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(204) 堤 香苗

女性のキャリアを支援し多様な働き方で社会に貢献する

「女性のキャリアと社会をつなぐ」を経営理念に、 自分らしく生きる楽しさを多様な働き方でかなえているのが、株式会社キャリア・マム代表取締役の堤 香苗さんである。女性が活躍できる社会を推進するために、10万人の女性のネットワークを構築し、テレワークを中心に企業のさまざまな 課題を解決するためにアウトソーシング事業でサポートしている。堤社長は、25年前から育児中であっても働きたい女性に向けて働ける場と仕組みを作ってきた、女性のキャリア支援の先駆者である。その再就労支援の業績が認められ、数々の受賞歴がある。印刷業界ではいかに女性に活躍してもらうかが一大テーマであるが、そのために企業は何をすればよいのか、話を伺った。

堤 香苗 TSUTSUMI KANAE

PROFILE

1964年兵庫県生まれ。87年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。大学在学中よりフリーアナウンサーとしてテレビ・ラジオのDJ、パー ソナリティとして活躍。95年育児サークル「PAO」(キャリア・マムの前身)を設立。2000年株式会社キャリア・マム代表取締役に就任。 13年がんばる中小企業・小規模事業者300社受賞。14年女性のチャレンジ支援賞(内閣府) 受賞。16年東京都女性活躍推進大賞個人部門 受賞。新・ダイバーシティ経営企業100選選定。テレワーク先駆者百選受賞。その他受賞歴多数、官公庁の委員実績は枚挙に暇がない。ダイバーシティ、女性のキャリア支援、テレワーク推進等のテーマで講演、執筆の活動を幅広く行っている。

在宅女性が業務に就い顧客企業をサポート

Q 御社の事業内容について教えてください。

弊社は1995年に、小さな子どもがいても働きたいお母さんのためにお役に立ちたいと思い、在宅でのチーム型請負事業を始めました。そして、2000年に株式会社化し、いまでは多くの企業や団体のビジネスを代行するサービスを展開しています。現在は大きく4つの事業を展開しています。まず、アウトソーシング事業では店舗調査、店舗取材、グループインタビュー、座談会のほか、印刷業界に関係してくるお仕事では、データ入力、Webデータの移行作業、各種媒体の取材・ライティング、校正、検収などを行っています。また、クリエイティブ・コンテンツ事業では、クライアント企業とともにWebサイトや各種メディアのコンテンツ作りをしています。さらに、キャリア支援事業では働きたい女性の起業支援や、一度 離職した女性が再就職したい場合に、官公庁の方々と連携して就業支援を行っています。そして、コミュニティ形成事業として、コワーキング施設運営、保育施設運営、起業・創業支援も手掛けています。具体的には本社併設 の「おしごとカフェキャリア・マム」や「コワーキングCoCoプレイス」があります。

Q 事業が多岐にわたっていらっしゃいますが、そのほとんどの仕事を在宅の女性が行っているのですね。

ええ。約10万人のキャリア・マム会員がいて、会員の中には有資格者、専門的な業務が行える人など、多彩な人材がいてさまざまな在宅業務に就いています。クライアントからお仕事の案件があれば会員に発注するのですが、仕事によっては複数の応募者から最適な人を社内で選び、チーム編成を組みます。そして、リーダーやマネージャーが仕事を管理し、メンバーの作業するボリュームに応じて業務を決めて、チー ムで仕事に取り組んでいきます。業務内容によっては、マーケティングからプロモーションまで総合的にサポートさせていただき、クライアントのニーズに合った商品と消費者の欲しい商品を合致させた、「売れる商品・サービス作り」を提案し実現していきます。仕事の品質、納期等は弊社が保証しています。

Q 経営理念で「女性のキャリアと社会をつなぐ」を掲げていらっしゃいますから、キャリア支援に重点をおかれているのでしょうか?

そうですね。弊社では女性の多様な働き方の支援に注力しています。自分らしく働き、一人ひとりが働き甲斐と成長を実感できるように、コミュニケーションと思いやりに溢れる会社を創ることを目指しています。具体的には経験豊富なスタッフが女性のキャリア支援に関する企画・立案・運営に携わっています。また、再就職支援、起業・ 創業支援、企業内女性活躍推進支援、 男女共同参画、講師派遣など幅広いサポートを行っています。人それぞれいろいろな価値観があり、ライフスタイルもさまざまですから、そのどれもが尊重されるような働き方を弊社自ら実践し、クライアントの仕事に応えていくようにしています。

働く場所の制限をなくしていくことが子育て支援に繋がる

Q 「働き方改革」によって企業は変革を余儀なくされていますが、中小企業の女性雇用についてはどう思われますか?

女性活躍推進法に基づいて、301人以上の企業では自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析、その課題を解決するのに相応しい数値目標と取り組みを盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表、さらには自社の女性の活躍に関する情報の公表を行う必要があります。これらについて300人以下の中小企業は、今のところ努力義務となっています。 しかし、従来のままの働き方を中小企業が続けていますと、良い人材がますます入ってこなくなるでしょうし、今いる人材も流出してしまう恐れがあります。ですから、中小企業でも人材をいかに確保していくかを重点的に考え、女性を雇用する場合には、どのような働き方が求められているのかを捉えて、女性が働きやすく、女性に選んでもらえる職場を作っていくこ とが大切ではないでしょうか。

Q なるほど。印刷会社では、女性は事務やDTPの仕事に就かせるというのが一般的ですが、それについてはどう思われますか?

