月刊GCJ
GCJパーソンズ
(147) スエイシナオヨシ
拘りは紙面を観た時に印象に残る写真を撮ること
フォトグラファーと言っても、業界ごとに活動の場が分かれており、撮影するジャンルは異なる。スエイシナオヨシさんは、スポーツ写真を主体に活躍しているフォトグラファー。近年は幅が広がり、さまざまな出版社や雑誌社から依頼され、ポートレート、音楽、旅行など多彩な撮影をこなしている。これまで携わった媒体は枚挙に暇がないが、国内最大手の総合スポーツ誌「Number」に掲載されていることからも、その技量の高さは窺い知れる。実際、南アフリカやブラジルのワールドカップで撮影した写真は高い評価を得ている。一瞬をとらえるスポーツ写真の難しさは想像に難くないが、デジタルカメラが浸透した今日、昔と比べて仕事のあり方は大きく変わったという。写真についての考え方や今日のフォトグラファーと媒体との関係などについて話を伺った。
スエイシナオヨシ SUEISHI NAOYOSHI
- PROFILE
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1967年福岡県生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。デザイン会社に就職後、ブラジルの写真家セバスチャン・サルガドの写真展を観て、プロのフォトグラファーの世界を目指す。アシスタントを経て1998年に独立し、フリーとなる。サッカーからプロ野球、ゴルフ等のスポーツ関連を中心に、ポートレート、音楽、料理、旅行とジャンルを問わず活動を展開している。2002年より2014年FIFAワールドカップブラジル大会まで取材撮影。現在東京都江東区在住。
印刷時にデジタルカメラの写真の品質が良くなったのは10年程前
——フォトグラファーになろうと思ったのは?
スエイシ東京造形大学でグラフイックデザインを専攻し、卒業後はそのままデザイン会社に入ってデザインの仕事をしました。当時はMacが出始めた頃で、会社にも一応1台置いてありましたが、とてもデザインの仕事に使えるスペックではありませんでした。デザインと言っても、クライアントの指示に従ってデザインをするというもので、制約がありました。それに、一日中パソコンの前に座って仕事をするので、ほとんど外に出られないわけです。それでどうも性分に合わないということで、すぐに会社を辞めました。そんな時に、たまたまブラジルの写真家セバスチャン・サルガドの写真展に行って、戦地の報道写真やドキュメンタリー写真を目の当たりにして感銘を受けたのです。当時、趣味で写真を撮っていましたが、漠然とこんな感じの写真が撮りたいなと思って、プロのカメラマンの世界に進むことにし、アシスタントの仕事についたわけです。師匠が会社の経営者や旅館の女将さんたちを撮影する時によく同行していました。いわゆるエイト・バイ・テンという8×10インチ判のサイズのフィルムで撮影するのですが、撮影ノウハウを実際に見て覚えるという感じでした。
——独立された経緯は…。
スエイシこのままずっとアシスタントをしていても埒が開かないし、他の写真業界の現状も知らないままでしたので、他の写真業界も見てみたいという想いもあって、行動することにしたわけです。それで独立して、いろいろな雑誌社に出向いて自分を売り込むと言いましょうか、コミュニケーションをとって関係を深めていったわけです。そうこうするうちに、少しずつ撮影の仕事が舞い込んでくるようになりました。結局、カメラマンは写真の良し悪しで判断されるわけですから、撮影した作品が全てになります。それが認められれば仕事をいただけるという世界なのですね。
——なるほど。デジタルカメラは早くから使われたのでしょうか?
スエイシ海外でスポーツを撮影する関係で、デジタルカメラのほうがすぐにデータを送れるという利便性で、比較的早くから導入しました。ただし、2002年の日韓ワールドカップの頃は、まだ撮った写真が印刷になった時にあまり満足のいく出来ではなかったことを覚えています。つまり画像処理も不完全で、ソフトウェアにまだまだ問題があったと言えます。8、9年ほど前からようやく品質的に問題がなくなってきたと思いますが…。
外では女性スポーツ選手は逆光で柔らかい光で撮影する
——スポーツの撮影の仕方について教えてください。
スエイシ雑誌やWebに掲載する写真ですから、とにかく数多く撮影します。とは言っても、試合の内容によっては使えそうにないと判断したら、あまり撮影しないケースもあります。それで撮りましたら、まず私が何点か良いと思えるものをセレクトします。その軽いJPEG画像を雑誌社のサーバーのほうへ送信しますと、編集部が使う写真を決めます。それを誌面に使用するサイズに合わせて画像処理を施したTIFFデータやJPEGデータを、こちらから再度送るわけです。
ワールドカップのような大きな大会では、多くのフォトグラファーが雑誌に関わってきますので、誌面でそれぞれ使う写真の色味を統一するために、いわゆるカラーマネジメントを万全に行うと思われがちですが、実際の誌面では色味は結構バラバラです。それぞれのフォトグラファーの個性というのか、色味を反映した感じに仕上がっていますね。
——そうですか。スポーツ写真では、一瞬の動きをいかに捕らえるかということが大切そうですが…。
スエイシ基本的にはそうです。でも、それぞれのフォトグラファーの感性が現れますね。私の場合は、どちらかと言うと、読者の方が誌面を見て印象に残る写真を撮るところに重きをおいています。
——なるほど。デジタルカメラがアナログカメラよりも有利ところは?
