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(187) 伊藤 啓
万人に配慮したカラーユニバーサルデザインを提唱
色の見え方が一般と異なる人にも配慮した色使いがいま求められている。そんな利用者の立場からデザインされたものが「カラーユニバーサルデザイン」(以後、CUD)である。今回はCUDの提唱者である東京大学分子細胞生物学研究所の伊藤啓准教授に登場していただいた。伊藤准教授は2004年にNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)を岡部正隆氏(当時:国立遺伝学研究所)と共に立ち上げ、CUDの普及啓蒙に尽力してきた。今後、市場ではますますCUDへの関心とニーズが高まってくることが予想されるが、「印刷会社は顧客へCUDに則った色使いを提案することで、顧客の信頼を勝ち取り、他の印刷会社と差別化でき、自社の売上増に繋げていくことができる」と話す。CUDO成立の経緯から運営、またCUDと印刷会社との関係などについて話を伺った。、その有効性などについて話を伺った。
伊藤 啓 ITO KEI
- PROFILE
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神奈川県出身。1986年東京大学理学部物理学科卒業。1991年同理学系大学院修了(理学博士)。独マインツ大学、ERATO山元行動進化プロジェクト、基礎生物学研究所を経て、2002年より東京大学。2004年、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構を設立、副理事長に就任。専門は脳の分子神経生物学。現在、東京大学分子細胞生物学研究所高次構造研究分野准教授。2019年より独ケルン大学へ赴任。
CUDOの運営はほとんどが事業収入で賄われている
Q カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO) を設立された経緯についてお聞かせください。
2000年頃の学会での発表は、文字は白黒がほとんどでしたから、色弱である私でも色で問題になることはなかったのですが、パワーポイントと液晶プロジェクターを使ったプレゼンが普及してきて色が使われるようになりますと、配色によって分かりづらくなってきたのです。それで学会でプレゼンをさせてもらう時に15分程度、色と色との組み合わせで分かりづらい、あるいは分かりやすいという講習会を行ったところ、そのことが新聞やTBSテレビの『報道特集』で取り上げられて、いろいろな人たちに知られるようになったのです。全日本印刷工業組合連合会さんでもCUDのセミナーを開かれて、講師として招かれたことがあります。
その後、セミナーを中心に啓蒙活動をしていたのですが、現地に行って実際にモノを見て色使いのチェックをしたり、実地検証したりしてアドバイスをすることも増えてきました。そうしますと、時間が掛かる上に人を集めての検証となりますから、費用も掛かります。そこで小口のお金の収支もきちっとできるようにする法人格が必要だと考えて、NPO法人を設立することにしました。それで2004年にNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構を、同じ色弱者である岡部正隆さんと共に設立することになったわけです。ただCUDとなりますと、この機構にデザインに詳しい方がいることを知ってもらうためにも、トップにデザイナーを置くことが得策だと考え、デザイナーの武者廣平さんに理事長に就いていただき、私は副理事長に納まりました。
Q CUDOの運営はどのようにされているのですか。
通常のNPO法人ですと、会員を集めて会費を徴収して運営されることが多いでしょうが、CUDOではほとんどが事業収入で運営されています。企業や自治体などをクライアントにして、アドバイスやCUDの検証を請け負って実費をいただく方法を採っています。また、検証を受けてCUDに相応しいデザインをしているとなれば、CUDOから認証製品としてCUDマークの表示を許諾します。その他、色覚に関する相談、CUD普及啓蒙のための講演会やセミナーへの講師派遣、CUDO機関誌の発行などを主な事業にしています。また、CUDOの事業を応援していただける賛助会員からの会費も運営の費用になっています。でも、ほとんどは事業費で運営が賄われているというのが実態です。
業界に先駆けてCUD製品を提供するとライバル企業も追随へ
Q CUDマークを取得した企業のメリットは何でしょうか?
CUDマークを取得しますと、マークをその製品や商品に表示することで、第三者認証に認定されたものとして使えますから、他社と差別化を図ることができます。そして、CUDマークを取得していることを自社のパンフレットに明記して広報宣伝にも活用できますから、それによって売上増に繋がっていく可能性が出てきます。業界に先駆けてCUDマークを表示しますと、それだけ注目が集まりますから、自社のブランディングにも活用することができます。
Q なるほど。優位性が生まれるわけですね。
業界で真っ先にCUDマークを使って製品の配色を行いますと、それを見たライバル他社が自社も対応しなければという状況になって、CUDマークを取得したいとCUDOに言ってくるようになります。その一例として、テレビのリモコンのボタンの色を1社が分かりやすくして、カタログにCUDマークを表示した途端に、他社メーカーからCUDOに連絡が入り、当社の製品もCUDマークを取得したいと言ってきたことがありました。その結果、テレビのリモコンのボタンの配色が統一されるようになったという経緯があります。このように、業界の有力会社がCUDマークを取得することで、CUDが市場に広がっていくことになり、結果的に万人に見やすい色使いの製品が市場に拡大していくことになり、CUDOの理念が実践されていくことになるというわけです。
Q CUDが広がりを見せつつあると思いますが、現状はどう捉えていらっしゃいますか?
