月刊GCJ
GCJパーソンズ
(177) 荒川 徹
メディアのターミナルとして良質なコンテンツを流通
インターネット上にある膨大な情報から、好みの情報や役に立つ情報を取捨選択する時代になったことで、出版社など紙のメディアは、コンテンツをいかに読者に届けていくかが課題になっている。一方、Webメディアも広告がブロックされるなど、デジタル広告のあり方も問われている。そのような状況下、良質なコンテンツを流通させるキュレーションメディアが台頭してきた。その代表格になるのが、㈱グライダーアソシエイツが運営している「antenna*」(アンテナ)である。「antenna*」では350以上のメディアと提携し、日々膨大なコンテンツを受け取り、届けるべき旬なコンテンツを編成して感度の高いユーザーへ向けて配信している。メディアをサポートするビジネス、またコンテンツの流通の仕方やメディアの行方などについて、取締役副社長の荒川徹さんに話を伺った。
荒川 徹 ARAKAWA TORU
- PROFILE
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1981年山口県出身。2007年早稲田大学大学院商学研究科修了。同年株式会社マクロミルに入社。事業会社リサーチ営業担当を6年経験。その後同社経営戦略室で北米事業担当を経て、2014年1月株式会社グライダーアソシエイツに入社。同年4月取締役に就任。現在、取締役副社長として「antenna*」のブランドマネジメント、各種アライアンス・業務提携などを遂行している。
350以上の提携メディアから旬なコンテンツをキュレーション
——キュレーションサービス「antenna*」について教えてください。
荒川現在、テレビ、ラジオ、出版社、新聞社のマスコミ4媒体の他、Web等の350以上のメディアと提携し、各社のコンテンツをスマートフォンアプリ「antenna*」で配信しています。1日1,000件以上の記事を受け取り、その中から、旬な記事を、女性向けの「WOMAN」、男性向けの「MAN」、「おでかけ」など7つのチャンネルに編成して配信しています。お気に入りの記事をクリップ保存することも可能です。
当社の特徴は出版社と数多く提携し、雑誌などのコンテンツも多く扱っていることです。東京で暮らしているユーザーに関心の高い情報を届けるため、『いま気になる。いま好きになる。』をコンセプトに好奇心を刺激するコンテンツとの出会いを提供しています。
——やはりWebメディアが多くを占めているのでしょうか?
荒川元々は比率が多く占めていたと認識していますが、2015年10月にWebメディアの提携数を大幅に減らしました。というのは、 2016年、複数サイトで著作権や監修責任の問題が指摘された事件がありましたが、社内で独自の指標を設けて提携先をそれ以前に見直していました。画像の引用・無断転載など、独自指標を下回るメディアの提携を中止しました。
——編集体制はどうされているのですか?
荒川社内にキュレーターといって、コンテンツを集めて「antenna*」向けに編成するスタッフがいます。いま世の中には毎日膨大な情報が溢れており、生活者は全てを見ることはできず見逃してしまいます。そこで、「antenna*」のキュレーターが、ユーザーに代わって注目すべき旬な話題、少し過去のコンテンツであってもこのタイミングで閲覧すべきものを厳選して集め、お届けしています。また、最近は、イベント情報も集めて、ユーザーの方々に、実際に参加体験してもらう機会も増やしています。
提携メディアとは共同広告商品の取り組みも展開しています。例えば紙メディアに掲載された誌面タイアップ広告の記事を、提携メディアと当社が連携してスマートフォン用にテキストや画像を調整し、「antenna*」でもPR記事として配信する広告商品です。雑誌の広告料に少し予算を上乗せしてもらえれば、「antenna*」でも広告配信できるプランになります。各メディアにすれば、広告二次利用で売上アップのメリットがありますし、広告主にしてみれば、雑誌読者に加えより多くのユーザーに記事を読んでもらえます。雑誌のタイアップ広告=作品とみなし、その作品を長期間、幅広いユーザーに閲覧してもらえるというメリットもあります。
ユーザーの興味・関心のあるデータをメディアや広告主に提供
——「antenna*」にアクセスしたユーザーのデータはどのようにされているのでしょうか?
