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GCJパーソンズ

(210) ごとう けい

実物を正確に再現し、作る楽しさ伝える紙工作作家

紙を素材にしてあらゆる立体物を作成するペーパークラフト。デジタル時代の今日でも、手づくりによる風合いで根強い人気があり、さまざまな用途やニーズがある。今回登場していただいたのは、20年以上にわたって紙工作作家として活躍しているごとうけいさん。生き物全般をテリトリーに、さまざまなクライアントの要望に応じたペーパークラフトの仕事を請け負っている。特に動物の制作ではその道の第一人者として知られている人物だ。動物のリアルな形をシンプルながらも的確に捉え、その上親しみやすい作風で確固たる地位を築いている。ごとうさんにペーパークラフトの作り方やデジタル時代における仕事への想いなどを伺った。

ごとう けい GOTO KEI

PROFILE

1971年宮城県生まれ。94年多摩美術大学美術学部デザイン科卒業。97年屋号「KeiCraft」でペーパークラフト制作を開始。99年フリーランスの紙工作作家として独立。動物、昆虫を専門に企業からのさまざまな依頼を受けて制作。ミュージアムグッズ、販売促進グッズなどの制作のかたわら、作品をショールーム、イベント、ギャラリーで発表。ペーパークラフトのデザイン制作・企画展示・ワークショップなどを展開。2008年第59回全国カレンダー展・文部科学大臣賞受賞。15年「紙宝シリーズ 埴輪」がグッドデザイン賞受賞。

作る工程全てに関われる紙工作に魅せられる

Q ペーパークラフトとの出会いについて教えてください。

多摩美術大学を卒業し、プロダクトデザインの制作会社を経て、くもん出版のドリルを制作する事務所でアルバイトをしていた時にペーパークラフト作りに携わったのが出会いになります。作る工程全てに自分が関わることができ、最終作品を確認できるペーパークラフトが性に合っているということを感じました。その作る楽しさに魅せられて、そこからペーパークラフトが仕事として成り立てばいいなと思うようになったのです。しかし、当時はペーパークラフトがまだ職業として認知されていなかったので、職業として果たしてどうなのかという思いはありました。

動物のペーパークラフトにはまったのは、子どもの頃に折り紙が好きでよく折り鶴などを折っていましたし、動物も好きでしたから、その両方が一緒になった紙工作に喜びを感じたからでしょうか。最初の作品と言えば、あまがえるになりますかね。ちなみに、私の名刺の裏にはあまがえるの展開図を載せています。

Q 天職を見つけられたとも言えますね。独立するきっかけとなったのは何でしょうか?

Windows95が発売された当時、個人でもパソコンが持てて、デザインなどの仕事ができるようになり始めたからです。ご存じのように印刷もデスクトップ・パブリッシングが可能になり、個人でも印刷ができるようになりました。コンビニのコピー機を使わなくても、パソコン上で反転や拡大縮小ができ、ペーパークラフトの図面(展開図)を作ることができるようになったのです。以前は、手描きの図面で版下を制作し、CMYKで色指定をするアナログ作業だったのですが、コンピュータの技術が発展したことで正確で均一な太さの線を使い、色やグラデーションも自在に表現できます。これなら自分が作りたいペーパークラフトが個人で作れて仕事にしていけるかなと考えるようになったのです。それで「Power Macintosh 9500」を 購入し、「Illustrator」を搭載させてペーパークラフトの図面を描いて制作するようになりました。この制作方法は今でも変わっていません。

Q なるほど。パソコンによって効率的でより簡便にペーパークラフトの図面が作れるようになったのですね。

ええ。そのうち友人が多摩美術大学の職員を辞めることになり、代わりを誘われたので職員になったのですが、給料が出る上に春休みや夏休みなど長期休暇があり、好きなペーパークラフトの制作に打ち込めるという考えから引き受けたのが本音です(笑)。「KeiCraft」の屋号で作家活動を始め、動物園に出かけて実際の動物の動きを観察したり資料や図鑑を集めたりして、いろいろな動物や昆虫を作って、ある程度作品がたまると展示会を開いてたくさんの方たちに見ていただくようにしたのです。

出っ張りを作って動物の自然な体形を表現する

Q 制作に対するこだわりや作風について、ご自身ではどう思われていますか?

見てくれた方々には作品に丸みがあるねと言われることが多いのですが、よく見ていただくと、角張ったところがかなりあります。紙で立体を作っていく作業は、技術的には鉛筆デッサンに近いものがあって、紙の中に形の変わり目の点を置いていくのですが、その点が出っ張りとなって立体的に見せる作り方になっています。点の位置が自然であればあるほど出っ張りが不自然に見えず、動物の丸みのある体を表現できるようになるのです。ですから制作で大事なことは、この「点」を探すことになるかと思います。動物であれば、姿を的確に捉えて体のどこを盛り上がらせれば本物の動物の骨格に沿った形状になるのかを常に考えて作っています。

Q 色を付けて完成させる方法はどうされていらっしゃるでしょうか?

