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(146) 宮原 智将

企業とユーザーをコンテンツで繋いでハッピーにする

モノを売るための販促や集客を戦略的に支援するビジネスが盛んになっている。なかでもWebを中心にコンテンツ・マーケティングの重要性が訴えられ、どの企業でもメディア・コンテンツ戦略が展開されつつある。そんな企業のニーズに応えているのが株式会社エスタイルである。代表取締役の宮原智将さんは、「当社は皆様に幸せな気持ちになっていただくコンテンツを企画し発信しています。時代の空気やコンテクストを見つけて、成果のあるコンテンツ・マーケティング支援を行っています」という。そこで経営方針や顧客に対する考え、同社の展開するコンテンツ・マーケティング支援とはどういうものなのか、話を伺った。印刷業界としても今後コンテンツ・マーケティング・サービスは視野に入れたい仕事であるため、参考にしたいものである。

宮原 智将 MIYAHARA TOMOYUKI

PROFILE

1977年東京都生まれ。2003年慶応義塾大学経済学部卒業。同年経営戦略コンサルティングファーム会社に入社(株式会社コーポレイトディレクション : CDI)。2006年株式会社エスタイルを設立し、代表取締役に就任。エステ店舗経営、コンサルティング業務を開始。2010年Webマーケティング業務の提供を開始。2011年メディア運営事業を開始。

エステサロンの経営からWeb、コンテンツ・マーケティングの世界に

——経営者になろうと思った動機は?

宮原中学2年生の時に、司馬遼太郎の『国盗り物語』を読んで、登場人物の斎藤道三に憧れました。彼のような人生を送るにはどうすれば良いのかと考えたところ、政治家か経営者になるしかないと思ったわけです。それで経営者を選んだのが最初の同機と言えるでしょうか。高校卒業後に大学に進むのは遠回りだと考え、少しでも経営者に近づこうと、イタリアンレストランでキッチンやホールのアルバイトをしました。しかし、料理は自分には向いていないことが解って、一念発起で改めて大学進学を目指したわけです。それで慶應義塾大学の経済学部に受かったのですが、高校の同期とは3年遅れでの進学となりました。在学中はさまざまなアルバイトを経て、いろいろなビジネスに接する機会を得たのですが、その中でコンサルタント業界というものを知りました。コンサルティング業務を通じて、経営というものを学びたいと思い、コンサルタント会社に就職しました。

——なるほど。コンサルタント会社ではどのような仕事をされたのでしょうか?

宮原例えば、病院の経営改善であるとか、企業同士がM&Aをした後の統合プロセスとして経営の方向性を決める「PMI」(Post Merger integration)と言われる業務などに関わりました。いずれも経営の根幹にかかわる仕事で、クライアントも最低数百億円の大きな会社が多かったですね。3年程勤めていよいよ自分の会社を持とうと、経営者として踏み出しました。

——最初はどのような事業を始められたのでしょうか?

宮原エステサロンの経営を始めました。社名をエステとスタイルを組み合わせた株式会社エスタイルにしてスタートしたのです。しかし、コンサルタント会社でいろいろ学んで理論では分かっているつもりでも、いざ、実際に経営に携わると上手く行かないわけです。何よりもエステサロンのスタッフたちにロジカルな説明をしても聞き入れてもらえず、結局大切なことは心に響いて、心を動かくコミュニケーションだということが解ったのです。結局そのエステサロンは1年半で売却して、その後フリーのコンサルタント業に3年ほど従事しました。そして、新たな事業ドメインとして選んだのが、現在も進めているWebマーケティングの世界だったわけです。これは2010年からスタートしたのですが、翌年にはメディア運営も開始しました。現在当社は、外部のメディア会社や企業のオウンドメディア向けにコンテンツの企画・制作を行う「オウンドメディア構築支援」、集客からコンバージョンまで長期的な視野に立った「コンテンツ・マーケティング支援」、そして、女性向けライフスタイルのメディア「ANGIE」や、最近スタートした働くママ向けの「BRAVA」、またアプリ最新情報を提供する「APPGIGA!!」等の「自社メディア運営」の3本柱が、当社の事業になります。

「or」ではなく「and」であらゆるコンテンツを対象にする

——それら事業を進めるに当たっての経営理念は何でしょうか?

宮原『コンテンツで世界をハッピーにしよう』というのをミッションに取り組んでいます。メディアを作ることと、大切な人にサプライズなプレゼントを贈ることは似ていると、考えています。見込み客や既存客にとって役立つコンテンツを提供していくわけですが、そのためにはエンドユーザーから見て良いコンテンツを作っていかなければなりません。そのためには社員がコンテンツの企画力をしっかりと身に付けて、伸ばしていくことが求められます。大事なことは作ったコンテンツがお客様の求めているものであること。商品やサービスのベネフィットを気づかせるものであることが重要になります。そして、お客様に納得していただくことだと思っています。

——紙媒体についてどのようなお考えですか?

宮原印刷の紙とWebが対立構造になってはいけません。今はオムニチャネルで進めていく時代です。ユーザーにとっては紙であろうが、デジタルであろうが関係ありません。「or」ではなく、全て「and」で臨まなければなりません。あらゆるコンテンツを対象にしていくことが大切だと考えています。

例えば、『妖怪ウォッチ』を見ると分かりますが、ユーザーが良いと思ったら、きっかけが紙媒体であればアニメでも観たいと思いますし、アニメを観た後でもさらに細かい情報を紙媒体で読みたいと思うものです。また、グッズも欲しくなります。ユーザーからはコンテンツは紙媒体、アニメ、グッズ、Web、フィギュアだろうとあまり区別しないで楽しんでいるわけです。

ユーザーである企業は、コンテンツを軸にしていろいろな形で表現することを求めているところがあります。紙とWebの両方をビジネス展開できるプレーヤーを必要としていますし、そうなってしかるべきだと思っています。

——では、コンテンツを企画・制作する側はどのようなスタンスが求められますか?

