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(154) 松浦 民恵
これからの企業は女性を活用した柔軟な勤務形態に
厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況2014年版」によると、日本の女性の非正規雇用率(役員、自営業者、家族従業員など含まず)は57%で、男性が22%である。女性の比率がいかに高いかが分かるが、これは結婚して家庭に入り、育児をしなければならない事情が大きく反映しているからだ。このような雇用状況の中で、昨年成立した「女性活躍推進法」はどこまで機能するのだろうか。人材不足が深刻化していくことを考えると、女性を活用していくことは、ますます重要なテーマになってくるはずだ。そこで今回は、株式会社ニッセイ基礎研究所で、女性活躍推進やワークライフバランスなどを専門に研究されている生活研究部主任研究員の松浦民恵さんに、女性活躍推進法、女性社員の活用、企業の雇用・人事システムの在り方などについて話を伺った。
松浦 民恵 MATSUURA TAMIE
- PROFILE
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大阪府生まれ。1989年日本生命保険相互会社入社。1995年(株)ニッセイ基礎研究所へ(2000年に入社)。2008年東京大学社会科学研究所特任研究員。2010年4月生活研究部主任研究員(現職)。博士(経営学)。日本労務学会、日本キャリアデザイン学会、組織学会、日本人材マネジメント協会等に加入。研究テーマは女性社員の活用、中高年社員の活用、男女WLB、非正社員のキャリア形成、人事部の役割など。関連レポート、講演、著書など多数。
生産人口が減少する中で女性の人材をいかに確保するかが問われる
——仕事の内容についてお聞かせください。
松浦人事管理を専門にしています。昨年「女性活躍推進法」が成立したことから、最近は女性の育成や登用に関する講演などの仕事が増えています。人事管理というのは、企業の中で働く人が、意欲を高く持って働くことができて、企業も生産性を上げていくためにはどうすればよいのかということ。働くことを通じて、企業も社員の幸せを実現するにはどうすればよいのかを研究しています。
——昨年「女性活躍推進法」が成立し、今年から実施されることになりましたが…。
松浦第二次安倍政権は、2013年の日本再興戦略で「女性の活躍を推進」することを柱の一つに据えました。それが社会にインパクトを与えたと思います。それ以降女性活躍推進法の成立に向けた動きが活発化し、昨年8月に成立したわけです。そして、従業員301人以上の企業は女性の活躍推進に向けた行動計画の策定などが新たに義務付けられ、事業主は今年4月1日には、自社の女性の活躍状況の把握・課題分析を踏まえた行動計画の策定・届出、情報公開などを行う必要があります(300人以下の企業の事業主は努力義務)。
——なるほど。この「女性活躍推進法」についてはどのようなご意見をお持ちですか?
松浦女性活躍推進法自体は合理的な政策判断の下で成立したと、前向きに評価しています。2030年までの日本の生産年齢人口は数百万人減少することが分かっています。一方で激化するグローバル競争に勝ち残っていくためには、最先端の市場で付加価値の高いビジネスモデルを展開していく必要があります。人材確保のための母集団がどんどん細っていく状況下で、その中からより意欲や能力の高い人材を確保することが、これまで以上に求められてきます。そう考えますと、人口の半分は女性ですから、女性を十分に活用しない手はないわけです。
管理職を見ますと、まだ女性は1割程度にとどまっています。ホワイトカラー職種ではとくに力仕事が必要になるわけではありませんから、男性と女性の仕事能力にさほど差があるわけではありません。ですから、女性の管理職が1割程度に留まっているのは人材を十分に活用していないということで、非常にもったいないと思いますね。
「女性活躍推進法」は、目標設定を女性の活躍においていますので、これまでの男性中心の、男性の働き方を前提とした雇用管理を変えようというメッセージが法律に込められていると思います。従来のどこででも、何時まででも働けることが前提となっている雇用管理では、多分女性は活躍できませんから、その雇用管理そのものを見直していく必要があります。この点で、女性活躍推進法に対しては、一定の評価を与えて良いのではないかと考えています。
——では、経営者はこれまでの男性中心の雇用管理の考え方を切り替えていく必要がありますね。
松浦そうなのです。ただ、女性の活躍の推進には本来は順序があって、女性社員も、「採用」、「定着」、「育成」、「評価」、「登用」という一連の人事管理プロセスを経て育てていく必要があります。つまり、女性の活躍を進めるためには、それなりに時間が掛かるというわけです。
短時間勤務の社員の生産性をいかに高めていくかがポイント
——人材育成ではプランを策定して、じっくりと育てていくしかないわけでしょうか?
