月刊GCJ
GCJパーソンズ
(175) 梶原 鉄也
コミュニケーション・デザインの力で市場の活性化を
広告業界では、印刷業界と同じように紙媒体だけでなくデジタルコンテンツへの対応も不可欠になっている。そこで日本を代表する広告制作会社が結集している公益社団法人日本広告制作協会(OAC)理事長の梶原鉄也さん(㈱東京グラフィックデザイナーズ代表取締役社長)に登場していただき、広告制作の現状や課題について話を伺った。GC東京はOACの賛助会員であり、またGCJの多数の組合員が正会員や賛助会員に所属していることから、同協会とは密接な関係にあると言えるだろう。「消費者の心を動かし、市場を活性化させていくために、コミュニケーション・デザインの力が重要だ」という梶原理事長。広告の現状、協会運営の仕方、今後の展望などについて語ってもらった。
梶原 鉄也 KAJIWARA TETSUYA
- PROFILE
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1960年生まれ。神奈川県出身。1982年日本大学文理学部卒業後、東京写真専門学校(現、東京ビジュアルアーツ)に入学。16mmフイルムの映像技術を学び、1984年映像制作会社に就職。1989年株式会社東京グラフィックデザイナーズに入社。映像プロデューサーとしてホンダの広告映像制作に携わる。2012年代表取締役社長に就任。現在に至る。
デジタルマーケティングを活用した広告制作にしていくことが大切
——近年、「広告は効かなくなった」という話を見聞きするようになりましたが、どう思われますか?
梶原「効かなくなった」というよりは、広告の機能が変わってきたという印象を持っています。紙媒体が減少している中で、デジタルメディアの需要は伸びており、メディアに変化が見られます。これは広告の機能がもう一歩突っ込んだ形で消費者とコミュニケーションする方向に変わってきているのだと思うのです。企業は広告を一方的に配信するのではなく、広告を通じて消費者とインタラクティブな関係で繋がるという仕組みに変化してきているのを実感しています。広告は今でもマスメディアが中心ですが、マスメディアではなかなかなしえなかった、消費者とインタラクティブなコミュニケーションで関係を構築して販売促進に結び付けていくというスタイルが進められています。それが行えるのがインターネットを使ったデジタルメディアになります。デジタルマーケティングを展開することで、受け手側の消費者の情報が次々と広告を発信する企業に吸い上がってくるようになり、その消費者のデータから的確な広告を打ち出すことが可能となりました。それがさらに消費者と関係を深めていく仕組みを形成しているのだと思います。
——吸い上げられた情報を駆使して、広告を制作するというわけですね。広告制作会社もクライアントと同じ考えで臨まれているのでしょうか?
梶原臨んでいかなければならないと思っています。これまではクライアントや広告代理店など、仕切っている立場の人の意見を中心に制作が進められてきました。しかし、果たして言われるがまま、そのメディアで発信することが良いことか、という疑問を持ちます。TV、新聞、雑誌、Webなどさまざまなメディアが存在する中で、単体だけの広告を考えていくのではなく、メディア全体を俯瞰して最も適した手法とは何なのかを見直す必要があると感じています。デジタルマーケティングによって効果的な広告を企画し、市場の効果測定がしやすくなった側面があるわけですから、それらを活用した広告制作をしていかなければならないと考えています。ただ単にクライアントの思惑や一方的な考えを消費者に伝えても、その気持ちは消費者には届かない時代になりました。個々のメディアの機能が見えてきたことで、それらの機能からメディア同士を組み合わせて、最適な広告という情報を消費者に伝えていくことが求められているのだと思います。
若い人に関心を持ってもらえる業界にして人材を確保することが課題
——では、制作会社では生き残っていくために何が必要だと思われますか?
梶原発信するクライアントの経営に近づくと言いましょうか、クライアント企業が何を目指して情報を発信しているのか、想いや目的に寄り添う形で臨むことかと思います。例えば、ミーティングの時にクライアントからは表面的な方法論しか出てこない場合があって、もどかしさがあるわけですが、それを私たちが忖度と言いましょうか、真意を汲み取って、企画を具現化していくこと。それと同時に、企画の中身をいかに面白いものにして、消費者の関心を集めるものにしていくことが問われています。そんな企画力を持って、クライアントに提案していくことがますます重要になるでしょう。またそうでなければならないと考えています。結果としてクライアントからの信頼も厚くなるはずです。そのようなビジネスを展開していくことが、広告制作会社が生き残っていく大きな条件と言えるでしょう。
それと、消費者とコミュニケーションを図りながら広告を発信していくことが、まだ一般的になっておらず、標準化されていない状況です。広告の世界ではそれぞれ得意分野があり、メディアごとに担当が決まっていることが多いものですから、全体を見渡すことができる人材が少ないのが現状です。まだまだ発展途上と言えるでしょうね。
——やはり重要になるのは人材なのですね。広告制作業界では新しい人材が安定的に入ってきているのでしょうか?