宮原まずは、お客様である企業が何を求めているのかを、深く理解することですね。当社ではコンテクストという面を重要視しています。これは例えば、ガーデニングについて記事を書く場合に、ベランダでミニトマトを作りましょう、という初心者のレベルの記事にするのか。そんな基本的な情報をすでに知っている人たちに、こんな変わった植物もベランダで育てることができますという話をするのか。あるいは別荘を持っている人たちや一定区画の畑を所有している(借りている)人たち向けに本格的なガーデニングの話をしていくのか。あるいは自給率を高めようと言うテーマで話を展開するのか。このようにガーデニングというテーマでも、ターゲットの志向やレベルに合わせて細分化されているわけです。ですから、コンテンツを作っていく場合に、私たちのスタンスはこういうものであるということを全面に出すのではなく、ユーザーが求めていることを掘り下げて、私たちが企画したコンテンツに対してどのような反応を示しているのかを見極めて、フィードバックをしっかりと行って、ユーザーに合致した有益なコンテンツとなるよう精査し、コンテンツを制作していくことが大事であると考えています。

それと、コンテンツを作る際には、参考にしたメディアと同じような切り口でコンテンツを作れば良いという思い込みは危険です。ユーザーになってほしい人たちと接し、コンテンツに対して「生の声」を訊いて、ユーザーが本当に求めているコンテンツを作っていくことが重要です。

良質なコンテンツ制作で成果報酬型のビジネスにシフト

——コンテンツを作る際の留意点について教えてください。

宮原コンテンツを紙媒体、Web、DMなどに二次利用、三次利用する場合で、ポイントになるのは文字数です。紙ですと、何頁でも読んでもらえると思いますが、Webではあまり長い文章になると利用者が離脱してしまうのです。スマートフォンは大体600文字程度まで、PCだと1,500文字までというのが1コンテンツの文字数になります。ですから、その範囲内で効果的なコンテンツを作るようにしています。

また、コンテンツ・マーケティングでは検索してくるユーザーがターゲットになります。コンテンツが企業とユーザーを繋ぐ要素になるため、企業が情報発信をしていかないとユーザーとの接点がありません。常にコンテンツを発信して、既にファンになっている顕在的なユーザーだけでなく、潜在的なユーザーも取り込んで囲っていくことが必要になってくるわけです。ただし、コンテンツ・マーケティングに即効性はありません。コンテンツ発信を継続していくことで、ユーザーと徐々にコミュニケーションを深めていただき、企業のファンになってもらうことが大切です。当社では「知りたいを形にして、企業とユーザーを繋ぐ」を、コンテンツ・マーケティング・サービスのコンセプトにしています。

——コンテンツ・マーケティングの業界はどうなっているのでしょうか?

宮原コンテンツ・マーケティングへの期待は大きいものがあります。ユーザーからすればコンテンツ・マーケティングが機能すれば、会社の売上増に繫がり、業績をアップさせる有益なものとなるでしょう。ユーザーは商品やサービスを購入するに当たって、検討材料がWebや紙媒体などで全て明るみになり、それが的確に表現されていれば、自分に合わない商品を誤って購入してしまうことはありません。広告を見て購入するというよりは、ユーザーは自分の興味であるとか、調べているうちに自然と欲するようになるわけです。商品を販売する側も、しっかりと良質なコンテンツを配信することで、費用を削減できたり、本来コンテンツを届けるべき人に的確に届けることができたりだとか、きちんとコンテンツ・マーケティングが反映されれば、生産者と消費者の理想的なマッチングになると思っています。

しかし、現在これだけコンテンツ・マーケティングが市場で訴えられていますが、まだまだ成熟しておらず、コンテンツ・マーケティングを支援している会社はコンテンツを作ることに主眼が置かれ、お客様の企業でもそういう認識しかありません。しかし、コンテンツ・マーケティングは、本来は集客のためであるとか、啓蒙のためであるとか、効果ありきの考えでなければならないと考えています。効果によってコンテンツの良し悪しを判断していくことがポイントにならなければならないと思うのです。

ですから、コンテンツを作ったから制作費をくださいという考えではなく、実際に成果を上げたかどうかで判断していく時代になっていくと思います。当社としても集客数であるとか、売上増であるとか、顧客数の増加など、具体的な成果に対して報酬をいだたくように成果報酬を取り入れ始めました。お客様も費用対効果が解れば、制作費に納得していただけます。私たちも成果と離れて自己満足的なコンテンツ制作に陥らなくて済みます。お客様のマーケティングを成功させるためにどのようなコンテンツを作れば良いのか、その原点に立ち返ることができますから、成果報酬型は厳しい面もありますが、意義があると考えています。

株式会社エスタイルのホームページ

株式会社エスタイルのホームページ
http://www.estyle-inc.jp/

最近スタートしたワーママ向けメディア「BRAVA」

最近スタートしたワーママ向けメディア「BRAVA」
https://www.wantedly.com/projects/18224

コンテンツ・マーケティングがきちんと反映されれば、生産者と消費者の理想的なマッチングになると思っています。

———— 宮原 智将

掲載号(2015年6月号)を見る