月刊GCJ
GCJパーソンズ

(198) 望月 優

情報とテクノロジーで障害者を自立支援する

幼少時に病気で失明した株式会社アメディア 代表取締役の望月優さん。高等学校で非常勤講師をしていた時にコンピュータで印刷した資料に出会ったことで、視覚障害者が読み書きできるシステムの開発に邁進することになった。潔く高等学校を退職すると、障害者向けのさまざまなソフトや機器を販売する会社を設立。そして、印刷物を読み上げるパソコン用ソフト「ヨメール」を開発した。エポックメイキングとなった同製品は高い評価を得た。その後リリースしたカメラ型文字認識拡大読書機「快速よむべえ」は好評を博し、現在も主力製品である。昨年、スマートフォンで歩くルートを案内するアプリ「ナビレコ」も開発し、事業の柱となるよう育てているところである。経営理念や製品開発などについて話を伺った。

望月 優 MOCHIZUKI YUU

PROFILE

1958年静岡県生まれ。77年麗澤大学ドイツ語学科入学。82年麗澤高等高校非常勤講師。視覚障害者読書権保障協議会代表に就く。1986年国立職業リハビリテーションセンター電子計算機科入学。89年株式会社アメディア設立、代表取締役に就任。視覚障害者向けのシステム開発・販売を事業化。96年印刷物読み上げソフト「ヨメール」発売。2003年音声・拡大読書機「よむべえ」発売。17年日本初のカメラ型音声読書機「快速よむべえ」を発売。(一社)音声ナビネット理事長。

コンピュータ印刷との出会いでシステム開発に目覚める

Q 高等学校の非常勤講師を退職されて、コンピュータ技術を学ぶために専門学校に入学されたそうですが、その経緯について聞かせてください。

きっかけとなったのは、教鞭をとっていた頃、会議の資料がそれまではガリ版で刷っていたのが、コンピュータによる印刷に変わったことでした。そこで、それまでは会議の資料を読むことなど考えられなかったのですが、コンピュータに取り込まれた文字を点字に変換できれば、自分も同じ資料を読みながら会議に参加できるのではないかと考えたのです。視覚障害者の障害は「読み書き」と「移動」の2 つの不自由がありますが、「読み書き」の不自由については、コンピュータというテクノロジーを駆使すれば、視覚障害者も自ら読み書きすることができるようになり、読み書きの不自由から解放されるのではないかと思ったのです。

それで自らがコンピュータを使ったシステムを開発するしかないと決断し、そのためにはプログラミングを学ぶ必要があると考え、思い切って高等学校を退職し、視覚障害者でもコンピュータのプログラミングが学べる国立職業リハビリテーションセンター電子計算機科に入学しました。

Q そうですか。1996年に、ついに念願の印刷物を読み上げるパソコン用ソフト「ヨメール」を開発されたわけですね。

はい。何しろ当社のような小規模会社で、私も含め社員の誰もがシステム開発に長けていた者がいませんでしたから、自社で開発するのは非常にハードルが高かったわけです。それでいろいろ苦労はしましたが、何としても製品化しようとチャレンジした結果、ようやく市販できるものを完成することができました。「ヨメール」はパソコンに接続したスキャナで印刷物を読み取り、それを音声で読み上げるソフトです。読み取った印刷物は点字データに変換できますし、また、点字プリンターと接続すれば点字で打ち出すことも可能です。操作はテンキーでできますから、電卓感覚で使えて視覚障害者には使いやすい設計になっています。読み取った印刷物の文字を大きく表示することもできます。お陰様で高く評価されて1997年度の「日経優秀製品・サービス賞」を受賞しました。

Q 自社開発の製品以外にどのような製品を販売されていらっしゃいますか?

障害者向けの展示会に出向いたりして、利便性があって利用しやすいものを選んで代理店となって販売しています。例えば、画面音声化ソフト「PCTalker」は、最も普及しているスクリーンリーダーですが、OSのバージョンアップと共に現在も販売を続けています。現在、障害者の人たちを支援するシステムや機器、サービスなどを100点ほど販売しています。それと毎年「アメディアフェア」を主催していて、20数社の出展社による展示会や講演会、シンポジウムを開催し、全国から視覚障害者の人たちが多数集まってきていただき、盛況を博しています。

「プリントアクセシビリティ」の理念で印刷物の作成を

Q その後2003年には音声・拡大読書機「よむべえ」を開発されました。ターニングポイントになった製品ではないかと思いますが…。

「よむべえ」は、「ヨメールEZ」の後継機種として発売しました。大幅にコストダウンし、サイズもできる限りコンパクトにまとめたもので、当時の技術水準では最高レベルの単体型音声読書機だったと自負しています。また、2005年以降のモデルでは、DAISY 再生機能が加わり、さらに2007年8月以降のモデルからは画像を表示した状態から認識・読み上げができるようにしました。なぜ、「よむべえ」が音声・拡大読書機と形容されているかと言いますと、印刷物を読むことで「音声読書機」となり、スキャンした画像をそのまま表示して拡大することで「拡大読書機」の役割を果たすからです。さらに、DAISY図書も再生できます。

「現在は、「快速よむべえ」として、カメラと本体が一体化したモデル(21.5インチ画面)を発売しています。画面に文字を拡大して表示することができるようになっています。主な用途は郵便物の確認用で、その他にパッケージの印刷内容の確認、活字読書用と幅広い用途に使えます。また、英語、中国語の簡体字と繁体字、韓国語も読み上げることが可能ですから、外国の人たちのニーズにも応えています。

