月刊GCJ
GCJパーソンズ
(190) 堀本 邦芳
第4次産業革命でスマートファクトリーはこうなる
IoT、ビッグデータ、ロボット、AI(人工知能)等による技術革新が大きな波となって押し寄せている。印刷産業でも構造や戦略で変革が問われており、まさに第4次産業革命が起ころうとしている。そんな状況下、2000年から世界の4大印刷機材展示会であるdrupa、IPEX、PRINT、IGASで最新の印刷システムを調査してきたのが、ジーエーシティ株式会社代表取締役社長の堀本邦芳氏である。堀本社長は印刷業界のデジタル化を自ら推進し、デジタルプルーフやカラーマネジメントシステムの技術開発に取り組み、市場導入を進めてきたパーソンでもある。印刷機材の技術動向に精通している堀本社長に、これからの印刷産業に到来する技術やメーカーのスマートファクトリー構想について語ってもらった。
堀本 邦芳 HORIMOTO KUNIYOSHI
- PROFILE
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1953年兵庫県生まれ。大阪大学大学院卒業。物理学専攻理学修士。サカタインクス株式会社に入社。水性グラビアインキの開発、磁性インキ・コーティング開発に従事。1988年から1992年まで米国技術駐在としてDTPをはじめ各種デジタルプリプレスを調査。帰国後、印刷技術研究所主任研究員としてデジタルプリプレス開発を担当し、印刷業界のデジタル化を推進。事業開発部長を経て2009年11月から2013年7月までマーケティング部長。2010年6月、ジーエーシティ株式会社の代表取締役に就任。ISO TC130 WG3委員、日本印刷学会秋期セミナー委員。
個々のニーズに合わせたカスタマイズ生産・サービスへ
Q いま産業界では何が巻き起こっていて、印刷産業にどのような影響をもたらしていると思われますか?
スマートフォンが登場して、デジタルトランスフォーメーションによる第4 次産業革命が起きていますが、大量生産、画一的サービスから個々のサービスに合わせたカスタマイズ生産・サービスへ移行しているところです。また、AIを駆使して認識・制御機能を向上させることで、人間の仕事をサポート・代替する方向に進むでしょう。さらに製品やモノのサービス化、新たなサービスの創出、データ共有によるサプライチェーン全体の生産効率がますます高まっていくはずです。経済産業省が2017年に発表した「新産業構造ビジョン」では、クラウドコンピューティング、AI、ロボットの3つに、ビッグデータを加えた第4次産業革命技術の社会実装が求められてくると述べています。世界のデータ量は膨大に増加しており、従来にないスピードで変化が訪れています。
このインパクトは大きく、印刷産業にも多大な影響をもたらします。印刷物は大量生産からカスタマイズ生産に移りますし、AIによって印刷物の生産・検査の自動化、コンテンツ生成の自動化が起こってきます。コンテンツでは既に、アドビシステムズがAIとマシンラーニングを組み合わせたテクノロジー「Adobe Sensei」を提供しています。これは手間のかかる反復作業の時間を減らし、コンテンツ制作を大幅に短縮するもので、最新のソフトに組み込まれています。
さらに重要なことは、印刷産業は受注産業であるためサプライチェーン全体で見た時には能動的に動いていません。そこでデータ共有を行って顧客企業、デザイン会社、マーケティング企業と連携することで、印刷物を起点にクライアントに対して高付加価値のサービスを提供していくことが可能になるでしょう。
Q 既にAI が搭載されている設備はあるのでしょうか?
はい。画像認識技術の分野ではAIによって印刷物のエラーを検出できる装置が開発され、IGAS2018で出展していたメーカーがいました。印刷物の検査はいずれAIが組み込まれた画像認識装置で行うようになるはずです。
検査装置のAIは、自己学習しながらさまざまな画像を認識し応用させていくのですが、難しいのは、エラーなのかエラーではないのかという微妙な判断をしなければならない場合です。要はパッケージであればそれが商品としてOKなのかどうかという判断です。人間でもある程度の熟練者でないと判断できないのを、AIがエラーのボーダーラインの適正値を自ら設定し、しかも学習を繰り返してより高度化し、熟練者と同じように判断できるようになるわけです。現時点はまだ印刷機に搭載はされておらず、オフラインではありますが、いずれ印刷機に搭載されていくでしょう。現時点で開発しているメーカーは少ないですが、この技術を使った検査装置は今後、複数のメーカーが市場投入し始めましたら一気に普及していくことが予想されます。
Q スマートファクトリー構想を各メーカーで打ち出していますが、具体的な事例を話していただけますか?
ええ。小森コーポレーションではクラウドベースの「KP-Connect Pro」を発表しました。既に250 台のユーザーの印刷機からデータを集めて、ベストプラクティスを導き出しています。つまり、同じ印刷会社でも印刷機によって稼働率の違いが生じますから、その原因はどこにあるのかを見つけ出してユーザーに情報を提供し、稼働率の向上を促すというものです。小森コーポレーションでは「見える化」を行って、枚葉印刷機の本刷りの稼働時間を調べたところ、33%しか生産していないことが分かりました。この稼働時間を10%、20%と上げることができれば、利益率はかなり上がってくるはずです。なぜ稼働率が上がらないのか、短納期、小ロット対応、ジョブの差し替えなどいろいろな原因が考えられますが、その印刷会社の問題点を見つけて印刷の最適化をしていくというのが目的です。
「見える化」で何をつかめるかと言えば、稼働状況、故障状況、製造状況、在庫状況、人やモノの動き、搬送機器の動き、作業者個別の作業動態でのムラやエラーなどです。それらを洗い出して、ボトルネックがどこにあるのかを理解し改善していくわけです。また、ラインごとに比較し問題点を見つけ出すこともできますし、他の工場から集まったデータを比較することで、さらに生産の最適化をしていくことも可能になります。
メーカーに情報が集約し印刷会社ごとに分析し稼働率を高めていく
Q メーカーにユーザーの印刷情報が集約される意義は何でしょうか?
