月刊GCJ
GCJパーソンズ
(161) 鹿野 宏
「ミニマム動画」も撮影する多才なカメラマン
日本におけるプロユースのデジタルカメラの歴史は20年ほどになる。この間、デジタルカメラは高画質化、低価格化、多機能化が進んできた。そんなデジタルカメラの技術の進化を見届けながら、仕事で活用してきたのがプロカメラマンの鹿野宏さんである。1997年、早川廣行氏が発足した「電塾」に早々と参加し、デジタルカメラの技術向上と普及に注力してきた。2000年には既に仕事でデジタルフォト100%を実現した。近年は、静止画撮影だけでなく、リアル5000万画素の超高精細撮影から短時間の動画撮影、美術品撮影、素材撮影等と、仕事の幅を広げている。そんな鹿野さんに最近の仕事や活動について、静止画と動画の関係、デジタルカメラのビジネスの考え方などについて話を伺った
鹿野 宏 SHIKANO HIROSHI
- PROFILE
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1956年福島県生まれ。武蔵野美術大学専科実技専修課を卒業後、写真館に勤務。カメラマンを目指す。1983年フリーランスとして開業。1991年有限会社ハンディを設立、練馬にスタジオを移転。1997年早川廣行氏に師事し「電塾」に参加。1997年デジタルフォトを開始。2008年株式会社Labを設立し代表取締役社長に就く。2010年動画撮影・編集を開始。現在、電塾事務局長。自社スタジオを基盤に、物撮り・ファッション・美術品の撮影、また大型展示物制作・オペラの舞台用背景動画まで、写真・動画をオールマイティにこなす。
タイムラプスや超高精細撮影でオリジナルの作品も撮る
——去年、銀座のソニーイメージギャラリーで個展(作品展)を開催されましたが……。
鹿野個展のお話をいただきましたので、それに合わせて撮影したものを出展しました。最近は動画も撮っていますので、動画を取り入れた作品にしようと、タイムラプス(微速度撮影)の技術を用いて、大サイズの超高精細写真と4Kディスプレイで、静止画と動画を融合させた動画を作ることにしました。「Landscape」(風景)と「Still life」(スティルライフ)を組み合わせて、「Still×Scapes」というテーマで、風景と静止画の世界の境目に視点を置いた作品にしました。
——タイムラプスとはどういうものなのでしょうか?
鹿野長時間撮影したものを短時間に圧縮して見せるもので、英語で「time lapse」(時間の経過)と言います。通常は速度の速い動画となり、場合によってはコミカルに見えるため作品にしづらいと思っていましたが、表現するに当たって、通常の動画撮影では不可能な長時間露光で作り上げることで、ゆっくりと見せることが可能となり、非常に写真表現に近い動画に仕上げることができました。山や岩のように動かない風景に対して、太陽や月の光が画面に表情を与え、長時間露光によって波や雲が流れていく様を表現しています。このタイムラプスによる撮影表現は今後も続けていきたいと考えています。
——そうですか。ところで、超高精細画像の撮影が行える、ハッセルブラッド『H4DⅡ200MS』というカメラをお待ちですが、どのような撮影ができるのでしょうか?
鹿野このカメラは日本に数台しかなく、マルチショットという機能で、1ピクセルに本来のRGB情報全てを持った5000万画素の高品質で精密なデータを生成できます。さらに被写体をタイリング撮影という技術を用いて撮影し、4億~40億というとてつもない画素数のデータを生成することができます。もう1つMulti6ショットで撮影しますと、2億画素データを取得でき、元々が真性に近い正確なデータですから、拡大しても画像の劣化はほとんどありません。当然、撮影条件は厳しく、常に三脚や雲台が不可欠ですし、撮影場所や気象条件が整わないと撮影は難しいです。カメラが3マイクロメートルぶれても成功しません。しかし、1回の撮影で2億画素の超高精細なデータを得られるメリットは大きく、撮影した画像を大型のパブリックアートや美術品の展示複製用などに使用することで、本物と見まがう再現力となります。それによって美術研究者から高い評価を得ています。
超高精細で巨大なデータを仕上げるためには、例えば、高さが4mですと、約2万ピクセルになります。横はその長さに応じてピクセルが必要になります。横が20mにもなると、2億画素でも足りませんから、そこで全体を2分割、3分割、4分割、6分割と分けて撮影するわけです。その分割して撮影することをタイリング撮影と言います。タイリング撮影で取得したデータですと、拡大してプリントしても綺麗に再現できることから、巨大壁画用に使うことが多いのです。
高さ4.5m×横20mの巨大壁画も180dpiという通常のインクジェットプリンタの解像度になりますから、壁画に近づいて見てもギザギザした荒いものは一切なく、緻密で素晴らしい再現力となりました。
カメラマンは「素材提供者」として何にでも使える撮影データで提供を
——デジタルカメラで動画を撮影されていらっしゃるそうですが、画質についてはいかがでしょうか?
鹿野私たちカメラマンにしてみれば、一眼レフカメラで静止画を撮ってきましたから、そのまま使い慣れたカメラで動画撮影できることはメリットだと思っています。画質も申し分ないほど十分綺麗です。ただし、動画は時間軸で画が動いていくので、ある程度被写体深度の中に収めて撮影していくことになります。動画は動いている被写体を撮っていますから、1枚ずつ画を切り出してみますと、みんなブレて見えます。写真のようにフォーカスをピッタリと合わせて、撮影するというスタイルではありません。
——4Kや8K画像についてはどう思いますか?