Q 視覚障害者の人たちに配慮した印刷物が、まだまだ少ないのが現状かと思いますが…。

「印刷物というのはそもそも目の見える人のためのもので、残念ながら視覚障害者を考慮して作るという発想がほとんどありません。日本では90年代になってOCR(Optical Character Recognition=光学的文字認識)が登場し、画像データから文字情報を取り出せるようになりました。それで当社では10年ほど前に、印刷物の音声による読みやすさを「プリントアクセシビリティ」と名付けて、OCR組込音声読書機についてまとめた「プリントアクセシビリティ・ガイドブック」を作成しました。

OCR 技術は年々向上していて、かなりの精度で文字を認識できるようになりましたが、人間が読むのと同じように認識するレベルにはまだ達していません。ですから、OCRで認識させるためには、まずは読みやすい文字で、しかも行間・文字間が適度な間隔で配置されていることが基本になります。つまり、OCRで読み込む可読性を高めていく必要があるわけです。そこで印刷会社や出版社の方々には、視覚障害者の人たちにも考慮した可読性を追求したレイアウトをお願いしたいですね。

Q 改めて「プリントアクセシビリティ」を意識した制作が求められますね。ところで、現存のシステムのバージョンアップ以外で、新しい製品開発は考えていらっしゃいますか?

はい。現在、新しいシステム開発に着手しているところです。これまで当社では、主に「読み書き」の不自由を解消するシステムの開発に携わってきましたが、今後は「移動」の不自由を解消しようと、音声ナビのアプリ「ナビレコ」を開発しました。これはスマートフォンに音声ガイド地図を表示し、視覚障害者に目的地までの道案内を音声で行うというものです。「ナビレコ」を使いますと、音声と機器の振動でナビゲーションするため、視覚障害者の人たちが目的地に格段に行き着きやすくなります。この音声ガイド地図はWebサイト「ナビ広場」とiOSアプリ「ナビレコ」からいつでも確認できるよう公開していますが、そのインフラとなる音声ガイド地図を作らなければなりません。それが大変な作業になります。目的地までどのようなルートを辿って行けばよいのか、経路を音声で知らせる地図を作るのですが、歩く経路のテキストを入力しなければなりません。そのテキストを読み上げて、視覚障害者の人たちに道順を知らせるというものです。何メートル先に信号がありますとか、次の角を右に曲がりますとか、階段を上がってすぐ左に点字ブロックがあります、などのテキストを読み上げ、事前に方向を理解できるようにしてもらいます。それで道に迷うことがかなりなくなりますし、目的地が初めて行くところであればこの「ナビレコ」はかなり利便性の高いアプリになると考えています。

音声ガイド地図アプリ「ナビレコ」が新たな事業の主役に

Q 視覚障害者の人たちにとって待望のアプリかと思いますが、制作するのは大変ではないでしょうか?

ええ、そうなのです。視覚障害者が利用する「ナビレコ」も、音声ガイド地図を作成するアプリも全て無料で提供していて、今のところどこからも収益がありません。そのため視覚障害者の外出環境を充実させることを目的とした「音声ナビ・プロジェクト」を立ち上げて、音声ガイド地図を作っていただけるボランティアの方々を募集しています。現時点(2019年8月末)で370カ所ほどの道順が完成していますが、まだ緒に就いたところです。基準に見合ったガイド作成者の方には「音声ガイド地図デザイナー認定証」を発行し、ある程度ガイドが公開されますと、謝礼としてクオカードやアマゾンギフト券に交換できるポイントを差し上げています。

また、音声ガイド地図を受託制作・公開するに当たって制作費用が掛かりますので、法人の方々に制作費のご支援をいただければと思っています。ナビ広場上では1つのガイド地図ページ当たり2 枠の広告枠を設けていて広告を募集しています。皆様の企業のCSR 活動にもなるかと思いますので、広告掲載を一考してみてください。皆さんの力で、新しいインフラ音声ナビゲーションを構築していただければ幸いです。

Q 「ナビレコ」は広大で有意義な事業かと思います。新たなビジネスの指標になるのではないでしょうか?

そうしたいですね。当社は設立して30年になりましたが、これからの30年は、この事業を収益性のあるビジネスとして育てて、いずれ後継者に事業を引き継いでいければと思っています。この事業は簡単に完成するものではなく、長い年月をかけて行っていくことになりますから、地道に着実に続けていくつもりです。当社では、情報とテクノロジーで障害者を自立支援していくことを経営理念として掲げています。重要なことは、障害者の人たちが自分の意思で判断して活動できる社会にしていかなければならないということです。インターネット社会となり、情報はインターネットから簡単に得られる時代になりましたが、視覚障害者の人たちにはまだまだ情報が共有できていません。これからも新しい技術を活用して利便性の高い製品を提供していかなければなりません。当社は、障害者の人たちの自立を支えていくと共に、自立した人間同士がお互い助け合い、協力し合って生きていけるような社会を目指して、システム開発を続けていくつもりです。

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快速よむべえ一体モデル

重要なことは、障害者の人たちが自分の意思で判断して
活動できる社会にしていかなければならないということです。

———— 望月 優