形が出来上がりますと、紙の白い面に鉛筆を使って直接手描きで目鼻や模様を描き入れます。描き終えましたら、紙を開いてスキャニングして新たにトレース・パソコン上で色をのせていきます。納得ができるまで何度も作っては開く作業を、地味に繰り返していきます(笑)。

Q さまざまなお仕事をされてきたかと思いますが、最近のお仕事を紹介していただけますか?

そうですね。昨年、ホンダさんが新車の『フリード・クロスター』を体感できるイベントを、車好きの18組の親子を招いて開催された時に、ペーパークラフトで『クラフト・クロスター』を作らせていただき、会場でワークショップを開催しました。その際に来られた方々により楽しんでもらおうと、実車に乗って写真撮影し、出来上がった写真を『クラフト・クロスター』に貼り付けるということをしましたら、皆さんに喜んでいただきました。このように、メーカーさんと共に企画から考える仕事もしています。

また今夏、カブトムシ・クワガタムシのペーパークラフトが10種作れる『ペーパークラフトブック カブトムシクワガタムシ』 が、ブティック社より出版されました。抜き型入りで作りやすくなっています。

Q 制作でモットーにされていることは何でしょうか?

立体物というのは正面だけでなく裏側が分からないと作れませんから、なるべくいろいろな角度からの資料や情報を集めて正確な立体物を作るようにしています。紙で作りますから制約はあるのですが、その中でできる限りを再現するように心がけています。しかし、工作になりますから、あくまでも「作っていて楽しい」ことに主軸を置いていますね。その上で「作りごたえがあって、しかもリアルで、そのまま飾って置いておけるもの」を目指しています。以前、プロダクトデザインをしていた時に模型を作っていたのですが、樹脂や塗料、接着剤を使う作業をしていますと、けっこうにおいが出たり、削れば相当の粉が出たりするわけです。でも紙で作る場合は、多少紙屑が出ることはあっても、においや音、削りカスを出さずに色付けもされた精巧な作品が出来上がるのが特長です。環境に優しいのがペーパークラフトの良いところですね。

子どもたちの関心を引くために動画で作り方を見せる

Q コロナ禍でワークショップや展示会を開くことが難しいのは残念ですよね。

そうなんです。それで実際に作っているところを観てもらって興味を示してくれたらいいなと、工作している動画を制作しました。今の子どもたちは何でも動画から入っていきますから、動画で作り方を示せば分かりやすいということで、作り方の動画コンテンツをホームページ上に掲載しています。

Q ところで作品を販売されていらっしゃいますね。

ホームページ上にオンラインショップを設けて、さまざまな動物の展開図を販売しています。あまがえる、スマトラトラ、ガラパゴスゾウガメ、マレーバク、ハシビロコウなどがあります。もちろん販売していない動物などで作ってほしいものがあれば、是非リクエストをお寄せください。また、企業からの依頼で販促物としてペーパークラフトの制作も承っています。

Q 子どもたちのペーパークラフトに対する気持ちは、昔と今とでは変わってきているのでしょうか?

工作が好きな子どもは昔も今もいますから、接する限りでは基本的には変わっていないと思います。ただし、今は昔に比べて何でも手軽に手に入る時代ですから、紙工作についてももっと簡単に作れるものを求められますね。完成したものを見たり触ったりするのは楽しいのだけど、実際に自分の手で作るとなると、簡単に作れるものが欲しいということです。どちらかというと、お子さんよりも一緒に作って面倒を見る親御さんの方にゆとりや時間がないのかもしれません。私としては工作することで出来上がっていく工程を楽しんでもらいたいのです。そして、作ってみて実物はこうなるのだという驚きと喜びを感じてほしいですね。

Q デジタル社会となり、子どもたちが紙と接する機会がなくなりつつあるようで、寂しいですが ···。

そうですね。いかにペーパークラフトを知ってもらい、接してもらうようにするかを、紙工作作家が自ら注力していく必要があるでしょうね。今の子どもたちは図鑑などを見ないで、まず YouTubeなど動画を見て調べたりすることが多く、動画コンテンツでいかに見せていくことがいかに重要であるかを、子どもたちから教わることが多々あります。

ペーパークラフトも動画を見て興味を持ってもらってから実際に作ってもらうというように、導入部分の切り口を変えてペーパークラフトに関心を持ってもらうことが必要だと考えています。今後はその傾向がますます強くなっていくでしょう。デジタル社会になったとしても、ペーパークラフトは紙の持つ手触り感や温もりがあり、それは他の素材にはない特質としてこれからもなくなることはないはずです。紙というアナログの良さを紙工作でこれからもずっと伝えていければと思っています。

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ごとうさんの作品。昆虫から動物、恐竜まで実に多彩で、これまでに300種ほどを作成

ペーパークラフトは紙の特質である
手触り感や温もりがある

————ごとう けい