鹿野4Kの静止画については、正直言いまして、画質的にまだ納得していません。でも、HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)になって8Kになれば、3600万画素での表現になりますから、さすがに綺麗です。静止画としてもいけるかなと思っています。4Kでも動画であれば、ディスプレイ上なら違和感なく見ることができます。
——最近のカメラマンの仕事についてはどう考えていらっしゃいますか?
鹿野現在のカメラマンは「素材提供者」という感じではないでしょうか。私たちがディスプレイ上で完成させた静止画は、印刷物としてそのまま使用することはできません。印刷では、どうしても画像のレンジより狭いレンジの中で処理しなければなりません。それに、インクに置き換えなければなりませんから、撮影したデータをそのまま使用することはできません。元データから、印刷物に最適化したもの、インクジェットに最適化したもの、ディスプレイに最適化したもの、映像に最適化したもの、あるいは壁面印刷に最適化したものを作っていくのは、後工程で作っていく世界になります。ですから、データを出力する際に、何にでも使える状態でデータを仕上げるのが、プロのカメラマンの仕事だと考えています。
——カメラが進化し、一般のカメラマンでも高品質な写真を撮れるようになってきたことで、どのような影響が出ていますか?
鹿野静止画の仕事はどんどん減ってきています。受注の値段も安くなりました。静止画だけを仕事にしていたら、今までと同じような売上は望めなかったでしょう。一方で、動画については問い合わせが増えて、市場が拡大しているという実感があります。Webサイト上で発信する会社案内や製品や商品の使用説明に関する動画などは非常に増えています。
動画撮影が可能なカメラを持っているのだから、撮影しない手はない
——では、プロカメラマンの間で、動画撮影の仕事も請け負う動きが活発化してきているのでしょうか?
鹿野ところが、カメラマンから動画に参入する人は意外と少なく、誰でもが動画を撮影しているという状況ではありません。長年静止画を撮影してきて、動画には動画の難しさを解っているので、手を付けるつもりはないと決めているのか、あるいは単に趣味に合わないと感じているのか……。実は昔の私はその2つの理由で動画には目もくれなかったのですが、その考えを持っている人がまだまだ多いですね。
私が考えを変えたのは、現在、動画撮影の市場が増えていて需要があるからです。動画を撮れるカメラを持っているのですから、手を付けない理由はないですよね。一方で、動画を撮影している人は、35mmのカメラを持っているにも関わらず、静止画を撮ろうとする人は思いのがいほかいません。
——1台のカメラで静止画も動画も撮影できる状況になったことで、撮影ビジネスのあり方に変化が出てくるのでは?
鹿野動画撮影の世界は縦割りになっていて、カメラマンはカメラの後ろに座って操作するだけで、ピント合わせは担当のフォーカスマンと言われるスタッフがいますし、少し大きい撮影チームですと、ズームを担当するスタッフもいます。ライティングも専門の担当者がセッティングするという状況なのです。このように、多くのスタッフで構成されています。それと、どの場所をどのように撮るのかを決める監督の方がいますから、動画撮影のカメラマンは自分で作品を撮るという意識は、あまり持っていないのかもしれません。言われたことを確実にこなしていく感じなのです。そのような状況下で長く仕事を続けてきましたから、余計なことはしないというスタンスが強いので、静止画を撮ろうという考えは出てこないのかもしれません。
それに引き換え、静止画のカメラマンは何もかも1人で撮影をしてきましたから、動画の撮影にしても苦にならないわけです。とは言っても、動画を撮影しようとするカメラマンはまだまだ少ないのが現状です。
——市場の拡大と共に動画制作会社が増えていますが?
鹿野動画制作会社も細分化してきており、低料金で撮影を請け負う会社が増えつつあります。これからますます厳しい価格競争が繰り広げられていくものと思います。これまで動画撮影にはビデオカメラを回すカメラマン、そのアシスタント、音声担当者、照明担当者、ADなど、相当数の撮影スタッフによって構成されていましたから、1分の紹介動画を制作するにしても数百万円の予算を必要としていました。それが、私たち静止画のカメラマンが動画を撮影すると、スタッフはアシスタントを付けるくらいで、低コストで撮影できます。
私たちは映画やTVCMの撮影はできませんが、インターネット上で紹介するような動画でしたら、自前で編集して納品することができますから、2割ほどの予算で撮影を請け負うことができ、クライアントにコスト面でメリットを訴求できます。ただし、動画に対する知識や編集能力は当然求められますから、ノウハウを身に付けていなければ、動画制作会社に対抗することは困難と言えるでしょう。私も撮影は自ら行っても、カットバックを多用するなど、込み入った編集や、音声を入れる動画については、外注に出してそれぞれの専門家に任せるようにしています。
私の場合は動画を最小限のスタッフで撮り、編集し、仕上げて1週間ほどで納品する形式を「ミニマム動画」と呼んでいます。プロダクションに発注するほどの予算はないけれど、数分の紹介動画を作りたいというお客さま向けに、35mmのカメラで映像プロダクションに負けない品質の動画撮影と編集を、パッケージにして提供するものです。従来の静止画の撮影は、今でもメインの仕事にしていますが、「ミニマム動画」も柱の1つにしていくつもりです。
株式会社Labのホームページ
http://www.hellolab.com/