荒川メディアや広告主に対しては、コンテンツを閲覧したユーザー数などのデータを提供しています。「antenna*」はライフスタイル情報を掲載しているアプリなので、ユーザーの興味・関心、好奇心を刺激するコンテンツと自然に出会えるような構成を心がけています。例えば、アクティブな男性に向けての展開だと、キャンプに興味がある人は釣りにも関心がある。それなら、アウトドアファッションやスポーティな車の記事も紹介しよう、というように、コンテンツの相性もしくは関連性から紐づけてさまざまな情報を提供しています。ユーザーの情報は、タップしてどの記事を読んでいるのかというデータしか取っていませんが、類推して、ユーザーの興味・関心事がどのように広がっているのかを知ることができます。性別・年齢といった情報だけでなく、興味・関心といった切り口から分析できるので、メディアや広告主からも「antenna*」に興味を持っていただいています。
——昨今のWebメディアは記事を読んでいますと、広告が頻繁に表れるのですが……。
荒川その広告の多くは、資料請求や商品販売へ直接繋げていくことに注力しているために、動画や画像のコンテンツが突然記事上に表れたりすることがあります。そうしますと、そのメディアや広告側、企業のイメージが落ちてしまうわけですね。広告によってリーチが増えたとしても、ユーザーが疎ましく思ってブランド価値のスコアが下がってしまうのは良くないわけです。ですから、デジタル広告の出し方をさまざまな関係者が連携して、見直していく必要があると言われています。
一方、マスメディアへの出稿は、企業のメディアリレーションの観点からも見直されてきています。企業が自社商品について、プレス発表や記事を書いてもらう時でも、かつてはメディアと企業の培われた関係から、メディアはPRに協力するということがありましたが、デジタルメディアが趨勢のこの時代では、それがないがしろにされつつある状況があります。メディアとの関係を再構築することは大変な労力とコストが掛かりますから、いま、その関係性を大切にすることが重要になってきており、改めて見直されていると思うのです。
——では、いまは紙メディアが見直されてきているのでしょうか?
荒川ええ。そう思います。ただし、従来のままでは当然厳しいです。回帰している流れに変革で立ち向かわなければなりません。デジタルも含めたマーケティングが重要だとし、マス・デジタルと分離して考えない、広報と宣伝を分けて考えない、など統合した施策が今こそ求められています。加えて、膨大な商品・ブランドの中で知覚品質を訴えるために、さまざまなコミュニケーションプラン、また、生活者とのリアルな体験やイベントに注力する企業が増えてきています。自社のブランドをユーザーにしっかりと認識してもらうために、企業では改めてラジオ、テレビ、雑誌といった、従来の媒体側が持つメディアブランド力を拡張する施策を求める動きが増えてくると思います。紙メデイアの持つコンテンツ企画力・実行力を武器に、その作品コンテンツの流通面で業態を超えた連携が求められるでしょう。
自社のユーザー以外にもコンテンツを流通させることが重要である
——では、企業は出版社に対してどのような活動を望み、また期待しているのでしょうか?
荒川先ほども触れましたが、まさに「コンテンツ企画力」と「そのコンテンツを最大限活用・流通すること」だと思います。他社との差を生み出し、感じてもらう、そして、愛着を持ってもらいファン化するためのコンテンツが必要です。また、生活者が移動手段として使う電車・飛行機・自動車・客船などの空間でも、コンテンツが必要とされています。大きな期待をどう形にし、プロデュースできるかが重要となるでしょう。企業と出版社、広告を出すだけの関係ではもったいないです。昨今、それだけでは企業側も社内を説得して出稿することができません。例えば、出版社がコンテンツをプロデュースした時に、「antenna*」でも記事展開することができれば、雑誌読者に加えて多くのネットユーザーに見ていただけるメリットが生まれます。また、雑誌ではどういうユーザーに読んでもらっているのか細かい点は分かりませんが、「antenna*」のようなデジタルソリューションが加わることで、どんな嗜好やコンテンツに関心を持っているユーザーが記事を閲覧したのか、それらのデータを出版社と企業双方で見ることができます。マーケティングやブランディング施策、クリエイティブに大いに役立たせることができるわけですね。
まとめると、これからの紙メディアは、記事を紙媒体だけに留めておくのではなく、広告主の要望によってネット上でも効果的に発信していけるようにすることが重要です。その際に「antenna*」と結びついていれば、企業に広告の出稿メリットを訴えることができます。それで出版社自体も広告売上が上がる可能性が出てきますし、ブランド向上に繋がっていくと言えるでしょう。
——では、「antenna*」にとって良質なコンテンツとはどういうものだとお考えですか?
荒川個々担当者の感性と過去から蓄積しているデータの傾向を鑑み、最後は人の直感や感性でどう思うか? どう生活者に面白い、届けたいと思えるかだと考えています。良質なコンテンツの安定的な提供には、やはり質の高いコンテンツを提供してくださる一次メディアとの関係性が欠かせません。日々集まる各メディアの豊富なコンテンツから、キュレーターの感性でその時々にユーザーに届けるべき、読み応えのあるコンテンツを選ぶことで、良質なコンテンツが配信できます。
——これからの紙メディアのあり方についてはどう考えていますか?
荒川書店や販売される場所が減少しつつあるといわれていますが、これまで述べてきたように、回り回って、いま、紙メディアのメリットが再びクローズアップされてきています。当社は紙の良さ、ブランドの個性はしっかりと残し、伝えていくことは大切なことだと考えています。しかし、環境が激変する中で、良質なコンテンツを二次的にマネタイズに活用していくことと、自社の読者以外にもコンテンツを流通していくことは、これからの紙メディアが最も考えていかなければならないことではないでしょうか。コンテンツをただ紙面だけに留めておくのではなく、多くのユーザーに届くように、当社のようなキュレーションメディアも意義ある形で活用していただき、より広く流通していくことが求められていると思います。