松浦はい。それが重要だと思います。ただし、いま働いている女性の中で意欲も能力もあるのに、何らかのスイッチのかけ違いで活躍できていない人がいるのであれば、一方で登用のチャンスを与えていくことも、非常に大切なことだと思います。それは積極的に行ってほしいです。
——女性自身が管理職になりたがらないという意見を耳にしますが…。
松浦実はそれは当たり前なのです。というのは、女性は家に帰ってからしなければならないことが、男性よりも非常に多いからです。共働きで見ても、育児や家事の時間は、女性のほうが男性よりも圧倒的に長いのが現状です。その中で男性と同じように競争をしろと言われても、不利な競争になるのは目に見えていますよね。そう考えますと、「私がなぜ管理職を目指さなければならないのか」と女性が考えるのはごく自然なことなのです。そのような状況下で、女性の中でも管理職を目指して頑張ってみようとか、少し無理してみようかという女性を、企業が引き上げていくことを、しばらくはしていかざるを得ないでしょう。
——企業としては女性が働きやすい職場を作っていくことがポイントになるのでしょうか?
松浦ええ。それは大切です。ただし、深刻なのはそもそも人を採用することが難しい状況になりつつあることです。採用が難しい企業では、子育てのために午後4時までしか働けない女性なども、人材確保のターゲットにしていく必要が出てくると思います。そして、その限られた勤務時間の中で効率的に働いてもらう仕組みを作っていくことが、企業に求められてくるでしょう。
正社員で雇用しても途中で出産や育児によってフルタイムで働けなくなる状況が生じますから、その際の受け皿として柔軟な働き方を用意しておくことが大切になります。短時間勤務になった人材も、その時間の中で最大限の活躍をしてもらうことが重要です。その女性がやがてフルタイムで働けるようになれば、勤務時間をフルタイムに戻して、意欲や能力があれば管理職を目指してもらうという方法が考えられるわけです。短時間勤務をはじめとする柔軟な勤務形態を用意して定着を支援すると同時に、活躍も支援していかないと、いつまで経っても女性の管理職は増えていかないでしょう。その前提条件として、企業は働き方を改革していくことが求められます。業務を棚卸して細分化して、短時間勤務で担当することができる仕事を洗い出すことも必要になって来るでしょう。いずれにしても、定着支援と活躍推進の両輪で取り組んでいく必要があります。
中小企業は経営者の考え方や言動次第で劇的に変革できる
——では、経営者の考え方次第ということになってくるのでしょうか?
松浦そうですね。経営者が女性の活躍を推進する必要性をどこまで理解しているかは、重要なポイントと言えるでしょうね。そして、先ほど申し上げたような柔軟な働き方を用意し、女性の活用を積極的に行う企業は、働きやすい職場として、女性から好印象をもたれるようになり、意欲・能力の高い女性が集まってくる可能性もあると思います。それが他社との差別化につながっていくのではないでしょうか。この女性活躍推進法は、301人以上の規模の企業では、例えば採用者に占める女性比率、勤務年数の男女差、労働時間の状況などから選択して、女性の活躍に関する情報を公表しなければなりません。そうしますと、この企業は女性が働きやすいか、活躍しているかなどが「見える化」されてくるわけです。「見える化」されますと、女性が企業を選ぶことになり、企業は選ばれる側になりますから、意欲・能力の高い女性を採用したいのであれば、危機意識を持って女性活躍推進に取り組んでいかれるべきですね。
——女性男性に関係なく育児休暇制度や短時間勤務が定着し、なおかつ仕事が効率的に行われている企業はどれくらい存在するのでしょうか?
松浦そのような理想的な企業は、実際まだ少ないと思います。先進的な取組を行ってきた企業はそのような形を目指していますが、まだいろいろと課題もあります。女性活躍推進の取組をさほど行ってこなかった大部分の企業は、女性活躍推進に引き続き無関心な企業がまだまだ多いのではないでしょうか。しかし、無関心なままでいますと、企業はますます女性達に選ばれなくなり、意欲・能力の高い女性を採用しにくくなるでしょう。
——まずは女性のために短時間勤務の導入でしょうか。
松浦子どもが3歳までの従業員に対しては、既に法律で短時間勤務制度を導入することが義務付けられています。ただ、制度があっても利用できないということでは意味がないので、利用しやすい環境を整備する必要があります。また、女性を採用するために、短時間勤務の働き方を用意するということも考えられます。
職場のなかにフルタイム勤務と短時間勤務が混在すると、仕事をいかに振り分けるかというマネジメントの業務が複雑化してきます。これは企業にとっては面倒なことですが、これを実行していかないと、これからの人材確保がさらに困難になってきます。ただし、中小企業は大企業よりも小回りが利きますし、経営者の考え方や言動次第で、従業員の意識や働き方をよりスピーディーに変革できるということも期待できますから、むしろ女性が活躍できる職場づくりを目指しやすいというメリットがあります。企業によっては、劇的な変化をもたらすことができるかもしれません。
これからの企業においては、短時間勤務の社員を含めた多様な人材の組み合わせと、企業の生産性向上を両立させていくことが、重要なテーマになってくると思います。今回の女性活躍推進法の成立を追い風にして、柔軟な勤務形態を目指し、女性が活躍し働きやすい職場を作ることができれば、人材確保の施策として他社との差別化にもなります。経営者の皆さんには是非とも、経営戦略としての女性の人材確保・活用の重要性についてお考えいただき、これからの人材不足時代を乗り切っていけるよう、さまざまな取組にチャレンジしていただきたいです。
「ニッセイ基礎研究所」のホームページ
http://www.nli-research.co.jp
