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(173) 藍原 節文

ニーズに応えるために印刷しかできないとは言わない

企業の悩みや問題の解決策は、個々の企業によって異なるものである。株式会社ファースト・シンボリーを率いる藍原節文社長は、デザイン制作、企画書作成代行、経営コンサルティング、顧客管理分析、販促・営業支援等を通じて顧客企業のニーズに応えて、売上向上をサポートしている。「顧客をヒアリングし現状を把握し、強みや特長を活かした解決策を提案しています」と言う藍原社長。サポートをする中で効果を発揮するさまざまな印刷物や販促物の企画・デザインを提案していくことが同社の経営方針である。「顧客の問題を解決する」ための販促・営業支援を考えていくわけであるが、これは川上の分野で活路を見出そうとする印刷会社にとっては大いに参考になるだろう。藍原社長に経営方針、ビジネス手法などについて話を伺った。

藍原 節文 AIHARA TOMOFUMI

PROFILE

1975年福島県生まれ。1997年横浜国立大学卒業後、呉服大手ナショナルチェーンに入社。2003年友人と販売促進コンサルティング会社を起業。2006年提携先のデザイン制作会社「株式会社ファースト・シンボリー」の代表取締役社長に就任し再出発。販売促進コンサルティング、印刷・販促ツールのデザイン、ホームページ制作、プレゼン資料作成代行業、周年記念式典・イベント運営代行業など多彩な事業を通じて顧客をサポート。2016年『飲めば飲むほど業績が上がる「飲み会」仕事術』(商業界)を発刊。

顧客の売上向上に繋がるデザインを提案する

——大学卒業後、全国にチェーン展開する大手呉服店を就職先に選ばれたのはどうしてですか?

藍原大学在学中に新卒採用向けの会社案内の発送代行事業や求人票の作成、採用コンサルティングをしていた会社で、営業のアルバイトをしました。そこでBtoBの営業手法を習得したわけですが、就職するにあたっては、BtoCの営業手法を習得できれば、最高の営業力が身に付く、しかも売りにくい商品を売る営業職に就けば、可能性は無限大であると考えたのです。つまり、BtoBとBtoCの両方の営業をマスターすれば、どんな営業でもできるようになると思いました。そこで世の中に無くても困らないと思われる着物をあえて選んで、着物販売の大手企業に就職したわけです。全国で売上1位となり表彰されたこともあります。その会社には5年程いて、その後、販売促進コンサルティングの会社に1年程勤めました。

——コンサルティング会社での仕事が現在の原点になっているのでしょうか?

藍原そうですね。そこでコンサルティングとはどういうものなのかを一通りマスターしましたね。その後、その経験を活かして、エンドユーザーを対象にしているような企業や店舗向けのコンサルティング会社を友人と二人で起業しました。飲食店、各種小売店、住宅メーカーといった方たちをクライアントに持ち、既存顧客のリピート率を高める方法や、新規顧客の開拓方法などをコンサルティングする会社です。各種印刷物や販促ツールを制作するのは、業務提携していたデザイン会社である株式会社ファースト・シンボリーでした。デザイン制作はお任せしていたのですが、経営統合することになって、私が代表取締役に就くことになり、2006年11月に新生株式会社ファースト・シンボリーとして再出発することになりました。これがこれまでの簡単な経緯です。

——なるほど。御社はデザインに基軸を置いているのでしょうか?

藍原はい。当社の強みは長い歴史の中で培ったデザインの経験とノウハウになるのですが、売上に繋がるデザインを提案し、お客様の売上向上をサポートしてきました。ですから、販売促進のコンサルティングで伺っても、最終的にはデザインの改善、新規提案を行って問題を解決していきます。既存の印刷物や販促ツールのデザインの改善のみならず、ブランディングも含めてあらゆる面からサポートします。ヒアリングを通してお客様の強みを明らかにし、それを印刷物、販促ツールの紙媒体だけでなく、ホームページなどデジタルコンテンツにも反映させて活かしていくようにします。

——近年は販促展開が不可欠になっており、企業の関心が高まっているように思いますが……。

藍原販促展開は、どの時代でも企業に必要なものです。今は印刷物だけでなくインターネットを介したもの、デジタル化されたものなど、いろいろなツールがあり、「見せるツール」あるいは「ツールの見せ方」が多様化してきています。その中からエンドユーザーであるお客様の心に届く販促を選んで展開していかなければなりません。

顧客の声をしっかりと聞いてできることをしていくこと

——御社ではどのような引き合いが増えていますか?

藍原ブランディングを依頼されるケースが増えています。全国各地から業種に関係なく引き合いが来ますね。ブランディングを求められるお客様は、自社のブランド力が弱いと感じていて、強みを把握して、それをしっかりと打ち出せるようにしてほしいという依頼が多いです。当社では社長に対してよりも、会社の強みは社員全員で作っていきましょう、というスタンスで臨んでいます。社員全員とミーティングをしていく中で、会社の本当の強さについて徹底して話し合いし、理解してもらうようにします。ですから、定期的にお客様のところに訪問しています。顧客企業が地方であってもなるべく訪問し、社員さんたちと面と向かって話をさせていただきます。実際にお会いして話してみないと、何を考えているのか、また本音であるのかどうかが分かりませんから、会って話すようにしています。

——印刷会社はどのような経営方針で臨むことが大事だと思われますか?