梶原なかなか苦しくて人材難の状況にあります。美大で就職説明会を開いて話をしても、関心を持ってくれる学生が少ないですね。しかも、興味を持ってくれる学生のほとんどは女性で、男性はわずかというのが現状です。男子学生は安定志向と言いましょうか、中小企業がほとんどの広告制作会社へ就職するのに抵抗があるようです。親御さんたちからすれば、少しでも安定した大企業に就職してもらいたいという気持ちがありますから、その考えが子供たちに浸透しているのでしょう。広告制作会社にはなかなか関心を持ってくれません。女性が活躍されるのはこれからの時代望ましいことですが、やはり男性にも入社してもらって、次の時代を担ってもらわないといけませんからね。若い人たちが入ってこなくなった最大の原因は、クライアントや広告代理店などの上流から制作会社の下流に仕事が流れてくる結果、現場がどうしても時間に追われてしまうことです。とくに繁忙期や仕事が重なった場合などは、残業が増えてしまいます。それを改善しなければならないのですが、なかなか難しいわけです。
異業種と交流することで新しい発想や経営のヒントに結び付く
——ところで、貴協会では賛助会員さんが正会員さんに匹敵するくらい多く入会されていますが、その要因について教えてください。
梶原それだけ多くの企業さんがデザインに関心を持っておられて、デザインに関する情報を収集されたいという考えからOACに入会されるのだと思います。OACでは毎年、新入会員のためにビジネス交流会を開催していますが、新入会員の企業さんの自社PR、会員同士の情報交流を通じて、ビジネスマッチングの場になっています。これはかなり有意義で好評を博しています。OACの活動では、さまざまなテーマでセミナーや勉強会を外部の方でも参加できるようにオープンな形で開催しています。また、中核的な事業として「クリエイティブボランティア(クリボラ)」では、東日本大震災で被災された岩手県大槌町にOACのクリエイターたちがコラボして作ったカレンダーを毎年配布させていただいています。こういった地域と繋がる社会貢献にも力を入れています。その他では、経営の問題を解決するための方策を学ぶことや、会社の垣根を越えた若い人たちの集まりを設けて、クリエイティブの新しい可能性やコミュニケーションのあり方などを模索しています。また、協賛企業を募って「学生広告クリエイティブアワード」や、社会の課題に目を向けた「学生アイデアで社会をよりよくするコンテスト」を開催し、学生が広告に取り組む機会を設けています。こういった活動を地道に続けています。
——やはり組織拡充のための施策を展開されていらっしゃるのですね。
梶原はい。実は正会員や賛助会員であるGC東京さんの会員の方からは、新しいオンデマンド印刷機のことや、紙やインキなど、いろいろと教えてもらって、付加価値の高い印刷と新しい表現方法を提案していただいています。ですから、広告を制作する私たちとしては表現の幅が広がりますから、非常に助かっていますし、ありがたいと感じています。
制作会社はとかく自分たちが関わっている業種については詳しいのですが、他の業種のことは分かっていません。そこで異業種と交流し情報を吸収、共有していくことで、ビジネスの新しいヒントが見いだせたり、新しい発想が生まれたりすることがあります。その点からも異業種の方に入会していただくことは、私たちにとって意義あることなのです。
——そうですか。紙媒体の制作、さらには広告制作の将来はどうなっていくと思われますか?
梶原例えばカタログ制作では二極化していくと考えています。1つは安い紙でそれほど品質を必要とせずに大量に印刷する分野と、高級紙を使って練られたデザインで小ロット制作の分野に分かれていくのではないでしょうか。高級志向ではカタログ自体に付加価値を持たせる方向に行くでしょう。カタログに掲載される商品が高価で価値があるものであるほど、カタログも高級で立派なものになっていくと思います。そこでは商品を購入されるお客様の満足度に応えられるカタログを作っていくことがポイントになります。その時に高級な紙や綺麗に仕上げる後加工の技術が求められますから、そんな仕事ができる制作会社を目指していくことが、広告制作会社の経営では重要になっていくと考えています。それと、私たちOACの会員は、もはや広告制作会社の枠組みで捉えることはできなくなってきました。Webや動画のデジタルコンテンツも取り込んだ仕事にシフトしています。そして、クリエイティブな制作を信条に、コミュニケーション・デザインの力でクライアントや社会に貢献できる仕事をしていかなければならないと考えています。
