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(208) 西尾 竜一
「マンガ」と「音楽」で企業に新たな付加価値を与える
常にアイデアを生み出し、社会的価値の高いビジネスの構築を目指して、アイデアガレージという社名をつけた代表取締役の西尾竜一氏。若者に向けて職業を紹介する書籍・雑誌や、地域産業を活性化させるためのツール制作などの経験を活かし、企業の商品・サービスを「分かりやすく伝える」ための数々のビジネスアイデアを創出してきた。そんな西尾社長であるが、現在主に手掛けている事業は「マンガ」と「音楽」である。社歌を制作し社員のモチベーション向上を図ったり、各種マンガコンテンツで企業の媒体に付加価値を与えたりと、独自のビジネスを展開している。「社歌は今日のネットワーク社会で見直されるべきコンテンツだ」とし、その必要性を説く西尾社長。現在取り組んでいる事業について話を伺った。
西尾 竜一 NISHIO RYUICHI
- PROFILE
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1964年奈良県奈良市出身。87年関西大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社。90年同社を退職。98年有限会社アイデアガレージを設立しコンサルタント業を行う。2000年株式会社日本コミュニケーションセンターを設立しコールセンター事業を展開する。04年まなび総合研究所に社名変更、若者向け職業観を育成する教材を制作。07年株式会社アイデアガレージ代表取締役に就任し、マンガビジネスに特化した事業を開始。2008年『社歌制作ドットコム』を運営開始。社歌作詞家。マンガ構成作家。
企画段階からヒントを見出すアイデアを常に持つこと
Q どのような経営理念で仕事に臨まれていらっしゃいますか?
弊社は、お客様が媒体を通じて商品やサービスを紹介する場合に、どうしたら伝わるのかを共に考え、共に答えを見出していくパートナーになることを経営理念にしています。そのためには企画段階から答えを見出すヒントとなるアイデアを常に持つようにしています。
Q マンガとの出会いについて教えてください。
以前、出版社と組み、子どもたちに対して職業観を育成する教材を執筆・制作したのですが、中身がテキストばかりでしたから、なかなか読んでくれないということで、マンガを取り入れたところ好評を博したことがありました。その教材制作がマンガとの出会いと言いましょうか、マンガビジネスを始めるきっかけになったのではないかと思います。しかし、学校関係はなかなか予算が取れないということもあって、そのうちリクルーティングや商品紹介など、企業向けの媒体でマンガを取り入れた制作の話をいただくようになり、企業向け媒体を中心としたマンガ制作に特化するようになりました。マンガにすれば分かりやすくて伝わりやすいということで、結構引き合いがありました。弊社では、マンガコンテンツは全てオーダーメイドのオリジナル制作をモットーにしています。
Q マンガ制作はまだ成長しているようですが、どのようなマンガを作られているのでしょうか?
そうですね。10年程前は元々漫画家だった社員を含めて登録していた漫画家が15名ほどいましたので、さまざまなタッチのマンガを描いてお客様のニーズに応えていました。特に注力していたのがコンプライアンスに関する社員教育用マンガでした。マンガにすることで、よりインパクトと説得力が出て好評だったのを覚えています。その他、マニュアルや人材採用関係、セールスプロモーションなどさまざまな分野でマンガを採用した媒体を手掛けました。そこでポイントにしていたのはストーリー性のあるマンガで表現するということです。それが他社との差別化になっていたと思います。
Q 社歌を作るようになったきっかけは···。
マンガだけでなく歌も伝わりやすいのではないかと思い、高校生向けに職業観の育成のために歌を作ってみたわけです。友だちに音楽家が何人もいましたので、その音楽家たちに頼んで作ったわけですが、その歌をいろいろな人に聞かせているうちに、あるお客様から「当社の社歌を作れませんか」というお話をいただいたのが、社歌制作の最初になります。そのお客様の社歌を作ったのがきっかけとなり、Webサイトで社歌制作を募集し事業にしたところ、問い合わせがくるようになりました。そもそも社歌のマーケットサイズ自体が大きいものではなかったので、いきなり広がるということはありませんでしたが。
顧客の理念を具現化しインナーマーケティングをサポート
Q ご友人に多くの音楽家がいらっしゃったことが社歌制作に繋がったわけですね。マンガビジネスのほうはどのように展開されていらっしゃるのですか?
昨年、弊社から独立した(株)JOBコミという会社と協業しながら、マンガコンテンツ制作サービス事業を続けていますが、特に私の方では、社歌と同じく「会社の理念を分かりやすく伝える」ということで、マンガ社史や採用マンガといった分野を中心に展開しています。
また、新しいところでは昨年、『マンガ営業力 100本ノック』(著者 :北澤孝太郎氏)という単行本でシナリオ制作を担当しました。かつて甲子園を目指した若いビジネスマンがさまざまな営業の現場で、問題に直面しながらも成長していく姿を描いたものです。マンガの後に問いかけ式100本ノックを掲載している点が特徴です。
Q なるほど。マンガにすれば若い世代にも読んでもらえるようになりますからね。
マンガは多くの世代に親しまれるようになりました。若い世代には文章だけの本は読まれなくなりつつあります。出版不況の中にあって、依然としてコミック本は紙と電子共に伸びています。企業においては会社の歴史を分かりやすく伝える「マンガ社史」への関心も高まりつつあり、弊社でも数社のマンガ社史を制作しました。企業の歴史や出来事をいかにストーリーで表すかがポイントになりますが、社員の皆さんはじめステークホルダーの方たちも関心を持って読んでもらえますから、社史をマンガにするのはお勧めです。
Q 企業はマンガの有効性を認識し、ますます注目するようになってきたのでしょうか?
