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(184) 亀井 雅彦

マスカスタマイゼーションで収益があがる体制へ

アメリカに本部がある世界最大のデジタル印刷を推進する団体「PODi」の日本支部である一般社団法人PODiの代表理事をされているのが亀井雅彦さんである。会員に向けてデジタル印刷に関するレポートの提供、セミナー開催のコーディネートなど、デジタル印刷に関する活動を展開している。印刷会社はマーケティングを学び、クライアントのニーズに合った効果的な印刷物を提供する時代になったという亀井代表理事。これからのデジタル印刷、さらには印刷会社のあり方について話を伺った。

亀井 雅彦 KAMEI MASAHIKO

PROFILE

1958年三重県生まれ。1982年慶應義塾大学卒業、同年小西六写真工業株式会社入社。欧州、米国駐在で、大手プリンターOEM担当、デジタルコピアRIP開発に携わる。1996年コニカ株式会社でデジタル印刷事業を企画し立ち上げる。1999年コニカビジネスマシン株式会社オンデマンドイメージング事業部長。2012年株式会社印刷技術研究所を設立、株式会社ミヤコシの顧問に就任。同年印刷業界のコンサルティング業務を開始。2013年一般社団法人PODi代表理事。

デジタル印刷機の主役はインクジェットプリンターに

——一般社団法人PODiについて、またその事業内容について教えてください。

亀井PODiはPrint On Demand Initiativeの略称です。1996年にアメリカで誕生した世界最大のデジタル印刷推進団体で、現在、印刷会社が約800社、メーカーやベンダー50社以上の会員で構成されています。アメリカとヨーロッパと日本に拠点があり、日本は2013年に一般社団法人PODiの名称で設立しました。その時に私が代表理事に就いて、会員の皆さんにさまざまな情報提供やイベントの開催を行っています。

 現在は主にマーケティング活動の重要性を説いたり、デジタル印刷機による印刷ビジネスに関するセミナーを開催したり、各種レポートを会員さんに提供しています。主にWebサイト(http://podi.or.jp)からデータを提供していて、レポートをいつでも会員さんは見ることができます。また、イベントとして年に一度アメリカに行って、マーケティングの知識を習得したり、また、日本ではメーカーさんのプレゼンを聞くセミナーを開催したりしています。

——そうですか。日本のデジタル印刷機の行方についてはどう思われますか?

亀井トナー方式のデジタル印刷市場に参入するのに制限がありました。コピー機本体やトナーの開発、サービス部隊の設置といった基盤を持っていないメーカーには、トナー方式のデジタル印刷市場に参入するのは非常に困難で、一部の大手メーカーに限定されていたわけです。しかし、インクジェットプリンターが市場で伸展してきたことで、コピー機メーカーという制限が緩くなってきました。平たく言えば、筐体のオフセット印刷機の上にインクジェットヘッドを搭載するという方式で、従来のコピー機の延長線上という縛りから外れることになったのです。そう見ますと、今後はメーカーの勢力図が大きく変わっていくかもしれません。  一方、トナーのデジタル印刷市場は伸び悩んでまだまだ小さく総印刷物の2%程度です。なぜなら印刷コストは高額であり、生産力もオフセット印刷機と比べて落ちます。大判化しにくい点もネックですから、トナー方式には限界があると言わざるを得ません。トナー方式が印刷業界で抜本的に拡大していくのは難しいでしょう。印刷業界に受け入れられて主役となるのは、やはりインクジェットのデジタル印刷機ではないでしょうか。

——印刷会社が収益性を上げていくには、どうすれば良いでしょうか?

