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(145) 榎並 利博
マイナンバー導入で企業の実務はこう変わる
2015年10月から国民にナンバーが通知され、2016年1月から順次、利用が開始されることになる「マイナンバー制度」。複数の機関に存在する個人情報を同一人の情報として確認することによって、社会保障や税制度の透明性を高めて、国民に公平・公正な社会を実現する社会基盤を目指す制度である。マイナンバーが導入されれば企業も実務で対応しなければならない。株式会社富士通総研の経済研究所で主席研究員の榎並利博さんは、長年共通番号(国民ID)等を研究し、今回のマイナンバー制度でも2冊の著書を出版している専門家である。昨年来マイナンバーの対策セミナーで東奔西走しているとのこと。マイナンバー導入で企業が準備すべきこととは何か。また、導入によって影響や課題はどうなるのか。マイナンバー制度について話を伺った。
榎並 利博 ENAMI TOSHIHIRO
- PROFILE
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1958年東京都生まれ。1981年東京大学文学部考古学科卒業、富士通(株)に入社。システムエンジニアとして自治体向けシステム開発に従事。1996年(株)富士通総研へ出向。電子政府・電子自治体、行政経営、地域活性化等の研究活動を行う。この間、新潟大学、中央大学、法政大学の各非常勤講師、早稲田大学客員研究員を兼務。著書に『住基ネットで何が変わるのか』(ぎょうせい、2003年)、『共通番号(国民ID)のすべて』(東洋経済新報社、2010年)。『マイナンバー制度と企業の実務対応』(日本法令、2014年)『実践! 企業のためのマイナンバー取扱事務』(日本法令、2015年)。他に共著、論文等多数。 著書の『実践! 企業のためのマイナンバー取扱実務』 企業が行うべき実務的な内容を網羅した必読の1冊。
主に人事・給与、経理面で対応が求められる
——「マイナンバー制度」の目的は何でしょうか?
榎並企業には法人番号を、国民にはマイナンバーを付けることで、公平な社会保障制度や税制の基盤を築いて、国民生活の利便性の向上や行政事務の効率化に役立てることが目的になっています。マイナンバーはプライバシーに関わってくるため、各種手続きでは個人情報保護に万全を期して使っていくことは言うまでもありません。マイナンバーは行政だけでなく、民間においても、税とか社会保障の手続きで使う状況が出てきますし、手続きでの使用は法令上の義務になってきます。なお、国民には個人番号カードが交付されますから、各自で管理をしっかりとしなければなりません。
——企業はどこでマイナンバーを取り扱うことになるでしょうか?
榎並実務では、人事・給与関係と経理の部分です。人事・給与では、社員のマイナンバーを取り扱うことになります。それに、社員本人だけでなく、配偶者や扶養親族、医療保険の被扶養者もマイナンバー管理の対象になります。行政機関とのやり取りで、源泉徴収、特別徴収、社会保険料支払いや各種手続きの用紙に、マイナンバーを追記しなければなりません。住民税の異動届や給与支払報告書を提出する際も必要になります。経理関係では、支払調書など法定調書作成の際に、支払を受ける者等のマイナンバーや法人番号を付加しなければならない点が、従来の手続きと異なるところです。ですから、報酬などを支払う企業やフリーランスの方から法人番号やマイナンバーを入手し、番号を管理する必要が出てきます。
会社としては総務部もしくは総務担当者が中心になって、マイナンバーに関する業務に携わることになりますから、新たに仕事が増えるという意味では多少大変になるとは思いますが…。
——新たな仕事というのは?
榎並1つはマイナンバー制度が施行されるに当たって、社員に対しての研修・教育が必要になります。社員にマイナンバー制度の内容や取扱い方について、しっかりと教育しておくことが求められます。その社員自身に管理を促す役割を担うのが総務部であり、担当者の仕事になるでしょう。それから会社としても安全管理措置を行う必要があります。番号法及び個人情報保護法等関連法令並びに「特定個人情報の適正な取扱いガイドライン(事業者編)」に、安全管理措置について明記されていますから、それを遵守しなければなりません。
——安全管理措置とは?
榎並マイナンバー法に、「個人番号利用事務実施者及び個人番号関係事務実施者は、個人番号の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人番号の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない。」と明記してあります。それを企業は遵守しなければなりません。個人情報の漏えいや他人が番号を盗んでなりすますなどの犯罪が、生じる危険性があるからです。マイナンバーを取り扱う事務の範囲や特定個人情報ファイルの範囲を明確にし、その事務を行う担当者も決めて、しっかりと安全管理を施す必要があるのです。具体的には、企業として取り組むための基本方針や取扱規程を策定し、4つの安全管理措置を実施しなければなりません。場合によっては、個人情報を適切に取り扱うためのシステムの改修や整備を行う場合も出てくるかもしれません。例えば、入退室をICカードやナンバーキーで管理するといったことです。100名以下の企業では、措置について緩和されていますが、100名以上の企業では違ってきます。入退室管理システムを整備していない企業は、場合によってはシステムを導入せざるを得なくなるかもしれません。
小規模企業はシステム変更でコストはほとんど掛からない
——安全管理措置を行うために、新たなコストが必要になるのでは?
