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(157) 利根川 英二

媒体を通じて地域を支援するプラットホームになる

中小印刷会社はいかに地域の活性化に貢献していくかが、一大テーマになっている。株式会社TONEGAWA(本社 : 東京都文京区湯島2-4-4)の利根川英二社長は、一般社団法人マーチング委員会を発足させ、全国の会員と共に地域に根ざした情報発信を通じて、「まちづくり」を実践しているパーソンである。「『わたしたちは自らの成長と創造によってコミュニティーを生成し社会に尽くす』を経営理念に、人と地域と企業を結ぶイノベーションカンパニーを目指しています」という利根川社長。地域を活性化する種を見つけて育むためのプラットホームを創り出している。地域ブランディングが全国各地で活発化しているが、それ以前から活動してきた利根川社長。マーチング委員会発足の経緯、情報発信しているメディア、経営方針等について話を伺った。

利根川 英二 TONEGAWA EIJI

PROFILE

1959年東京生まれ。1982年玉川大学工学部卒業。2008年5月に湯島本郷マーチング委員会を創設。2010年利根川印刷株式会社取締役社長に就任。2011年4月社名を株式会社TONEGAWAに変更。2012年2月20日一般社団法人マーチング委員会を登記許可。同年2月23日同委員会の全国大会を開催。理事長に就任。現在、マーチングアカデミー塾長として活動。

イラストの湯島本郷百景が契機となってマーチング委員会が誕生

——マーチング委員会を発足される契機となったのは……。

利根川2007年頃にコニカミノルタのオンデマンド印刷機を導入し、いかに活用していくかを研究した結果、培ったハイエンドな製版技術を活用し、オフセット印刷機をオンデマンド印刷機に移行しても、お客様の要求する品質に応えていくことが可能になったのです。それでオンデマンド印刷で何か面白いことはできないかと考えたところ、東京大学の12門の写真を撮って、それを「ダイレクトスマイル」のソフトを使ってバリアブルカレンダーを作ろうと考えたのですが、写真ではあまり面白くないことが分かって、イラストにすることにしたのです。それで湯島小学校からの同級生で、イラストレーターをしている上野啓太という友人に、私が文京区内で撮った写真をイラストにしてもらいました。そして、湯島本郷の各所の風景を100余点描き下ろして、イラストを額装にして、翌2008年5月21日に湯島天満宮境内北回廊で「湯島本郷百景展」を開いた際に、「湯島本郷マーチング委員会」を発足させたのが、マーチング委員会が誕生した経緯です。名称は、街が行進して楽しくなるイメージから「まち+ing」から来ています。

——そうですか。イラスト展は好評だったのでしょうか?

利根川はい。地元の方々が来られて、見慣れた風景の絵をご覧になり、皆さんそれぞれに懐かしさや感銘を受けられました。その皆さんの様子を見て、イラスト百景への共感を広めていこうと、絵はがき、カレンダー、名刺など、次々と百景を使ったアイテムを展開していったわけです。百景という市民の共感をコンセプトに、アイデア溢れるまちおこし事業として、積極的に進めていきました。

——マーチング委員会を全国展開され拡大していったのは……。

利根川生まれ育った地元の皆さんから「笑顔」や「ありがとう」をいただいたので、その気持ちを全国の印刷会社にも発展させたいという思いが芽生えてきました。その後押しとなったのが、コニカミノルタさんの全国の支店が主催するオンデマンド印刷に関するセミナーでした。コニカミノルタさんから、オンデマンド印刷機の使い方について、ユーザーさんに話してほしいという声をいただき、全国各所で開催するセミナーに赴き、当社が行っているノウハウを話させていただいたわけです。その最後の10分程の時間で、当社が行っている湯島本郷マーチング委員会の「百景」のまちおこしについてお話したのです。3年間ほどマーチング委員会についての話を全国で行い、ほぼ一巡した頃に、最初から利益を考えない当社の活動に、印刷会社の方が共感されて、それぞれの地域でマーチング委員会が産声を上げるようになりました。

2012年2月に法務省東京法務局に「一般社団法人マーチング委員会」が登記許可され、同年2月23日に、私が理事長に就任し、全国28団体で全国大会を開催しました。現在は、山梨の井上雅博社長が理事長をされて、私はマーチングアカデミー塾長としてサポートしています。会員数は現在57団体ですが(2016年3月現在)、近々団体が増える予定です。延べ社数は80社なのですが、都内のように1団体に複数の会員がいるケースもありますので、そのような状況になっています。着実に全国に賛同の輪が広がっているところです。

「先義後利」の理念で地域活性化支援のための情報発信を

——急速に団体数が増えて拡大していかれた印象がありますが……。

利根川印刷業というのは、地場産業ですし、地域の産業発展に貢献していくことが大切です。地域・まちで「コト」を起こしていく活動が、これからは重要だと考えていますので、その活動理念に多くの企業さんが大切だと感じられて、会員数が増えていったのだと思います。

 私の想いには、江戸中期に「石田心学」を創始した石田梅岩の「先義後利」の理念があって、「義を先にして、利は後にする」ことをモットーに取り組んできました。まち・地域を愛することが、地域の皆さんの共感を得て発展していくわけです。これまで印刷会社は「仕事をください」の一心で、業界団体を組織してきたところがあります。確かに、地域のため、人と企業を繋ぐためと言って活動してきましたが、実際はあまり成果が出せないでいました。それは最初から利を求めていたからです。利ばかりを強調しますと、物事は上手くいきません。マーチング委員会は最初にボランティアの精神で活動し、やがて企業の利益に結びついていけば良いという考えで取り組んでいます。その点が他の団体と一線を画しているところではないでしょうか。

