月刊GCJ
GCJパーソンズ
(181) 中原 淳
部下の育成で有効なフィードバックの実践を
企業・組織における人材育成・リーダーシップ開発について研究しているのが、立教大学経営学部教授の中原淳さんである。「今日の企業は人材育成を何より優先して取り組む必要がある」と説く中原教授。著書『フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』では、長年の人材育成の研究と実際の企業でリーダーの声を訊いた経験談に基づき、「フィードバック」というリーダーの人材育成法を解説している。その画期的な部下育成法は、そのまま印刷業界の企業にも当てはまるものだ。「フィードバック」について話を伺った。
中原 淳 NAKAHARA JUN
- PROFILE
-
1975年北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究所、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、企業・組織における人材育成・リーダーシップ開発について研究。2006年東京大学大学総合教育研究センター准教授。2018年立教大学経営学部教授。専門は経営学習論・人的資源開発論。著書に『職場学習論』『経営学習論』(共に東京大学出版会)、『駆け出しマネジャーの成長論』(中公新書ラクレ)など多数。
フィードバックは「情報通知」と「立て直し」の2つの要素で構成する
——「フィードバック」とは、どういうものなのでしょうか?
中原フィードバックは人材育成にとって根幹をなすものです。部下を育成するための手法になるのですが、フィードバックは部下の能力を伸長させていくために最も重要な機能と言えるでしょう。元々、フィードバックは大学などの研究現場で研究されていたもので、市場では馴染みがありませんでした。そこでビジネスパーソン向けにフィードバックについて分かりやすく解説した本を、昨年2月に出版したわけです。
——なるほど。具体的にはどうしていけばよいのでしょうか?
中原まずは部下を支援していくプロセスを明確にすることが必要になります。人はどういう時に業務能力を高めることができるのか、という基礎理論を事前に知っておく必要があります。ビジネスパーソンには分かりやすく端的に伝えるために、フィードバックとは「耳の痛いことを部下にしっかりと伝えて、部下の成長と職場を立て直すこと」と提唱しています。今日の企業では、リーダーが部下に対して耳の痛いことを伝えていないことが問題になっています。
具体的に説明する前に、フィードバックの定義について少し触れておきます。フィードバックとは、1つに「情報通知」があります。これは部下にたとえ耳の痛いことであっても、部下の成長に繋がるのであれば、部下の行っている行動に対して、情報や結果をしっかりと通知することが大切だということです。リーダーは部下の現状を把握して、部下と向き合って支援していかなければなりません。次に行うのが「立て直し」です。話し合いによって、部下が自分の仕事のパフォーマンスを認識し、自らの業務や行動を振り返えさせて、今後の行動計画を立てる支援をしていきます。この「情報通知」と「立て直し」の2つの要素からフィードバックは成り立っています。まず、そのことを理解してください。
——人材育成で悩んでいるリーダーが多いでしょうから、非常に参考になると思われます。「情報通知」と「立て直し」について説明していただけますか?
中原「情報通知」はどちらかと言いますと、「ティーチング(一方的な情報伝達)」に近いものになります。一方の「立て直し」は、「コーチング(振り返りの促進)」に似ています。つまり、フィードバックはティーチングとコーチングの2つの要素を含んだ部下育成法と言えるでしょう。
——十数名から数十名規模の企業でのフィードバックは、どのような方法が望ましいのでしょうか?
中原その程度の規模ですと、経営者とわずかなリーダー(中間管理職)と従業員という構成になると思われますが、まずはリーダーを育てなければなりません。経営者自らがリーダーに対してフィードバックを働きかける必要があるでしょう。フィードバックが理解され行き届きましたら、リーダー同士でロールプレイをしていくわけです。フィードバックは結局のところ、場数を踏むことでしか成長しません。リーダーから部下に対して実際に耳の痛いことを言う経験を通してしか、学べないと思っています。
また、部下を育成するには、実際のリアルな現場での業務経験を積んでいかせる「経験軸」というものが重要になってきます。そしてもう1つ、人が業務の中で成長していく大事な要素として「ピープル軸」というものがあります。これは人と人との関わりの量や人間関係の質が良いほど、人は気づきを得て成長していくというものです。その上で、職場で人が育つためには専門知識やスキル、情報などを教える「業務支援」と、客観的な意見を言って本人の振り返りを促す「内省支援」、そして、部下を励ましたり褒めたりする「精神支援」の3つを、バランス良く行っていくことが成長に繋がっていきます。「経験軸」と「ピープル軸」の2つが多い職場では、部下は成長していくはずです。
部下を育てられない企業は今後淘汰されていく
——部下の行動を観察して的確なフィードバックを行うことが重要なのですね。
中原焦点を当てるべきところは、部下の具体的な行動に対してです。その具体的な行動を観察して情報を収集しておくことが肝要です。それが部下と対面し話し合う時に重要な情報となります。部下がどのような状況で「S=シチュエーション(Situation)」、どのような振る舞い・行動が「B=ビヘイビア(Behavior)」、どんな影響をもたらしたのか「I=インパクト(Impact)」の3点を、具体的に伝えることで、部下はリーダーの考えや言いたいことを理解します。
——その伝え方は、どのように行えばよろしいでしょうか?
中原リーダーと部下が一対一の面談で行います。これを「1ON1」(ワン・オン・ワン)と呼んでいて、部下と1週間に1回ないしは隔週1回のペースで、15分程度の面談を行うのがよいでしょう。面談ではリーダーが一方的に意見を言うのではなく、部下に最近の仕事について報告してもらい、部下が話したいことをしっかりと聞き切ることが大切です。
——小さな職場では普段から面談が行われている印象がありますが…。
中原しかし、それは本来のフィードバックではありませんよね。単なるコミュニケーションに過ぎません。信頼感を確保し、部下にはリスペクトをもって接してください。そして、その上で業務行動の事実を通知し、改善策を共に考えていくようにします。問題行動については客観的に事実だけを通知していきます。対話を通して現状と目標のギャップを部下に意識してもらうのです。対話からリーダーと部下の考えをすり合わせて、部下が自分の行動に問題があることを理解させることが大切になります。そして、現状と目標がかい離していることを気づかせます。リーダーはそこで「振り返り支援」を行っていくことが大切になります。最後に、未来に向けて新たな行動計画や目標を作り出していきます。
——部下を育てるということは、非常に大変だということを改めて知りました。
中原今日の企業、経営者の最大のテーマは、いかに人材を育成していくかに尽きると思います。フィードバックの実践的なノウハウについては語りきることはできませんでしたが、部下を育てられない企業には新入社員は入社してくれません。今後そのような企業は淘汰されていくでしょう。経営者やリーダーの皆さんは、是非ともフィードバックを実践していただきたいですね。

著書『フィードバック入門』(PHPビジネス新書)