確かに女性よりも男性のほうが体力的な優位性はあるかと思います。 オフセット印刷機や後加工機で体力のいる仕事は、女性は不得手かもしれません。でも、プログラミングによって機械を自動的に動かすIT化が進んでいますから、新しい技術を取り入れ ていけば、男性も女性も分け隔てなく仕事ができるようになると思っています。 それと、経営者は女性だからと言って気を遣いすぎるのはよくないと思いま すね。

Q 女性が働きやすい会社にするためには子育て支援が重要かと思いますが、中小企業の子育て支援はどうあるべきでしょうか?

実は子育て支援とテレワークは大いに関連性があって、会社はテレワークをうまく活用して、働く場所の制限をできるだけなくしていくことが子育て支援に繋がりますし、それによって女性の良い人材を退職という形で失わずに済むと思っています。社内で子ど もたちの世話をする場所を確保するのは、物理的にもコスト的にも難しいでしょうから、それよりも働く場所を柔軟にしていくほうが支援策になるのではないでしょうか。それと、旦那さんが転勤することになって奥さんがついていくとなった場合に、正規の雇用ではなくて積極的に外注という業務委託にして、これまで通りの仕事をしてもらうようにする方法も考えられると思います。規模が小さい会社であればあるほど、就業規則は簡単に変えられますし、柔軟に対応できると思うのです。個々の社員の状況に合わせたフレキシブルな経営を考えてみてはいかがでしょうか。 今は男性、女性にかかわらず、従業員のためにどのような働き方を会社が支援しているのかが重要であり、従業員はその支援策を見ています。会社を選ぶ時も、働きやすい環境であるのか、従業員のキャリア支援をしているのかという点を見て、会社を選ぶ傾向がますます強くなっていくのではないでしょうか。そのことを中小企業の経営者は認識して、従業員に働きやすい環境を整備していくことが望 まれます。

テレワークで従業員一人ひとりを大事にしている企業に変える

Q なるほど。中小企業だからこそフレキシブルに働き方を変えられるわけですか。積極的に変革するチャンスでもあるということですね。

ええ、女性活躍推進法は任意の努力義務ではあっても、中小企業が積極的に働き方改革に取り組んでいますと、大企業よりも目立ちますからね。 人を大事にしている企業だというアピー ルになります。働き方改革というのは、 従業員の休みを増やしたり、残業を削減したりすることではなくて、経営者から従業員に向けて「従業員一人ひ とりを大事にしている」というメッセー ジだと思っています。ですから、働き方改革を前向きな形で捉えて、これを機会に従業員が働きやすい環境を整 えるようにしてもらいたいですね。働きやすい環境となれば、従業員はメッセージを受け止めて長く勤めていく気 持ちになるでしょうし、この会社の中でキャリアを積んでいこう、という考えになっていくと思います。

Q 中小企業ではスキルアップの人材教育に時間を割けないという問題もありますが···。

例えば、弊社では従業員が有料のセミナーに参加したいと思った場合、共済会の援助や公的な助成金を活用しています。またセミナーの受講は日時が決められていますから、仕事の関係で出席しづらい面があるでしょう。でも、eラーニングでしたら、パソコンや スマートフォンを利用して自宅で学ぶことができます。今やeラーニングはさまざまなカリキュラムがありますから、大いに利用したいものです。eラーニングにしても実際の業務にしても、テレワークになれば比較的簡単に解決できるはずです。まずは試験的に取り組んでみてはどうでしょうか。

Q 確かにテレワークは、印刷業界における働き方の一大テーマになると思います。

印刷会社では印刷データの制作は DTPで行う場合がほとんどだと思われますが、その際に自宅にパソコンとインターネット環境があればテレワークにすることができますよね。情報セキュリティを気にされるかもしれませんが、ルールを作ってしっかりと守っ ていけば可能なはずです。それと仕事の成果については、ある一定の時間の中で仕事をこなすことができたなら、次回は少し分量を増やしたり、少し高度な仕事を任せたりしてレベルアップを図っていくことができます。あるいは一定の時間よりも9割の時間で終えたなら、あとはeラーニングなど自分のスキルアップのための時間に使ってもらうとか•••。テレワークでは1ヵ月を通してというよりも、一つの仕事を一定期間で仕上げる成果管理をしていく方法が適しているのかなと思います。それとテレワークは、働く従業員にとって自由度がありますから、特に子育てや介護をされている女性にとっては、自己管理の下で時間を有意義に使っていけるのがメリットです。

Q 印刷業界は紙媒体以外のデジタルコンテンツ制作には、人材不足で対応できない会社が多いですから、専門のノウハウを持った人材に、テレワークで仕事をしてもらうことも一考の価値がありますね。

はい。キャリア・マム会員にはWebサイト制作、コンテンツ制作に長けたデザイナーやオペレーターが豊富にいますから、活用していただければと思 います。また新規事業のプロジェクトを始められる場合でも、お役に立てる人材が揃っていますから、いつでもご相談してください。

女性が働きやすく、
女性に選んでもらえる職場を
作っていくことが大切。

————堤 香苗