。印刷会社がコワーキングスペースを運用する場合は、そういった設備面での優位性を打ち出すことは重要だと思います。それから、利用される人の中にはクリエイターの方がいますから、人の交流が盛んになって、印刷会社に新たな仕事が入って来た時に、仕事を頼みやすい状況が生まれます。仕事を発注する相手の人が見えるという状況は、顔が見えないクラウドサービスにはない優位性が出てくると思います。

後は遊休スペースの活用という点でもコワーキングスペースは考えられます。印刷会社で工場や空き部屋がある場合に、そこで展開すれば、私たちのようにビルの賃料を払って運営する必要がありませんから、大きなウエイトを占める賃貸料が掛からなくなり、コスト面でのメリットは大きいですよね。また、運営したい人にスペースとして貸すこともできますから、収益化が図れると思います。これらの点を考慮してもコワーキングスペースを事業として考えるのは大いに有りかと思いますが…。

——今後の展望についてお聞かせください。

星野元々はIT関連の会社を設立し、現在も事業展開しているのですが、IT分野というのは今後も注目される分野だと考えています。いま非常に人気なのが、子供向けのプログラミング教室です。それでその事業の構想を練っている段階です。例えば、スクラッチと言って、ドラッグアンドドロップでブロックを積み木のように組み立てて、プログラムしていくというゲームなどが一例としてあります。いまプログラマーになりたいという子供が増えていて、そういった教室も開催していますが、募集をかけると定員の3倍以上の子供の応募があります。今後は子供向けプログラミング教室が、大きな市場になっていくのではないかと見ています。

それから、下の6階のフロアも増床することが決まり、来年1月から半分をシェアオフィス、もう半分を貸会議室とイベントスペースにしていく構想があります。30代前半でコワーキングスペースの運営を軌道に乗せることができましたが、元々はIT関連の会社を経営していますから、30代の後半では、この場所を活用して新しい事業に乗り出していこうと考えています。

コワーキングスペース7Fのホームページ

コワーキングスペース7Fのホームページ
http://office7f.com/

オープンな環境に対して特に若い人たちに抵抗がないという時代になったと思うのです。

———— 星野 邦敏

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