亀井細かい仕事を大量に受注して面付けしていくギャンギングです。いかにギャンギングできる仕事を取ってくるかがポイントになるでしょう。デジタル印刷機では基本的には大きな仕事をまとめて取って印刷することはないと思いますが、小さな仕事を寄せてギャンギングの印刷を展開していく方向が考えられます。今後はギャンギングが可能な大判の、あるいは輪転方式のデジタル印刷機の開発が進んでいくと思われます。また、営業ではマスカスタマイゼーションを前提とした仕事の取り方に変えていく必要があります。仕事自体は営業担当者が直接顧客と契約して受注していくことになりますが、契約した後の仕事の流れはWebからになるでしょう。Webで仕事の流れを自動化していかないと、これからは印刷で利益を上げることは難しくなっていくと思います。

——将来もオフセット印刷機が主力になると見ている印刷会社がほとんどのようですが……。

亀井デジタル印刷は一版ずつ描画して印刷するため、確かにオフセット印刷機と比べて印刷に時間が掛かりますし、コストも高くつきます。ですから、今後も印刷の主力はオフセット印刷機であるという見方をするのは理解できます。しかし、オフセット印刷機のメーカーさんは、現状のオフセット印刷機だけのビジネスモデルでは、収益を維持するのは難しいと考えていて、デジタル印刷市場への参入を表明されています。

スマートファクトリーはデジタル印刷ギャンギングへ

——オフセット印刷機の開発やメンテナンス体制が存続の危機を迎えてから、印刷会社は本格的なデジタル印刷にシフトしていくのでしょうか?

亀井でも、そのような状況になってからデジタル印刷を始めても遅いわけです。いま叫ばれているOne to Oneビジネスのように、顧客一人ひとりに異なるDMを刷って郵送するという、究極のバリアブル印刷ビジネスを展開することは非常に難しいでしょうが、オフセット印刷機で刷る印刷物とデジタル印刷機で刷る印刷物とを、それぞれ使い分けていくことが重要です。その使い分けるためのポイントはそれぞれの印刷会社さんの設備内容によって変わってきますし、その持っている設備をどのようなワークフロー体制で、どのような仕事に注力していくかが問われてくると思います。

——アメリカのデジタル印刷事情はどうなっているのでしょうか?

亀井アメリカの印刷会社はデジタル印刷機を導入すると、それでどのような印刷物が提供できるのかを自ら考えて、顧客に提案しています。日本の印刷会社は自社で企画したり、お客様に提案したりする習慣があまりありません。例えば、カタログの表紙をデジタル印刷機で刷ることによって、このような効果がありますよと、きちんと売り込むことができないわけです。つまり、自ら売り込む営業や売り込める生産体制が弱いというのが、日本の印刷会社の問題点なのです。

——なるほど。今回のIGAS2018でメーカーが提唱している「スマートファクトリー」については、どうお考えでしょうか?

亀井「スマートファクトリー」は、設備はデジタル印刷機に限ったことではなく、要はマスカスタマイゼーションが重要になると考えています。ジョブが入って来てそれを生産し出荷するまでの工程全体を、一貫して最適化できるような体制にすること。印刷ではギャンギングによる面付けで生産する仕組みを作ることが重要になります。  今までは同じものを大量に印刷して、刷り終わったものが棚に保管され、そこから配送に回っていましたが、これからはデジタル印刷機で刷ったものはMISで工程管理し、必要なものから自動的に仕分けして配送していく方法になります。それが得意なのがデジタル印刷です。マスカスタマイゼーションとは、デジタル印刷機で印刷する小ロットの仕事を大量に集めて、最適な方法でジョブを流して適時に印刷し配送していくことです。それが印刷会社のスマートファクトリーだと考えています。  そして、もう1つは自律型の工場であるということです。生産を自動化して、効率的で生産性の高い工場でなければなりません。さまざまな種類の機械を保有している場合に、それをいかに統合化し、最適化していくかが最大のポイントになります。このような自律型の工場がスマートファクトリーの姿だと考えています。

PODiでは、2018年10月にラスベガスMGMグランドホテルで開催される米国データ&マーケティング協会の定例イベント「&THEN」のツアーを企画している。ツアーの問い合わせはinfo@podi.jpまで。PODiでは、2018年10月にラスベガスMGMグランドホテルで開催される米国データ&マーケティング協会の定例イベント「&THEN」のツアーを企画している。ツアーの問い合わせはinfo@podi.jpまで。

自ら売り込む営業や売り込める生産体制が
弱いというのが、日本の印刷会社の問題点。

———— 亀井 雅彦