榎並現在でも個人情報保護法で、5,000件を超えた個人情報を扱っている個人情報取扱事業者は、ある程度安全管理措置を求められていますし、既にその措置を取られていると思います。ですから、マイナンバーが導入されても、現状の管理システムを強化する程度で問題ないでしょう。ただし、個人情報取扱事業者でなかった企業でも従業員が100名を超える場合には、このマイナンバー制度でシステムの改修を図る必要が出てくるかもしれません。前述した入退室管理システムなどが挙げられます。そこがコストに関わってくるポイントと言えるでしょう。
——マイナンバーに対応したシステムの現状は…。
榎並既に多くのメーカーからマイナンバーに対応した人事・会計ソフトウェアが出ています。現状のソフトをバージョンアップするだけで可能なシステムもあります。
法定調書作成ソフトに関しても同様でしょう。手続き自体が変更されて新しくなるわけではなく、マイナンバーや法人番号が追加されるだけですから。また、マイナンバーの記入間違いが起きやすくなるという懸念もありますが、マイナンバーは数字だけの12桁で、最後の数字がチェックデジット(検査用数字)になっています。番号が間違っていれば自動的に引っかかりますから、間違ったまま使用されることはありません。
——マイナンバーでメリットを享受できるほうが大きいのでしょうか?
榎並各種事務手続きの簡素化、作業負担の軽減が挙げられますから、その点でメリットと言えるでしょう。それと今後は、医療サービスの質的向上で役立ってくると考えられます。現状ですと、病院を変えるたびに、医者に一から問診されるわけですが、マイナンバーを使って医療データを病院間できちんと連携することができれば、過去の医療データを見るだけで、新たに問診する手間が省けるわけです。現在は病院ごとに患者さんの医療データを保有している状態ですが、それがどこの病院でも見られるようになれるかもしれません。
マイナンバーは民間で活用されることが前提になっている
——情報が一元管理されるのでしょうか?
榎並いえ。情報を一元管理するわけではありません。今まで各機関で管理していた個人情報は、それぞれの機関で引き続き管理され、必要な情報を必要な時にだけやり取りする分散管理を採用することになっています。共通のデータベースが構築され、一元管理されて情報漏えいの危険性が高まるということはありません。
病院においては、当然、データにアクセスできる人は、当該医者など限られることになります。どこの病院で診てもらっても、医者が同じ医療データを見て、診察したり、診療したり、薬を処方したりできるようにする仕組みに過ぎません。
今日、被用者保険に加入している人については、退職・転職したりしますと、すぐに被保険者番号が変わってしまいます。また、国民健康保険に加入している人も、引っ越して自治体が変わりますと、番号も変わってしまいます。マイナンバーで加入している医療保険が確認できれば、番号を変える必要もないわけです。
マイナンバーが自分のものであることを証明するために個人番号カードが交付されます。これまでは国民に独自の番号をつけて、別々の機関でバラバラに管理していたわけですが、それがマイナンバーによって統一され、行政やその他の機関が保有する個人の情報が相互に連携されるようになるわけです。
——なるほど。マイナンバーは、企業間ビジネスで活用できるようになるのでしょうか?
榎並基本理念として、マイナンバーは民間でも活用していくことを前提として推進していくと、法律に明記してあります。それにマイ・ポータル(情報提供等記録開示システム)も、民間で活用することを法律の附則で記しています。公的個人認証という仕組みも民間に開放していますから、それを企業がいろいろなビジネスに利用できるようになると思いますね。
——マイナンバー制度はネガティブに捉えられる傾向があるようですが…。
榎並国民からすると、税金を取り立てるための仕組みであるとか、国が国民を監視するためであるとか、という疑念を抱かれると思うのですが、将来的には行政手続きや確定申告が楽になるとか、年金の給付調整がより確実に行えるようになるとか、メリットが多いわけです。例えば、医療費控除の還付金を計算するのも領収書を集めなければならず、非常に大変です。そういった申請や手続きが、マイナンバーによる記入済み申告所制度で簡略化できるようになる点を考えてほしいです。
安全面に関して言えば、マイナンバー制度では、社会保障や税でそれぞれ個人情報が分散管理されますし、アクセス制御、通信の暗号化といったシステム面での万全な措置もとられます。それに、先ほども言いましたマイ・ポータルによって、自分の個人情報がどのようにやりとりされているかを確認できるようになります。ですから、個人情報の漏えい問題やなりすまし犯罪が却って減少する可能性もあるわけです。
企業においては、マイナンバー導入に際して、システム改修の有無の検討、業務プロセス変更の検討、社員に対するマイナンバー法や特定個人情報の取扱いに関する研修・教育を始めることをお勧めします。
- 株式会社富士通総研
- http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/