スエイシアナログと違って大容量のメモリーカードを使用できますから、相当数撮影できますよね。昔のフィルム撮影の頃と比べと非常に利便性が向上しました。それに、ISO感度はアナログほど神経質にならなくても大丈夫です。よほど暗い天候でもない限り問題ありません。いざとなれば、補正できますし。ただし、曇りの日は空を撮影すると、白く写ってしまうので、フレームの中にあまり空は入れたくないですね。
——女性スポーツ選手を撮られる場合は、撮影に注文は入りますか?
スエイシいえ、スポーツの場合はまず注文はありません。こちらにお任せです。女性スポーツ選手の場合は逆光で撮るようにしています。陰によって綺麗に撮れるからです。女性を撮る際に気を付けているポイントは、光が柔らかくなるように撮ることでしょうか。そうしないと、肌が汚く写ってしまうからです。タレントさん等を撮るポートレートの場合は、いろいろとチェックが入りますが…。
——外で撮る場合には、それなりのノウハウがあるのですね。
スエイシええ。また、同じ写真でもWebはRGB画像ですから、綺麗に見えますが、紙の場合はCMYKに変換するために、ご存じのようにくすんで見えてしまいます。それに誌面のデザインや使っている紙によって写真の見え方も違ってきますよね。しかも裏の印刷状態、写真なのか、テキストなのかによっても見え方が違ってきます。ですから、あまり神経質になっても仕方ないので、写真自体が印象に残るものであるかどうかで判断して、色味については雑誌社の考え方にお任せのところがありますね。
カメラの発達で動画撮影から1枚の画像を使う時代がくる
——写真に対する考え方が昔と今とでは違ってきているのでしょうか?
スエイシええ。違いますね。アナログを知らない若い人たちが雑誌を作るようになって、品質への拘りが無くなったりと、昔とは状況が違ってきています。実は、カメラの機能は向上していますし、画像処理ソフトでいかようにも加工処理ができるようになって、印刷した際のクオリティは高いはずなのですが、そうなっていないわけです。昔のフィルム撮影時代では、製版で4色分解して印刷していましたから、その色のほうが却って深みのある綺麗な色に仕上がっていました。今日の写真は平面的と言いましょうか、誌面から受ける立体感が消えつつあります。フィルムレスになったのも原因の1つですが、考えられるのは、Webで写真を見る機会が増えて、作る側もRGB画像なら発色の綺麗な色が出るので、工夫することなくそのまま掲載してしまうワークフローになっているからです。ですから、印刷の紙に対してもWebに掲載するのと同じような感覚で作業してしまうのだと思います。
昔の人は職人のように色を創り込む感覚とか、色に対する思い入れがありましたが、今の人たちは残念ながらそれがなくなりつつあります。時代がそうだから仕方ないのかもしれませんが…。
——なるほど。次から次へとフォトグラファーが輩出されていると思いますが、存在価値をどこに見出していくかが問われているのでしょうか?
スエイシそうですね。例えば、サッカーでドリブルしている写真は、カメラの性能が向上したことで誰でも撮れるようになりました。しかし、誰でも撮れる標準的な写真をそのまま誌面に載せても仕方ないわけです。そこで印象に残るインパクトのある写真を撮ることが、プロのフォトグラファーの仕事だと思うのです。また、そんな写真を雑誌社の方でも価値を見極めて載せていくという考えがなければいけないと思うのです。
——はい。撮影で重要視されていることは何でしょうか?
スエイシ最も重要なのは光ですね。ブツ撮りやポートレートの場合は室内でのライティングや露出の具合がポイントになります。外であれば太陽光です。光の当たり方で見え方も違ってきますから、光をどう使うかが最も重要になります。
——撮影の方向性やビジョンについて聞かせてください。
スエイシカメラが発達していけば、動画から好きな静止画を抜いて写真として使用できるようになるでしょう。実際にスペインの新聞ではそういうことを行っていると聞いています。そうなると、スチールの居場所がなくなってしまいます。ですから、もっともっと自分らしさを出す写真の追求と、さらには動画撮影への対応もしていかなければと思っています。
メッシの得点を喜ぶアルゼンチン代表(スエイシさん撮影)
ブラジルW杯決勝前日コパカバーナ海岸で盛り上がるサポーター(スエイシさん撮影)