製品というものは、デザインが変わった場合に、悪くなるとすぐに気がつくものですが、良い方向に変わってもあまり気がつかれないものです。でも、CUDに関しては気がつかれないほうが良い場合があります。従来の使い勝手が変わることなく、配色が変わるだけですから、一般の人からすれば、それほど変わったというイメージは持たれません。ただし、色弱の人たちにはより使い勝手が良くなるわけです。CUDというものは、今までに存在していなかったものを作るということではありませんから、メーカーが使い勝手が良くなったことをいくら宣伝しても、一般の人たちにはあまりピンと来ないものです。ですから、CUDマークを取得した製品だからといってすぐに売上が上がるということはありませんから、訴求力という点が弱い部分かもしれません。
しかし、巷でよくあるように、障害者の団体の中には、改善を要求する要望書を企業に送りつけてくるケースがありますが、CUDOの方からはCUDの必要性を企業には一切訴えかけません。それを行いますと、企業は守りに入ってしまい、製品を改善するよりも、クレーム対応のように言い逃れをしてごまかすようになってくるからです。それは私たちCUDO の意図するところではありません。色覚的に悪いデザインがあった場合でも、メーカー自体に気づいてもらうことが大切だと考えています。もちろん、消費者から改善要求があれば、メーカーも考えるようになりますから、対応せざるを得ないことも出てくるでしょう。その際に対策をCUDOに求めてくるケースがありますが、その時点になって初めてCUDOでサポートさせていただくことになります。
CUDに対応し顧客の信頼を勝ち取り、売上増に繋げる
Q またCUDOでは今年「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セットver.4」を出されましたが…。
はい。これまで「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット」はver.3まで出してきましたが、2018年4月に改訂しver.4を出しました。ver.3の色味を修正したものになります。7月にガイドブックを発表させていただきました。それと、今年4月に「安全色及び安全標識に関するJIS」が改正されまして、安全標識が多様な色覚を持つ人たちでも分かりやすいように、CUDを採用した色使いに改正されました。
Q そうですか。印刷業界はCUDと大いに関わっていると思いますが、印刷会社に求められることは何だとお考えですか?
まずはCMYKの色ずれを無くしていくことですね。色のユニバーサルデザインとなりますと、色を厳密に指定することになりますが、指定した数値通りの色が出ないと、せっかくCUDを目指していても意味がありません。それと、Japan Color の認証制度に準拠した通りの色を出すことも重要です。Japan Color 認証を取得してJapan Color の色を綺麗に出している印刷会社はまだまだ少ないように思います。また、仮に認証を取得していても常時その通りの色で印刷しているかと言えば、そうとは言えない印刷会社もあります。色の品質管理をしっかりと行っていく必要があるでしょう。
一方、デザイン面ですが、若いデザイナーはCUDへの意識が高いと思いますが、ベテランのデザイナーはCUDへの関心が低いように感じます。CUDOが出しているCUDのガイドブックなどに目を通していただき、CUDの必要性を理解していただければ幸いです。そして、社会がCUD を求めていることを知ってほしいですね。
現在ではDTPでCUDに則ったデザインを刷る場合には、アプリケーションのツールが既に揃っていますから、どのような色使いが望ましいかが分かります。ツールを使ってデザインをされることを推奨します。
Q CUDに関心がない経営者に、いかに関心を持たせていくかが問われるかと思いますが…。
そうですね。CUDに則った印刷物を作らないと不利益を被るということになれば、経営者も関心を持たざるをえなくなるでしょう。最近では自治体の印刷物の入札要項にも、CUDに対応していることが明記されるようになってきました。今後、それは全国の自治体に広がっていくことが考えられますから、印刷物を制作する際にはCUD対応が必要不可欠になってくるのではないでしょうか。
Q 最後に、印刷会社に望まれることとは…。
CUDをビジネスチャンスと考えて、クライアントの方に印刷会社からCUDに則った色使いを提案して、いろいろな印刷物を制作していただきたいです。そのような提案ができる印刷会社が生き残っていけるのかなと思います。これからは大手企業を中心に発注書にCUDが盛り込まれていくでょうし、また一般ユーザーの人たちも当然期待していますから、CUDに対応できたほうが企業の信頼性も高まってきます。そうなれば他の印刷会社と差別化ができて受注増・売上増に繋がっていく可能性があります。CUDへの対応は他の認証制度のように多大なコストが必要ありません。印刷会社はほとんどコストを掛ける必要がなく取り組めます。ですから、是非ともCUDに関心を持っていただき、他社と競争する上での1つの戦力にしてもらえればと考えています。
誌面スペースの関係で、「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セットver.4」を掲載することができませんでした。下記に同ガイドブックのPDFのアドレスを表記しましたので、アクセスしてCUDに関心を持っていただければと思います。
http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/colorset/CUD_color_set_GuideBook_2018.pdf