はい。マンガはさまざまな面で活用されています。マンガを使った販促企画は増えていますね。弊社はお客様の理念を具現化し社員に伝えるというインナーマーケティングをサポートすることを事業のドメインにしています。その際にマンガはもちろんのこと、社歌も魅力的なコンテンツとして考えており、特に注力しています。
Q デジタル化になってマンガコンテンツのあり方も変わってきているのでしょうか?
最初から紙で作らないマンガと言いましょうか、ランディングページでの活用やパソコン上でマンガデータをダウンロードや収集する形に変わりつつあります。企業が販促物でマンガを使う場合はそのような方法になっていくでしょう。
社歌は社員が集まった時のコミュニケーションに最適なツール
Q 一方、社歌制作ではどのようなことを心がけていらっしゃいますか?
社歌は経営者の方の信条や好みが反映されるものですから、依頼主である経営者の経営理念や未来への展望などを十分にお聞きしてから、歌詞や曲を作ることを重視しています。また、音楽に対する好みやどのようなシチュエーションで歌を歌うのかもポイントになります。壮大なオーケストラ風にするのか、若い人に歌ってもらえるようなJ-POP風にするのかなど、社風もあるでしょうから、経営者のみならず社員の方々にもインタビューをすることもあります。とにかく社歌に関しては、末永く愛され続けるものを依頼主の方と一緒に作っていくことをモットーにしています。弊社では『社歌制作ドットコム』を運営し、今日までに100曲以上の社歌を制作しています。
Q 『社歌制作ドットコム』では、どのようなコンテンツがあるのでしょうか?
『社歌制作講座』を設けて、社歌制作の基礎知識、社歌の使われ方、制作ノウハウ、社歌データ、制作実績・視聴、製作プラン・費用などについてお答えしています。
Q 企業が社歌を作るきっかけはどんな時でしょうか?
お客様によってさまざまですが、弊社によるアンケート調査では、「創立○周年記念を迎えるので、それを機会に社歌を作りたい」と言ってこられるお客様が全体の3分の1ほどいらっしゃいます。次に「経営者の発案」が2割強となっています。その他では「企業合併を機に」「グループ全体の歌を作り直す」、さらには「社歌を作って対外的なイメージアップや人材採用に繋げる」といった理由もあります。また、社歌の活用で言いますと、式典において皆で歌唱するのが最も多く、全体の6割近くを占めています。朝礼などで歌い、日常的に活用する企業も2割強いますから、ほとんどの企業が社員の歌唱で活用していることが分かります。それ以外の活用ではブランドソングとして楽曲を制作し、イベントや商品販売コーナー、ショールームなどで流すケースがあります。現在、『社歌制作BOOK』という冊子を無料提供していますので『社歌制作ドットコム』からご希望いただければお送りしています。
Q 社歌はデジタルとは違ってアナログになると思いますが、社歌制作についてどのような考えをお持ちですか?
社歌に関してはデジタル化の反動としてアナログ的な部分を担っているわけですが、デジタル化が進めば進むほど人はアナログを求める部分が出てくると考えています。ビジネスにおいては、デジタル化によってテレワークが普及しますと、社員が一堂に会する機会が少なくなってきます。すると、集まった時にどんなコミュニケーションをとっていくのかが新たなテーマになると思うのです。アフターコロナの時代になった時に何が求められてくるのかと言えば、全社的に一致団結できるシンプルなツールが求められてくると考えています。アフターコロナでコロナの脅威が薄れたとしても、もう以前のように社員が一所に集まって仕事をする機会は減ってくるでしょう。企業では年に数回集会やイベントを開催して社員を集めた時に、何を行うのがいいのかと言えば、皆で歌う社歌なのではないかと思っています。集まった時にいかにコミュニケーションをとっていくかが重要になるからこそ、社歌が注目されるのではないかと考えています。例えば、社員の皆さんのキーワードを集めた社歌を作ってオンラインで流し、各自で歌って覚えてもらい、実際に集まった時に皆で歌うというのは、マーケットとして十分需要があると思っています。それに、社歌はさまざまな場面で活用できる利用価値の高いコンテンツです。社歌を作る際にはプロジェクトを立ち上げて皆で議論しながら取り組むことで、会社を活性化させることができます。社歌制作は重要なインナーマーケティングとなるでしょう。

西尾社長がシナリオを担当した『マンガ営業力100 本ノック』(日本経済新聞出版)
————西尾 竜一