——まずは、地域の中で何ができるのかを考え、アイデアを出すことが大切なのですね。

利根川はい。マーチング委員会では、全国の委員会の方たちと情報を共有し、マーチング委員会としての事業も行っています。イラスト百景による「まち自慢」を起点にして、アイテムを開発し、地域の発展の種を見つけて、それを育てるというものです。「どうすればまちの魅力をもっとアピールできるのか?」「商店街を甦らせるにはどうすれば良いのか?」「農業や漁業と連携するにはどうすれば良いのか?」といった問題を、委員会の皆で知恵を出し合って、ノウハウを分かち合っています。そこから、地域振興のための広報支援、農産物販売支援などのコミュニケーションメディアを制作し、情報発信していくというスタイルになります。つまり、マーチング委員会は地域活性化を起こすプラットホームであり、委員会の皆で「モノづくり」「コトづくり」を行っているわけです。

——具体的には、どのような情報発信をされているのでしょうか?

利根川湯島本郷マーチング委員会では、『湯島本郷マーチング通信』という、地域の企業や商店を紹介するタブロイド紙とWeb版を隔月で発行しています。これには湯島本郷マーチング委員会の活動に支援をいただいている地元企業や商店の協賛広告を掲載しています。また昨年は、湯島・御徒町・上野エリアの商店会のまちおこしイベントを推進するYOUフェス実行委員会の事務局となって、それらの界隈を楽しむためのフリーペーパー『Hajimeteハジメテ』も発行しました。地元の飲食店の“若旦那衆”に紙面に登場願い、まちおこしに協力していただき、自ら地域活性化を進めてもらったわけです。

この他にも、媒体の企画を立てて制作に携わってきています。地域と一体になって媒体制作やイベントの運営に携わっていくことで、当社の社員は経験を積むことができ、仕事への自信がついて成長に繋がっています。これらの経験を基に事業に転換しているのですが、その例として、お客様向けに、当社が行ってきた事業を公開するプライベートショーを開催し、マーケティングのヒントになりうる活動を開始しています。

イベント運営などを事業化し「コトづくり」を積極的に展開

——イベント運営の事業を展開されるようになったのですね。

利根川ええ。またマーチング委員会の全国展開としては、昨年から季刊フリーペーパー『in Japan』を発信しました。毎号テーマを設けて編集制作していますが、創刊号では『祭』を、第1号では『鍋』をテーマに、全国の多彩な魅力をお届けしています。今後は同紙を、マーチング委員会の主力情報紙として育てていきたいと考えています。

——『in Japan』の発行の目的は何でしょうか?

利根川それぞれの委員会が、この媒体を使ってとことん地域と密着して、観光協会とか自治体、さらに地元の新聞社や企業と仲良くなってもらいたいわけです。そうすれば、各種メディアや印刷物などの制作の仕事が受注できるようになるはずです。

——団体間の情報交換はどのように……。

利根川社内に事務局を設けて全国のマーチング委員会の情報を集約し発信しています。基本的にはフェイスブックとメールで情報交換を行っています。フェイスブックでは、各委員会が何か情報発信したいものがあれば内容をアップします。それに対して別の委員会がコメントを返すという交流をしています。イベントの企画についてノウハウや意見を求めたり、活動が上手く行えたり、行えなかったりしたことを情報交換しています。さらに、2月の総会をはじめ、年に3回のイベントを開き、全国の委員会の事例発表、講演会、展示会、懇親会等を開催しています。

——ところで、「お茶の水エデュケーションセンター」を展開されていらっしゃいますが……。

利根川はい。どなたでも手軽に動画コンテンツを制作し発信できる動画スタジオを持っています。ここでは、クロマキー技術などスタジオに設置された最新の機材が利用できるようにし、さまざまな動画制作をサポートしています。また、会議、セミナー、研修会等に利用できるレンタルスペースサービスも行っています。最大50名まで利用できます。

——ビジョンについてお聞かせください。

利根川私たちは、地域の活性化を促す情報を発信していくプラットホームとして、コトづくりとモノづくりを、地域と共有しながら創っていくことが、これからは重要な活動になると考えています。ですから、マーチング委員会を通じて「コトづくり」に積極的に取り組んでいくつもりです。全国の印刷会社さんには、それぞれの地域でマーチング委員会の会員になっていただくのも良いですし、同じような活動を自ら始めてみるのも良いでしょう。是非、皆さんの企業でも積極的に地域に働き掛けて、まちづくりに貢献してください。そうすれば、自ずと道が拓けてくると思います。

「Hajimete」と「湯島本郷マーチング通信」

マーチング委員会が発行している季刊誌「in Japan」や同社が事務局となって制作した媒体「Hajimete」と「湯島本郷マーチング通信」(左から)

(株)TONEGAWAのホームページ

(株)TONEGAWAのホームページ
http://www.tonegawa.co.jp/

まち・地域を愛することが地域の皆さんの共感を得て発展していくわけです。​

———— 利根川 英二

掲載号(2016年5月号)を見る