藍原お客様に対してできる強みは何であるのかを、印刷ツールやWeb上で表現して、そのツールを活かした営業や販売促進をしていくことが大事だと思います。他社にない自社の強みを明確にしておくことが大切です。強みとは何かを分からないまま済ませてしまわないことです。分からないまま済ませてしまうと、今までと何も変わらない営業になってしまいます。強みを突き詰めて、それを社員全員に徹底して植え込んでいくことですね。

——実際の営業ではどのようなことが求められるのでしょうか?

藍原営業で大事なことは、お客様の声をしっかりと聞いて、お客様のニーズの中から自社でできることをピックアップし、それを分かりやすい形で商品化することではないでしょうか。印刷会社だからということで、印刷しかできません、と言うのは、逃げていると思うのです。当社はデザイン会社ではありますが、デザインだけでなく、例えば、企画書作成代行や営業の販売促進のコンサルティング、顧客管理、セミナーの運営代行、周年記念式典・イベントの運営代行、本の出版、執筆代行など、さまざまな仕事をしています。これらは当社のお客様から「こんなことはできませんか?」「あんなことはどうですか?」と、いろいろなニーズが出てきたために、それらに対して当社ではできませんと断らずに、何とかできる方法を考えてやり続けていたからこそ、それぞれのビジネスモデルができたのです。

——ほとんどの印刷会社は、印刷に関する営業しかできていないのが実態です。

藍原そうだと思います。しかし、お客様のところには印刷以外のニーズもたくさんあるわけですし、また、困っていることもあります。ですから、まずはニーズや困っていることを聞かなければいけないと思うのです。それらを聞いた上で、自社でできる仕事・流れを作るわけです。自社内でできないのであれば、外部の外注先や協力会社を探すなどして、できるようにしていきます。

 結局は、全て印刷に絡んでくるものばかりです。企画書で言えば、A社が新商品を発売するにあたって企画書を作成する際に、自社では上手く作れないということで、当社に企画書作成の仕事を依頼してきます。企画書を作りますと、商品の内容は理解できているわけですから、次にパンフレットを作ることになった場合に当社にデザインを依頼してきます。デザインしますと、当然配りますから印刷の話にもなります。印刷の需要に結びついてくるわけです。また、周年記念のイベントを企画すると、招待状や席次表を作成する必要が出てきますから、それらのデザインから印刷までを当社が引き受けることになります。このようにあらゆるものが印刷に絡んできます。プロデュースし、企画書を作ってデザインまで行うことで、印刷まで受注できるようになるわけです。  それから当社では、営業であえてデザインの仕事を獲るようなことはしていません。デザインの仕事をください、という営業は一切したことがありません。悩まれていることは何か、問題を解決したいことは何かを聞いて、それなら当社ではこういうことができますという話をしていくことで、最終的にデザインの仕事に繋がっています。

経営者の本を出版するビジネスはこれから伸びていく

——これから伸びていくようなサービスはありますか?

藍原実は、本の出版ですね。当社では本の出版を代行するサービスをしていて、Webサイトを立ち上げています。ゴーストライティングの仕事を引き受けているのです。現在、本を出版したい社長さんがたくさんいてそのニーズに応えているところです。しかし、費用が何百万円も掛かるのでは本を出せませんから、当社の仕組みで本を出せば、そんなに費用は掛からないようになっています。しかも、社長自らが書かなくても、ヒアリングをするだけで本が出せるようになっています。この本の出版サービスは今年からスタートしたのですが、既に二人の社長の本は出版されましたし、現在3人の方の本を書いているところです。社長が自分の本を持って営業に行かれると、本を出していることでお客様にブランド価値を訴求できるわけです。営業での話を聞いてもらいやすくなります。

——印刷会社では顧客の自費出版をサポートしているところはありますが……。

藍原印刷だけを受注するのではなく、印刷会社の社長さんも、会社のことや印刷に関することなど何でも結構ですので、一本軸が通った考えを本にすれば、ブランド戦略の1つになるでしょう。そのまま会社の営業ツールになります。自費出版を作成しますからデータをくださいという、今までのような本の印刷製本の仕事の受注だけを訴えるのではなく、自ら出版した本を営業ツールとして活用すれば、自社のブランド化に繋がりますし、具体的な事例が目の前にあるわけですから、お客様への訴求力が強くなり、本を作る仕事が受注しやすくなるでしょう。このように、たとえ、印刷会社であっても、本を出版することで営業に大いに活かせますし、ブランド化の1つになりますから、印刷会社の社長さんも是非出版を考えてみてください。当社はそのお役に立てることができますから、企画やライティングのことならいつでも相談してください。

著書『飲めば飲むほど業績が上がる「飲み会」仕事術』(商業界)

著書『飲めば飲むほど業績が上がる「飲み会」仕事術』(商業界)

「㈱ファースト・シンボリー」のWebサイト

「㈱ファースト・シンボリー」のWebサイト
http://www.firstsymboly.com/

他社にない自社の強みを明確にし、
突き詰めて、それを社員全員に徹底して
植え込んでいくことが大切です。

———— 藍原 節文

掲載号(2017年9月号)を見る