印刷会社としては、ジョブごとに利益率がどうなっているのかを把握していかないと、具体的な改善ができませんから、印刷機を通して実際に稼働した数値をオープンにし、分析していくことが必要になってくるわけです。それを中小印刷会社が個々で行うのは難しいですから、印刷機メーカーにクラウド上でデータを集めて情報提供してもらう仕組みが望ましいのです。
Q そうしますと、近未来の印刷工程はどう進んでいくとお考えですか?
まずフルデジタル・サプライチェーンになっていきます。ただし、印刷機の自動運転を実現するためには、ISO12647 やJapanColor 2011 などで完全標準化カラーマネージメントを行って、印刷の数値化・スキルレス化をして印刷の色標準化を実現しておかないといけません。標準値が決まりますと、基準濃度で印刷作業の標準化も可能になりますし、標準の印刷パラメータ設定で濃度調整も自動で可能になります。さらに、インキ膜厚が適正化し印刷中の色が安定してきます。この一連の工程をAIで実現していくわけです。現在はまだ研究段階ですが…。
いずれにしても、AIはビッグデータを解析することで、人間には見えなかったものや、人間ではデータ同士の相関性に気づかなかった点まで、相関性を見出して実証してしまうメリットがあります。
Q 究極の印刷は、印刷機の操作も遠隔操作で行い、人が工場にいなくても稼働できるようになっていくものでしょうか?
遠隔操作は考えられますが、システムを構築するにしても結局はコストとの兼ね合いになってきます。今日、クラウドコンピュータはサーバールームに人はおらず、全てリモートでチェックしています。いずれは印刷工場の無人化を目指す印刷会社も出てくるでしょうが、トヨタのような先進的な大企業で生産の自動化が進められていても、工場で作業をしている人はいますから、多品種少量生産の極致をいく印刷会社が完全自動化をどこまで実現できるかは不透明です。また目指すにしてもステップがあります。まずは標準化ができて設備の自動運転ができる基礎が不可欠だということ。次に実際の全自動マネージメントでスマートファクトリーを構築していくのですが、ロボットを使い、かつ受発注関係もWeb to Print で運用し、MIS(ManagementInformaton System =経営情報システム)、MES(ManufacturingExecution System=製造実行システム)と連動させていくことが必要になってきます。
ミドルウェアになりますが、機械をコントロールする機械・コンピュータが求められてきます。その1つの動きとして、リョービMHIグラフィックテクノロジーが人と協働するロボット「コボット」を開発しました。人とロボットのエリアを柵で分けることなく動くロボットですが、機体を緑色にして安全対策を施した外装で、アームで積み替え作業を行っていくわけですが、最大で20kgの段ボールを運ぶことができます。そして、段ボールや印刷物のパレットは無人搬送台車に載せて、所定の位置まで運ぶことができます。今後はこのようなロボットが印刷工場で導入されていくことになるでしょう。
近未来は遠隔操作、ロボットによる自動生産システムへ移行
Q スマートフォンで印刷関連機材を遠隔操作することは可能になると思われますか?
スマートフォンは機械をコントロールすることはできませんが、インターフェイスですから、自動生産システムのコンピュータに直結して情報をフィードバックすることは可能です。ですから、スマホ上でジョブの切り替えの指示を出すことはできるようになるはずです。それに伴うクラウドコンピューティングとエッジコンピューティングの技術は、今後まだまだ進化していくでしょうね。このクラウドですが、印刷業界においてもその安全性と大容量データを取り扱えるという観点から普及していくことが予想されます。これまでRIPは秘密保持からクラウドで管理するのはどうかと言われていましたが、印刷会社が自社のサーバーだけでデータ管理していくのはリスクが高いですから、安全性やメンテナンスの信頼性が高い情報セキュリティ対策を行っているクラウドに移行していくでしょう。何より拡張性があるという理由から、クラウドを採用する動きが出てきています。
印刷会社は、クライアントの要望を満たすために、CRMやマーケティングオートメーションを使って、印刷物、Web、DM、マーケティングキャンペーンの全てを有機的に管理し、自律的に最適化し、自動更新していくでしょう。DM印刷等はOne to Oneのマーケティングによるスマートプリンティングになっていくことが考えられますし、既にそうなりつつあります。
Q 中小印刷会社におけるスマートファクトリーは、どのように展開していくでしょうか?
中小印刷会社の場合の最大のネックは設備投資になりますが、多分クラウドを使ったサービスが提供されて、さほど資金を要することなくスモールスタートで実現できるようになっていくと思います。少額の初期投資と月額払いでAIを活用した設備・システムが従量制で活用できるようになり、しかも最新技術が享受できるようになります。スマートファクトリーの完成形は前述したように、ロボットによる全自動でジョブを自動管理する工場になるでしょうが、データ入力から生産、梱包、発送までも自動化し、運送業のトラッキングシステムとIoTクラウドが連携し、納入確認、自動決済、コンテンツと発注履歴管理、在庫管理までを自動化していくはずです。
———— 堀本 邦芳
